当日、天気は快晴
見事な遠足日和だったはずが、生徒たちを乗せたバスは予定地とは全然違う場所へ向かっていた
生徒たち全員は深い眠りに落とされての強制連行
最前列に陣取ってその”強制睡眠”を回避した緑川安理と毛利香純はその様子を見てほくそ笑んでいる
「しまった。樋口くんまで眠らせてしまってるじゃないか」
案の定のやらかしでちょっと動揺した安理がそう言うと、香純は渋い表情で首を振っていた
「王子、そもそもこの計画だとヒグチはただ可哀想な目に遭うだけじゃない。”こっち側”にするにしても、一人アブレイユ状態よ」
香純がそう危惧するが、安理はそれについては大丈夫と胸を張った
「現地に準備してあるからそれはいい。それにしても豪華な集いだね。僕は楽しみだよ」
そう言うと、二人は顔を見合わせて高笑いをした
運転席の横に座っていた担任の木村聖英も、人差し指を天に掲げて「イナヅマ!」とやる気満々だった
「それにしても王子、あなたは偉大で寛大なのね。私尊敬しちゃう」
香純がそう言って安理の肩に身を預けると、安理はうん、うんと何度も力強く頷いた
「当然だよ。今のご時世に”殺し合い”なんて行ったら、コンプライアンスに引っかかるからね。あのフレイザードですらフェミニザードに転身するんだから。
今回の計画で大正解だと思ってるよ」
バスはとある埠頭についた
そこで待ち受けていた屈強な男たちが、眠っている生徒たちを次から次へと船に乗せた
そしてその船はどこかの無人島へ到着し、再び生徒たちを積み下ろしてどこかへ運んで行った
「...悠希、起きて。なんか様子がヘンです」
どこぞのダビスタの調教師のようなコメントが聞こえてきたので、悠希は重い目を開けた
そこは見知らぬ空間だった
不安そうな表情で目の前に座っている祐里は、右手で周囲を示してみせた
うん、なんだか様子がヘンですね、これは
やがて、同じように眠りから覚めた高木信嗣と天羽蒼穹、上野麗羅が悠希たちの傍に寄ってきた
「おい、ここはどこだよ。遠足じゃなかったのか」
天性の大声で信嗣がそう叫ぶと、悠希は右手でボリュームを下げろ。じゃなかった、落ち着けと合図を送った
今ここで焦ってもしょうがない、そう。まさに...
いや、俺も落ち着いてるわけじゃないんだけどね。まずは情報収集が先決でしょ、と
悠希を除いた4人が何事かを話している最中に、とりあえず周囲をもう一度見渡してみた
うん、みんな普通にいるね。そりゃもちろん全員ポカーンとしているというか、何が起きてるかわかって理解している人はいない感じだったが
んー、あぁ。緑川と毛利、樋口の姿は見えないね
そうやっているうちに、いつもクールで冷静沈着な水木光と視線が合った
光がどうも、という感じで頭を下げてきたので悠希もキャップを外して同じように頭を下げていると後ろから祐里が頭を軽く小突いてきた
「こら、誰に色目使ってるんだ」
祐里が笑いながらそう言ったので、信嗣は大仰に両手を開いてみせた
「おいおい、杉浦。お前凄いな。堂々と浮気公言か。さすがの俺もこれはフォロー出来んぞ」
そう言ってから、蒼穹と顔を見合わせてやだねったら、やだねと口ずさんでいた
麗羅は悲しそうな表情を浮かべながら、祐里の肩をぽんぽんと叩いた
「可哀想な祐里。光ちゃんじゃあなた勝てるとこないもんね」
それを聞いて4人は一斉に吹き出した。おい、一番タチ悪いの麗羅じゃん、と
「上さま、ひっでぇ」
そう言ってから、祐里は今度は麗羅の頭を軽く小突いた
「なぁ、緑川御一行様がいないぞ」
悠希が小さく呟くと、信嗣がすぐに呼応した。なにぃ、と
相変わらずの大声で周囲が一斉に振り向いたが、気にすることがないのがいかにも信嗣らしい
「...どうかしたんですか?」
いつの間にか5人の傍に光が寄って来ていた
音も気配もなく忍び寄るそれ、あなたは忍者ですか。悠希はそう思ったが、まあ言わないでおいた
思わぬ”来訪者”に戸惑う祐里と麗羅だったが、信嗣は光の顔を見て満足そうに頷いていた
「これは心強い。世界一の頭脳が俺たちに味方してくれるみたいだぞ」
あまりにも大袈裟な物言いだったので悠希は苦笑したが、光と蒼穹が息を合わせて合体技”OUT OF CONTROL”を信嗣に喰らわせたのにはかなり驚いた
ぐえー、やられたーと信嗣の悲鳴が聞こえたのは放っておこう
いつ打ち合わせしたんだよ、と
閑話休題、悠希が緑川一味がいないということを光に教えると、ちょっと考えた様子を見せたがすぐに小さく頷いた
「嫌な予感しかしませんね。絶対面倒なことが起きますよ」
ですよねー、と5人は即座に頷いた
その時歴史は動いた...じゃなかった、部屋の扉が動いた
生徒たちが一斉にそちらのほうを見ると、まず最初にとてもでかい顔、そして巨大なアゴが目立つ長身の老年の男
それから安理、香純。そして担任の木村聖英、そして最後に樋口と異常に縦にも横にもでかい謎の外人が入ってきた
おいおい、何かのパーティーでも始めるんですか、これ
「元気ですかー」
アゴ男がそう叫んだので、生徒たちは一斉に前方に視線を送った
「元気があれば殺し合いもできる、とのことでパラオからやってきた」
アゴ男はそう叫ぶと、担任の木村を手招きした。呼ばれた木村は自分の顔を指差してから、戸惑いつつ”教卓”の前へ
「イナヅマ!」
そう叫ぶと、木村はすぐにアゴ男の後ろに下がって行ったので生徒から失笑が上がった
「もういい、僕が説明しようじゃないか」
安理が教卓に立った途端、生徒たちからは大ブーイングが上がった
信嗣などは今にも突っかかって行きそうな勢いだったが、蒼穹が賢明に宥めていた。カップルの以心伝心って、本当に素晴らしいものですね(水野晴郎ism)
しかし安理にはそのブーイングはどこ吹く風、むしろ自身への歓迎の印と判断したかのように手を振ってそれに応えていた
「君たち愚民たちと僕たちで、ちょっとした余興をしようと思ってるんだ」
相変わらずの高飛車な言い方で、安理は語り始めた
最初にアゴ男はアントニオ猪俣という名で、今回の”催し物”の管理責任者だと安理が言った
・催し物
期間は2日間で、ここ無人島である
まずはペアを組む。男同士は不可、女子同士は人数の都合で承認
島各地に罠や、”武装兵”が散りばめられている
生徒側、緑川側に分かれてのチーム制でのいわば”騎馬戦”みたいなもの
ペアのどちらかが『印』を持ち、それを奪われたら失格
反則なしのDQマッチ
「殺し合いはダメだよ。コンプライアンスとかいろいろうるさいんだから」
安理はそこを無駄に強調してから、さらにルール説明を続けた
夜20時以降の”攻撃”は禁止
食事はそれぞれ支給。食前10分前食後10分後の攻撃も禁止
聞いているうちにどんどん馬鹿らしくなっているのを悠希は感じていた
苦笑してから祐里のほうを見ると、「わかる」と祐里も頷いていた
「さて、最後に。負けた人へのご褒美を発表しよう」
安理は再び巻き起こる大ブーイングに両手を振って嬉しそうに応えた
ご褒美、それはあまりにも酷いものだった
男子は安理支給のふんどし一丁で島から北海道本土まで帰ること
女子は”裸エプロン”で安理邸でのご奉仕という
「大丈夫、僕は貧乳には興味ないから。裸エプロンで”薄い”と判断した場合は、僕の家のプールの掃除だけで帰してあげるよ」
あまりの傍若無人ぶりに、もう生徒たちは草も生えない。木々も枯れる状態だった
さすがの信嗣も怒る気が失せている状態。あー、バカくせと
「説明はもう十分だね。じゃあペアを組んでもらおうか」
安理がそう促した。自分で男同士のペアは禁止と言っているくせに、樋口はどうやら謎にでかい外人とタッグを組むらしい
その辺の矛盾を気にしない安理に惚れる、憧れるー(棒読み)
生徒全員はポカーンという感じだったが、渋々という感じでそれぞれペアを組み始めたようだ
信嗣はすぐ蒼穹に「よろしく頼むぞ」と相変わらずの大声で握手を求めていて、蒼穹にうるさいと頭を小突かれながらペア成立
悠希と祐里も顔を見合わせたが、悠希は横で麗羅がちょっと寂しそうな表情を浮かべているのに気づいた
「なあ祐里、お前は上さまと組めば? 上さまが一人で寂しそうだ」
悠希がそう促すと、祐里はすぐに「お...前?」といつものリアクション
しかしすぐ表情を変え、「私はいいけどさ。悠希、あんたぼっちになるんじゃないの?」
当然のように心配してくれたが、悠希はすぐ光に何度も頭を下げた
「お願いします」、と
「あ、ずっちーなー」
麗羅がそれを見て笑っていた。祐里も、へーそういうことかとジト目で悠希を見ていたが...信嗣は力強く頷いてから悠希の肩を叩いた
「やるな。水木の頭脳を借りようというわけだな。進藤じゃ頼りにならんからな」
信嗣がそう言った直後、今度は祐里と蒼穹に合体技”3K”を喰らって信嗣は轟沈していた
いや、”戦う”前に信嗣が死んでしまうじゃん
そのやり取りを笑ってみていた光だったが、やがて小さく頷いた
「いいですね、こちらこそお願いします」
快諾を得て、悠希は内心ガッツポーズ。いや、下心とかはないですよ
まじさっきの信嗣が言ったのが正解で、光の頭脳を借りたいというのが本音。体力には自信ないからね
そんなこんなで、生徒全員のペアが成立したようだった
天羽蒼穹&高木信嗣
有沢拓司&木野紗彩
井伏幸司&宇梶美里
上野麗羅&進藤祐里
岡田和彦&八森鈴乃
落合由加里&原島眸
川野優雅&鷹見玲奈
清野育人&佐竹野乃
郷力夜目&那須野天珍
近藤天音&安岡朝幸
志垣真音&中邑由樹
杉浦悠希&水木光
友利悠衣&平盛由美里
浜名美浪&渡辺貴明
そして...
緑川安理&毛利香純
樋口智宏&x
「紹介しよう。樋口くんのパートナー、超ベリーバッド・ファレくんだ」
安理にそう紹介されたファレは、「ワタシ、日本語ワカリマセーン」と流暢な日本語でそう語った
じゃあ、あと5分後にスタートと行こうじゃないか
言って、安理はスマホを弄りだした
大音量で「アカツキ!」と流れてしまった上に、香純が障碍者手帳を安理に手渡したので安理はぶちぎれていた