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6月のとある日

「部会」と称した、カラオケルームでの会合
メンバーはいつもの6人、ではなく今日は5人

「もうすぐ試験でしょ。貴方たちも遊んでないで勉強したら?」
校内屈指の才女である光は、誘われると無碍もなくな拒否宣言
とはいえ、口調は鋭いわけではなく、顔には笑みを浮かべていたが

5人の内訳は、バンドメンバーである
竜也(Vo)
直(Gu)
祐里(Ba)
それに元Voの梨華、そしてただのファンである夏未

5人(普段は6人)が集まって、適当に歌ったり喋ったりするだけのかけがえのない時間
「男女」の集まりなのに、“それ”っぽい感情は誰一人見せない、不思議な関係

長身くらいしか取り柄がない(!)竜也と、爽やか系茶髪イケメンな直は不釣り合いの親友関係
たまたま某SNSで匿名で暴れまわっていた二人、あまりの意気投合ぶりに何かの拍子で素性を明かしたところ、
偶然にも同じ学校で同じクラスということが判明し、それからは一緒にいる関係に
竜也曰く、「全てはDESTINO」

陰の者を自任する竜也に対し、赤髪ロングにギャル系ばりばりの祐里
どう見ても共通項がない二人がよくつるんでいるのは、単なる腐れ縁。それも幼稚園からというから筋金入りだ

竜也がよく公言している好みのタイプ、160a以下、話が合う人、スレンダー系
まさにすべて当てはまるのが祐里なのだが、
「イケメン好きー」と常に言ってる祐里に対して、そういう感情を持ち合わせる術はなく
というより、距離が近すぎてそういう関係になることも、感情を持ったことすらなかった

イケメンといえば直だが、どうやら祐里のいう「イケメン」とはまた別のものらしい
直は祐里に好意を持っていなかったと言ったら嘘になるが、6人で過ごす居心地のいい空間を選んだ

元voの梨華、去年の文化祭直前にちょっとした病気でしばらく学校を休んだ
戻ってきたとき、まるで別人のように激痩せして来たのにはクラス中どころか、学年中が驚いたものだった
「おい、あんな美人この学校にいたのか?」
的な

閑話休題、戻ってきた初日にいらないことを言うやつがいるもので
「ママになったの? ママー」
と揶揄した輩がいたのだったが、それに対応した梨華の姿は圧巻だった

間髪入れずに、「誰がママじゃー」と返したものだから、もうそれを話題にするやつはいなかった
とはいえ、どうも病気の関連で声の出がよくないとのことで、バンドのボーカルは卒業させてほしいと言って、
祐里と光が承認したのだった

代理で竜也がボーカルを務め、“パレハ”として直もギターで参戦
急遽4人で参加した文化祭で、なぜか「ファン」になったのが夏未だった

ベースの祐里とギターの光はまあ、それなりに演奏できる腕は持っていた
直はうん、顔で弾いてる感。面がいいから、多少失敗しても許される感じが強い
“一歩踏み出す勇気”で、ボーカルに抜擢された竜也はまあ下手ではないんだが、音域が狭く歌える歌が限られるタイプ

その4人が奏でる演奏に、なぜか心を奪われたのが夏未だった

ばらばらの服装
祐里の提案で、それぞれが一番かっこいいと思った服装で演奏しよう
これが大きな失敗だった

紫を基調としたガチすぎるドレス調の服に、黒のミニスカ、それに網タイツという祐里
まるで「帝大生」のような、黒紋付袴な光
「レアルマドリー」のジャージ一式な直
そして、全身白のスーツ姿の竜也

もう何をしたいかわからない集団なのに、演奏するのは優しい音楽なのだからタチが悪い

その奇抜さにほれ込んだのか、曲や歌声に魅了されたのかは定かではないが、夏未は虜になってしまっていた

1曲目、ギターのイントロが印象深い曲
直による、「俺、そこだけ弾ければ後はどうでもいいや」とのリクエストでの選曲
イケメンがいきなりの見せ場ということもあり、体育館中に女子からの大歓声

服装はともかく、イケメンと美少女が奏でる演奏に生徒たちは聴き入り、そして歓声を上げる
存外な盛り上がりに、演奏している4人は手応えを感じていた
「あれ、俺らって意外にイケてる?」的な

2曲目は、打って変わってハード目な曲
竜也が「シャウトしたいからこれ」という、また意味不明な選曲だったが意外にも大うけ
普段陰の者として存在感を消している男が、真っ白のスーツ姿で熱唱(絶叫)している光景は異様ではあったが

場を戻そう

部屋で祐里が歌っていた

「歌上手いんだからボーカルやればいいのにね」
そう呟きつつ、梨華と夏未は選曲中。竜也と直は曲を聴きつつじゃれあっていたが、そんな時竜也のスマホに着信音

「悪ぃ、ちょい外す」
言って、竜也は部屋から退出していった
ほとんど電話してる光景など見ない上に、まして友好関係がむちゃ狭いタイプ
残された4人は互いに顔を見合わせ、首を傾げていた

ほどなく祐里の歌が終わろうかというタイミングで、部屋の戸が開いた

「誕生日おめでとう、祐里!」
バラの花束と一緒に、光と竜也が登場するサプライズに驚いてマイクを落とす祐里
梨華と夏未、直はしてやったりの笑みを浮かべ、光と竜也に親指を立てた