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“さて、キミはどちらを選ぶんだい?”

暗闇の中、そう問う声が聞こえている
その声はどこか聞き覚えがある感じがする。いつもよく聞いているようなそれ

状況が把握できないので竜也は何も答えないでいると、その声の主はどんどん近づいてきている気がするが相変わらず姿は見えない

“もうすぐ選択の時期が来るよ。キミはどちらかを選ばないといけなくなる”
それを聞いた直後、竜也は不敵な笑みを浮かべた
ふっ、笑止なという感じで何度も首を振ってその言葉を否定すると、見えもしない声の主のほうをいつもの見開きポーズで見据える

“ふーん、それでこそキミだ。まあせいぜい頑張ってくれ。これからとても辛い時間が待っているはずだ”

ようやく声の主のシルエットは見えて来た
それは竜也の予想に違わないそれだった
見覚えのあるショートカットの少女の姿がはっきりと見えてくると同時に、あぁ、これは夢なんだなと直感した
脳が目覚めるかのように、周囲が明るくなり始めてその少女の姿は消えて行こうとしている

「Hasta luego.Adios.」
竜也がいつもの決め台詞と共にその少女に別れを告げると、少女はちらっと笑ったような気がした

"Ate breve, obrigado"


やっぱり夢か...
竜也は目覚めて目をぱちくりさせている
脳は覚醒しきれておらず寝過ごしたかーくらいに考えているが、どうも家のベッドにいる感覚ではない
首を傾げていると、どうも周囲に人の気配がたくさんいる感じ
あれ、これはなんか様子がヘンです(ダビスタ藤枝先生ism)

「竜也...ようやくお目覚めかい?」
声がしたほうを振り向くと、そこには美緒の姿があった。そして,,,大量に眠っている生徒たち。クラスメイトの姿が目に映る
美緒は苦笑しながら自分の首元を指差している。そこには....

“首輪”

「どういうことなんだろうね。私だけじゃないよ。キミにもついているし、他のみんなも同じようにね」
さすがの美緒も困惑している様子だが、いつも通り静かな表情をしているので真意は読み取れない
とりあえず大変面倒な状況に置かれてしまっていることは確かなようだが

「私が一番最初に起きたみたいでね。その次がキミってわけさ」
そう言って美緒はふぅと息を吐いた。正直気味が悪いよねと言って、やれやれという感じで両手を拡げてみせる
竜也はその美緒の様子を見て、芝居がかっているような気さえ覚える。何だろう、この違和感は...
その様子にしているのに気付いたのか、美緒はわざとらしく竜也の目をまじまじと見る

「ふーん、キミは私を疑ってるんだ。心外だね。私とキミの仲だと思っていたのは私だけだったのか...」
言葉こそ悲しがっているが、口調や表情からはそれを全く感じさせない
その様子はいつもの美緒そのもの。ちょっと疑いかけた自分を恥じて謝意を示そうかと思ったが、それはまた恥ずかしさを覚えたのでいつものアレで誤魔化すことにした

竜也はお約束の“見開きポーズ”をすると、天井を見上げて右腕を天に掲げてみせる
美緒はふふと小さく笑うと、「私はどうするのが正解なのかな」と言いながら竜也の拳に自分の拳を重ねた

「....さすがは竜ちゃんと思っていたんだけど、まさか美緒ちゃんが追随するとは思わなかったわ」
いつの間にかその場に光がやって来ていた

どうやら竜也が天に拳を掲げたタイミングで目覚めたようで、何をしているのかと思っていたらまさかの“結束のポーズ”をしているという

「祐里が見たら怒るわよ....除け者にされたってね」
光はそう言ってまだ起きる気配がない祐里のほうを見て小さく微笑む
普段から寝坊に定評がある祐里だけに、よくわからないこの状況下でもなかなか起きないのは当然と行ったところなのだろうか

3人はそれぞれ祐里のほうを見ていろいろ想いを馳せている
今、自分たちが置かれている状況を一瞬忘れていたかも知れない

“「昨日まで、好きだった祐里が急に嫌いになったワガママかな?」と僕は言った”
例によってまた酷い替え歌を竜也が口ずさむと、光は思わず苦笑していたのだったが、まさかの美緒はそれに追随した
“「ううん、それはきっとよくあるコトさ」 裏付けさえないまま私は言った”

まさかのやり取りを聴いていた光は、「あなたたち、祐里が聴いたらマジで怒るからねそれ」と言いながら笑いを抑えるのに苦労している様子

やがて生徒たちは続々と目を覚まし始める

とにかく背がでかい豊川秋生は目覚めるや否や自分のギターを探し出していて、見つけると安堵の表情を浮かべている
同じように田原翔はパニックになったように何かを探していたが、やがてレンチをまるで宝物を見つけたかのように大事に抱え込んで再び席に戻っていた
なぜか棒を愛おしそうに抱きしめている小崎健太などなど個性的なメンバーが顔を揃えている

「何か...いろいろな人間模様を見れて楽しいね」
美緒は目を細めてそれぞれの様子を眺めていたのだったが、光が不意に「竜ちゃん、美緒ちゃんの様子何かおかしくない?」と囁いてきた

そう、それは竜也も最初に感じ取ったそれ。言葉では言い表せないが、どことなく違和感を覚える感じ
とはいえもう“誤解”は解けているわけで、「気のせいだろ。状況がよくわからないからな。何もかもが怪しく思えるのはしょうがないだろ」とさりげなくフォローを入れる

「光ちゃんまで私を疑ってるんだ....かなりショックなんだけど」
いつの間にか聞き耳を立てていたらしく、美緒はわざとらしくしょげた振りをしている
しかしすぐにそれを止めいつもの表情に戻す

「どうしようね。いい加減祐里を起こしたほうがいいのかなぁ。さっき通りすがった時、本気で寝息立てて寝てたよ」
美緒がそう言うと、光も頷いて同意を示す。私も起こそうかと思ったんだけどね、あまりの熟睡さとあなたたちの行動が気になってそちらを優先しちゃったと続けて

竜也はさりげなく周囲を見回している

“教室”とは違うし、そもそもここがどこなのかはわからないが...
まだ起きていないのは祐里と、あともう一人。寝てるのか起きてるのかわからないことに定評のある紅桜大樹くらいに見受けられた

「さて、竜也に任せようか。祐里をこのまま寝かせておいてあげるか、それとも起こすべきか」
美緒はそう言って竜也の目をまじまじと見る

いやぁ、改めて見つめられると照れますねえなどとくだらないことを考えているうち、“クラス”はだいぶ喧騒が強くなってきている
そしてどこからともなく“足音”のようなものも聞こえ出しているような気がする

「しゃあない。俺が起こしてくるわ」
竜也がそう告げ祐里の元へ向かうと、美緒と光は互いに顔を見合わせて小さく頷いていた