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喧騒の中、祐里は変わらずに熟睡を決め込んでいる様子
竜也が寄って体を揺するが反応一つなく、こいつ生きてるのか?と心配になるレベル
とはいえ寝息は聞こえるわけで死んではいないようだが....さて、どうやって起こしたものか

「竜也、揉んじゃいなよ。そうすればさすがの祐里でも起きると思うよ」
相変わらず神出鬼没な美緒はいつの間にかすぐ横に立っていた
遅れるように光もすぐにやって来たが、美緒のとんでもない提案に思わず小さく吹いている

「アホか...俺は片岡じゃねーよ」
竜也はそう言って美緒の頭をこつんと叩こうとして、それをすぐに止めた
危ない危ない。俺は女子には手を上げない主義だった

それに気づいた美緒はまたふふと小さく笑んでいるが、「それにしても起きないね」と感心したように呟く
光もその様子を見て微笑みを浮かべていたが、やがて「早く起こしたほうがよさそうね。何か嫌な予感がしてくるわ」と告げた

近づく足音と共に、竜也も何か胸騒ぎを感じていたので何としても起こさないといけないと思ってはいたのだが

「あ、そうだ。美緒、光。ちょっと耳を貸せ」
竜也は一計を案じてそれを二人に“指示”すると、美緒と光はともに顔を見合わせて噎せた

ったく、キミは酷いやつだなと美緒は言って祐里の耳元で“「昨日まで、好きだったモノが急に嫌いになった
ワガママかな?」と私は言った”と口ずさむ

ん?という感じで祐里が反応を示す中、光が竜ちゃん...何かあったら恨むからねと苦笑しながら同じように祐里の耳元で“「ううん、それはきっとよくあるコトさ」
裏づけさえないまま私は言った”と口ずさんだ

直後、ふざけんなよ!と叫んで祐里が目覚める
まさかの大声で周囲が一斉に祐里のほうを振り向くと、それに気づいた祐里は驚いたようにしゅんと小さくなったのだが...竜也と美緒、そして光が肩を撫でおろしたようにしているのを見て思わず竜也の頭を一発殴る

「ったく、何だよいきなり」
竜也が思わず頭を押さえてそう返すと、祐里は「わかんないんだけどさ。なんか凄いムカついたというか、バカにされた気がしてさ」とテヘペロな様子

「さすがの付き合いの長さね。あれだけ熟睡してたのをあっさり起こしちゃうなんてね」
光が感心したように美緒に向けて呟くと、さもありなんという感じで美緒は頷いている

「昔からそう。竜也と祐里はお互いにどうすればいいかってのがわかってる感じだからさ」
そう言った美緒はどこか遠くを見てる感じで、光にはなぜか寂しそうに見えた

「で、ここはどこなの? 何が起きてるの?!」
ようやく我に返ったのか祐里がそう口走ると同時、“教室”の戸ががらりと開いたので竜也たちはもちろん、クラスの生徒たちは一様にそちらへ視線を向ける

「おうお前ら、席に就け」
そう言って入って来たのは、担任の竹内銀次郎...のはずなのだが、いつもと様子がどこか違う
まあいつも気合の入った厳つい男なのではあるが、それを超越した破壊力を感じる
オールバックにグラサン、そして葉巻を咥えているのだから当然なのかも知れないが

「...あれ、銀次郎だよね?」
思わず祐里がそう呟くと、とりあえずな感じでそれぞれ祐里の傍に腰を下ろした竜也たちはそれぞれ頷いたのだが
いつもとあまりにも違う雰囲気に場の空気すら変わっていくのを感じている

美緒は相変わらず涼しい表情のままながら竹内のほうを黙って見つめたまま、「あまり喋らないほうがいいと思う。少し様子を見よう」と小さく呟いたので、竜也は同意を示すように頷いた
それで祐里と光も追随するように同じく頷いたのだったが、竹内が不敵にクラスを見渡しているうちに続く足音が3つほど聞こえ、やがてでかい銃を持った3人の迷彩服を着たごつい男たちが入って来たので喧騒状態だったクラスは一瞬押し黙った

天パでガタイのいいおっさん、ロン毛で色黒でちょっと小柄なマッチョなおっさん、誠実そうだがこちらもガタイが非常にいいおっさん。3者3様な感じだったが、異様な物々しさを感じさせるそれ
銃を向けられて一瞬静まり返っていた生徒たちはまた一様に騒ぎ出す

「はい、静かにー」
竹内がいつの間にか準備された教卓のようなものに肘をついてそう一喝すると、また生徒たちはそれに気圧されて一瞬で黙り込んだのだったが

「オイお前。いつまで寝てるんだ」
竹内が言った視点の先には、いまだ爆睡敢行中の紅桜の姿があった
その直後。一瞬の出来事だった

誠実そうなおっさんが銃を構えたと思った矢先、美緒が「竜也、危ない」と言って祐里と光と共に少し場所を移動させた瞬間だった

銃声音が響いた
紅桜大樹は何が起きたかわからないまま、別の世界へ旅立つことになっていた
美緒が移動させてくれたおかげで返り血を浴びずに済んだのは幸いだったが、それを喜んでいる状況ではない
竜也が思わずふぅと息をつきかけるが、美緒が「油断しないでね。集中集中」とまた小さく囁いている

いつも以上に落ち着き払っているように見える美緒に底知れない何かを感じながらも、それ以上に今は頼りになるなという思いが強かった
さしもの光も怯えているように見受けられるし、祐里に至っては涙目になりかけている
それで竜也は、あぁこいつスプラッター映画とか苦手だったよなーなどとのんきに考えていた。血NG的な?

「祐里、向こうは見るな。俺らのほうだけ見とけ」
そう言って竜也は祐里の右手をそっと握ると、祐里はうんと頷いて“死体”のほうを絶対に見ないという強い意志を示している

「ふふ、祐里だけずるいな。じゃあ私も」
そう言って美緒はなぜか竜也の左手を握っている。場にふさわしくない状況に思わず竜也が苦笑しかけていると、光も涼しい顔で祐里と美緒の手をそれぞれ握っている

“教室”内は罵詈雑言、悲鳴で騒然としている中、竜也たち4人だけは心の平穏を守っている。そう、まさに....
Tranquilo.だぜ、Cabron.


閑話休題

相変わらず騒然としている教室の中、竹内は不気味な笑顔を浮かべたまま騒がせるままにしている
“兵士たち”も紅桜に発砲こそしたものの、言葉は一つも発しない上にただそれぞれ睨みを利かせているだけ

「ふふ、竜也も同じことに気づいたみたいだね」
美緒が意味深にそう呟いている。どうやら竜也の視線の回し方で気づいたらしいが、今日は本当に洞察力がやばいなと感じた。いつも以上に研ぎ澄まされているそれ

「...とはいえ、出方伺うしかないわな。きっとよからぬことが起きるんだろうけど」
竜也がそう言うと同時、竹内は不意に後ろを向いて黒板に書き出している

文字がはっきり見えた瞬間、クラスの生徒たちは一斉に息を飲むことになる


『プログラム』

「はい、これから3日間みんなには頑張ってもらいます」
竹内は向き直ると、サングラスを外してニヤリと笑みを見せた
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