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廃墟の出口前には、悠衣が言っていた通り夏未のスマホが落ちていた

夏未が拾ってそれを確認すると、ご丁寧に画面に”Warning"と表示されていたので思わず苦笑いを浮かべた
挙句にわかりやすくカウントダウンまで進んでいるのだから、罠なのか何なのかよくわからない状況

残り時間は15分と表示されていた

出口の扉の前に、わかりやすく暗証番号を入れるキーロックがついていた
4桁の数字を入れるそれに、光は小さく頷いていた
「木野ちゃんが言っていた通りね。これなら問題ないわ」

言って、すぐに光が数字を入力すると...扉は微動だにしなかった

「え?」
光はちょっと驚いた様子で、自分のスマホを一度確認した
それから打った数字を確認して小さく首を振ると、3人のほうを見た

「ごめんなさい。パスワードが分からないわ」
光が神妙な表情でそう言うと、3人に頭を下げた

おいおいマヂかよ、竜也はそう思ってポケットに入れてあったから光のメモを確認した
そこには4文字の数字が書かれていて、光が打った数字をそれは一致していた

「...友利にしてやられたのか」
竜也が言うと、光は小さく頷いた
「そうみたいね。さすがに暗号を教えるわけには行かなかったんでしょうけど」
光はそう言うと、スマホをコードでキーロックと繋ごうとしたがどうやら無理なようだった

「ねえ、何回失敗できるの?」
祐里が恐る恐る聞くと、光は「2回みたいね。もう失敗できない」と首を振った

「言いづらいんだけど」
夏未が小さく挙手したので、3人はそれぞれ夏未のほうを見た。夏未はさっき拾った自分のスマホを見せた
「友利さんが言ってたんだけど、これ爆発しちゃうんだって。あと12分しかないんだけど」

おいおい、マジかよ。竜也は再び思った。5分かけてどこかに捨ててくるべきか、それとも...
そこで竜也の脳裏に浮かんだのは、悠衣の去り際の不自然なアレだった

”1、2、3、ダー”
おい、まさか...

「謎は解けたよ。ワトソンくん」
竜也は自信満々にそう言ったので、祐里は速攻で竜也の頭をこつんと叩いた
「うるさい。時間ないんだからふざけないで」
呆れ顔で祐里がそう言ったが、竜也は妙に自信あり気な表情を崩そうとしなかった

「じゃあこれで。じっちゃんの名に懸けて! でいいか? 俺爺さん見たことないんだけどさ」
今度は夏未が竜也をこつんと叩く。いやいや、あんたらツッコミ速すぎだから。つか俺マジなんだっての

ようやく光が反応した。竜也にいつも以上にクールな視線を送った
「...大丈夫? 本気?」

改めてそう言われるとちょっと揺らぐ竜也だったが、友利悠衣のあの言葉と態度からのアレは確信に近いものが生まれていた

「任せてくれ。ここは俺の出番だ」
竜也はそう言ってから、ちらっと笑った
「いい加減俺に見せ場をくれって。このままじゃ代走で生還しただけでヒーローインタビュー受けた大累になる」

意味不明すぎる発言をした竜也は、被っていたキャップを祐里に手渡した
「じゃあ行ってくる」

大仰にポーズを取って、竜也は自信満々に数字を打ち込む
横でそれを見ていた3人はそれぞれ戸惑いと呆れた表情で竜也を見つめたが、止める前にエンターを竜也が推してしまった

”1・2・3・4”

光は思わず頭を抱え、夏未は呆然と天を見上げた。祐里は受け取ったキャップをなぜか被っていて、首を振ってから下を向いた

「...最悪。もう脱出できないじゃん...」
祐里はそう呟いたが、竜也は見開きポーズで扉が開くのを自信満々で待っている

しばし後、カチッと扉が開いたような音がした

祐里、光、夏未はそれぞれ顔を見合わせる。「え、嘘でしょ?」と
竜也は不敵に笑うと、左胸を2度叩いてからの見開きポーズで3人にグータッチを要求した
祐里、光、夏未の順で戸惑いながらそれに応じたので、竜也は扉を押してみた
そしてそれは開いた

「...竜ちゃん、どんな手品使ったの」
光がしみじみと言うと、竜也は即座に頷いた

「さっきの友利のアレだよ。わざわざ1、2、3ってやってくれたじゃん。あれが無意味とは思えなかった」
そう言ってから、竜也は悠衣が散ったと思われる方向を見て小さくため息をついた

「さすがにばらすことはできなかったんだろうさ。けどせめてヒントでも、って思ったんじゃないかな。知らんけど。
爆発に巻き込まないようにって言ったのは、あれは絶対本心だと思う」
竜也が言ったのを聞いて、祐里はキャップを竜也の頭に戻してから何度も頷いた

「どこまで本気かわからなかったけど、あの子の瞳は嘘を言ってなかったと思う」
祐里も同じように悠衣の散った方角を見ていた

「って、もう時間ないよ。早く行かないと」
夏未がそう促したので、竜也たちは扉の中へ入った

そこは不可思議な迷路のように道が繋がっていた
見渡す限りのだだっ広い迷路状の廃坑
廃坑という名目だが、もう完全にただの迷路。政府関係者が逃走を防ぐために何かしらの対策をしていたということなのだろう

完全な暗闇じゃなく、なぜかところどころに明かりが灯っていたのは僥倖だった
光がすぐにポケットからプリントアウトした紙を取り出した
「大丈夫、私に任せて」
そう言って先導を開始しようとした矢先、物陰から一人の女生徒が現れたので4人はそれぞれ驚愕の表情を浮かべた

「遅いわよ。長時間は三十路には堪えるんだから」
そう言って缶ビールを片手に、とても眠そうな表情で高坂聡美が不気味な微笑みを浮かべていた

「...まさか、貴女もThe Elite...?」
光が戸惑いながら聞くと、聡美は不敵な笑みのまま何度も首を振ってそれを否定した

「あんなのと一緒にしないで。ザクとは違うのだよ、ザクとは」
言って、聡美はビールをまた一口
「私はザ・クリーナー。あんたらみたいな悪いやつらを始末するためだけに存在してたのよ」
聡美はそう嘯いて、4人をそれぞれ見据えた

「残念だったわね。暗証番号開けて勝ったと思ったでしょ。けどね、実はそれは死への片道切符だったんだよ」
そう言うと、聡美は目にも止まらぬスピードで夏未が持っていたスマホを奪ってみせた

本当にそれは、”えっ”と思う間もない、素晴らしい身のこなしだった
つか夏未さん、何でまだその危険な爆弾スマホを持ってたんですか...竜也は内心苦笑いを浮かべた

スマホを奪われた夏未は、恐る恐る挙手をしてみせた
それが殊勝な態度に見えたのだろう聡美は、喋ってどうぞとばかりに下手を差し出してみせた

「どうやら私たちの負けみたいね」

そう言ってから夏未は3人に小さく目配せをした。”私に策がある”とでも言いたげなそれ。そして夏未は続ける
「私たちがザ・クリーナーの貴女に敵うわけがないわ。だから...ちょっとだけ時間をくれない?」
夏未はそう言うと、両手を上げてみせた
白旗ポーズ。それを見ていた竜也、祐里、光も同じように両手を上げて降参ポーズをしてみせる

どうやらそれがお気に召したのか、はたまた眠いだけなのか。聡美は大仰に大きく頷いた
「で、あるか。そうね...5分くらいならあげるわ。私がこれと、もう1缶飲む間に逃げれるものなら逃げてごらんなさい」

そう言って聡美は夏未にスマホを戻そうとするが、夏未はそれを拒絶した
「どうしたの? 返してあげるといったのに」
聡美がちょっと怒った感じでそう言うと、夏未は怯えた感じにちょっと震えながら小さく答えた

「疑ってるわけじゃないのですけれど、本当に5分も貰えるんですか? そのスマホでタイマーを設定してもらっていいですか?
そのタイマーが鳴ってから私たちを追いかける。それでお願いできますか」

夏未が今にも泣きそうな感じでそう懇願すると、聡美はさもありなんとばかりに何度も頷いた
「それくらいいいわ。じゃああなたがタイマー設定して」
そう言って聡美は改めて夏未にスマホを渡すと、夏未はとても震えた感じでそれを受け取った
"Warning"の画面が出ないようタイマーをセッティング、5分にして聡美に画面を確認させた

「はい、それじゃ...スタート」
聡美はそう言うと、ビールをぐびぐびと飲み始めた。竜也は躊躇なく夏未を背負うと、祐里と光も猛ダッシュでその場から駆け出した

「竜くん...あと2分もない」
耳元で夏未がそう囁いたので、竜也は必死に駆けた
光の指示は的確で、無事入り組んだ道は抜けていた
そこからは一区切りにされたマス目のような道路


ったく、5分はサービスしすぎたかしら
聡美はあっという間に350缶を2缶飲み干して思案顔
3缶目に手を付けつつ、どうせ逃げても無駄よーと思って思わず含み笑い

それにしても三十路の私がよく高校生やっててバレなかったものね、と自分自身に賛辞を送りたかった
ザ・クリーナーを気取りつつ、一部関係者からは早く結婚しなと煽られていた聡美
「私JKだし」と言っては、失笑してたあいつら
絶対に許さない。”あいつら”脱走者を縊り殺した後、目にモノ見せてやるわ

しかしビールはうまいと思った聡美が、何気なくスマホに目をやった
「って、まだ3分もあるのかよ。ふざけんな」

そう思った直後だった
スマホからピーという電子音が鳴った

「あら、ずいぶん3分って速く過ぎるのね」
そう思って聡美はスマホを持ち上げた瞬間の出来事だった

スマホは大爆発を起こし、聡美の首は胴体から離れるほどの爆風と共に散った

ザ・クリーナーとは思えない、あっけない死...
戦闘能力には長けていたのに、どうやら知能レベルは10歳以下...いや、飲みすぎによる注意力散漫だったのか...
それは誰ももう知る由はなかった


道路を歩き始めた直後、4人の耳に爆音が響いてきた
かすかに届く爆風と共に、夏未は小さくガッツポーズをして見せる
それで竜也は夏未を下ろして、地に立たせた

「...一応私もIQは光とほとんど同じだからね」
夏未はそう言ってしたり顔。竜也はさすがに驚いた様子で何度も首を振った

「最初から狙ってたの?」
祐里が感心したように聞くと、夏未は即座に首を振った

「そんなわけないじゃん」
そう言ってから、小さく笑った

「何となく捨て忘れてたスマホを、あの人が奪った時にパッと閃いたんだ。まさかこんなにうまくいくとは思わなかったけど」
ちょっと含み笑いをしながらそう語る夏未に、光は感心した表情で頷いていた

「私は結局何の役にも立ってないのね...あれだけ大口叩いて恥ずかしいわ。竜ちゃん、銃貸して。自殺するから」
光がおどけてみせると、祐里がすかさずその光の頭をこつんと叩いた

「やめなさい。まだ終わってないんだから。。そして、そんな馬鹿なことするのはって竜!」
案の定、竜也は光に銃を手渡していた。ちゃんと弾が入ってないよとアピールしてからのそれだったが、祐里はまたご立腹だった

「...あんたね。またビンタされたいの?」
祐里がジト目で竜也を見つめると、竜也は被っていたキャップを今度は夏未に被せて笑いながら手を振ってそれを拒否した

「勘弁してくれ。左に1発、右に1発。次正面に喰らったら俺ここで死ぬじゃん」
本気で怯えた様子の竜也を見て、祐里と光、夏未は顔を見合わせてからそれぞれ声を出して笑った


(残り4人。プログラムから退場にて終了)