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階段を上り終えた4人は、下からの爆音を聞いてすべてを察した

「酒樹..」
崩れ落ちそうになる竜也を、祐里が横から支えた
「...よく辛抱したね」

大事な仲間が今日だけで2人もいなくなってしまった
正直心が折れてます、はい

「...じゃあ首輪外すね」
光はスマホにコードを繋ぐと、それを首輪に接続してあっという間に竜也たちの首輪を外した
そしてそれから自分の首輪も

外し終え、光は大きくため息をついた
「ごめんなさい。私が道決めるのに時間かかりすぎたせいで」
そう言って、光は再び頭を下げたが”ちょっ待てよ”とばかりに、竜也はすぐにそれを制した

「水木は悪くないからな。全て俺が悪い。俺の責任」
竜也が神妙に言うと、祐里と夏未は二人同時に首を振った

「誰も悪くないから。自分を責めないで」
祐里がそう言うと、夏未は小さく微笑んで頷いた

竜也はそれを聞いて、キャップを脱いで頭を掻くとすぐにまた深々と被ってばれないように涙を拭った
ほんと今日は涙腺崩壊してダメやね。おじちゃんもう歳だわ

「さて、また分かれ道なんだけどね。どっちにしようかしら」
急に光が大声でそう叫んだので、竜也はぎょっとした
祐里と夏未も戸惑った表情で光のほうを見ると、光は不気味なほどの静かな笑みを浮かべていた

「ちょ、光。どうしたの?」
祐里が慌てて聞いたが、光の視線は全然祐里のほうを向いていなかった
明らかに誰かを探している、そんな気配

「いるんでしょ? 出てきなさいよ」
光が遠くに向かってそう呼びかけると、一人の人影が徐々に見え始めた

その影が見えると同時に、光は竜也に一枚のメモを手渡した
「いい? 彼女が私と対峙する前にあなたたちは行って。彼女は私が始末するから。すぐ合流するから安心して」

光はそう囁くと、右目でウインクをして合図を送った
竜也は一瞬の逡巡の後無言で頷くと、祐里と夏未の手を引いて人影が見えた方向と逆の道へ向かった
祐里は少し抵抗したが、やがてすぐに引かれていった

3人が逃げて行ったのは見えていたはずなのに、現れた人影・友利悠衣は悠然としていた

「いいの? 一緒に逃げなくて」
悠衣は不敵に笑うと、光も同じように不敵に微笑み返した
「ふふ、その必要はないでしょ。貴女の目的は私なんだから」

光の言葉を聞いて、悠衣は何度も頷いた
「そうね、その通りだわ。けどね、もう遅いの」
そう言った悠衣はとても不満そうだった
どこか寂しそうで、どこか嬉しそう。とても複雑な笑みを浮かべている

「あなたのせいで私のキャリアは台無しだわ。どうしてくれるの」
悠衣はそう言いつつ、光に向けて銃を構えた
それでも光は涼しい顔で受け流す。やれるものならどうぞ、と
その光の態度に、悠衣はやれやれという感じで銃をその場に投げて首を振った

「...何なの、あなた。どうして私が撃たないってわかってるの?」
悠衣が笑みを浮かべながら聞くと、光は静かに頷いた
「貴女がやれるならとっくにやってるでしょ。貴女は17時を過ぎるとこちらに手出しは出来ない...違うかしら?」

光がいつものようにクールに笑うと、悠衣はすべてお見通しなのねと言わんばかりに小さく首を振った
怒りを通り越して、感心している。そんな状態

「もういいかしら? 私はあの子たちと一緒に行く約束があるのよ」
光がそう言って竜たちの後を追おうとすると、すぐに悠衣がその目の前に立ってそれは制した
ちっちっという感じで、悠衣は自分の目の前で右人差し指を振って見せる

「それはダメね。あなたにはここで消えてもらうわ」
悠衣はそう言ってから天を見上げた
「私の命に代えてもね。報いを待てや水木光」

一瞬光は目を丸くしたが、やがてすぐに静かに微笑みを浮かべた
「手を出せないのにどうやって?」

光がそう言うと、悠衣はふふふと笑いながらスカートのポケットから小さな箱を取り出した
「てれれてってれー。じばくそうちー」
まさかのゆいえもん降臨。意外なクオリティの高さに光は思わず失笑した

「あなたはここで私と一緒に死んでもらうわ。。そして、無事逃げ延びたと思ってるあの子たちも...」
悠衣はそう言って、竜也たちが逃げて行った方向を見てちらっと笑った
「私からプレゼントを準備しておいたの。気づいてくれると嬉しいな」

その一言で光の顔色がさっと変わった。それに気づいた悠衣はとても満足そうに笑みを浮かべて頷いた
「あなた凄いのね。自分の心配より仲間のことのほうが大切なんだ」
悠衣がしみじみと言うと、光は即座に首を振った
「そんないいもんじゃないけどね」
言って、光は遠くを見た

「貴女には経験ないのかしら。誰かに頼られるっていうこと。アレは悪くないものよ」
光の言葉を受けると、悠衣はあははと声を出して笑ってから光の顔をまじまじと見た
クラスで”委員長”をしているときには絶対に見せなかった闇に落ち切っている表情は、16歳か17歳の美少女のそれではなかった

「...聞いただけ無駄だったわね。ごめんなさい」
光は心からそう吐いた。思わず同情してしまいそうな自分がいた

「ふふ、気にしないで。私も好きでThe Eliteだったんだから。
それよりいいの? あなたが助けに行かないとあの子たちも死んじゃうのよ??」
悠衣は急にバカにしたような表情を浮かべると、光をそう挑発した

言われるまでもなく、光はずっとどうすればいいかを内心思案していた
どう足掻いても身体能力では勝ち目がない
現在のように最初から接近戦の場合は一体どうすれば。まして相手はいつでも死ぬ気満々という
...竜ちゃんを残しておくべきだったかしら??
あ、それは無理ね。祐里がまた不貞腐れるか...


光と悠衣の視殺戦が続いている
悠衣はバカにしてるのか、なかなか”自爆装置”とやらを起動させようとしない
その理由を突き止められれば...光はそこに活路を見出すことにした

「どうしたの? 自爆しないの?」
光はあえてそう挑発すると、悠衣は再びふふと小さく笑みを浮かべた
それからすぐ光のほうを見て大きく頷いた

「自分に”光”のある状況を当たり前と思ってるのね、あなたは。当り前じゃないのよ、そう当たり前じゃないの。そこを覚えておいてほしいな」
悠衣はあえて芝居ががった口調でそう言うと、あえての見開きポーズで光を見て挑発した

光は悠衣の挑発を受けていたが、直後一瞬目を丸くしそうになった
悠衣の背後から現れた”それ”は、口元に指を当てて、光を制した

?!
悠衣が何かに気づき、振り向こうとした瞬間...
背後から現れた竜也が、唐突に悠衣を軽々と持ち上げていた
悠衣の持っていた箱を光に投げ渡すと、そのままノーザンライトボムの体勢からエメラルドフロージョンの要領で地面にたたき落としていた

”バレンティア”(勇気)
直と練習してた成果を、ぶっつけ本番でやってのけてみせた

「...ちょっと、竜ちゃん。なにやってるの?!」
光がそう呼びかけると、竜也の後ろから祐里と夏未もすぐに現れたので光はさらに驚いた表情を浮かべた

「...ごめん、道に迷っちゃった」
祐里は笑みを浮かべながら、夏未と肩を組みながらそう言った

「って、竜ちゃん。友利から離れて」
光がそう言ったので、竜也はすぐに距離を取って4人が横並びで悠衣の出方を伺った

「...たく。何なのよ全く」
特にダメージもなさそうに悠衣はすぐに起き上がった
さすがやねー、と攻撃した張本人の竜也は内心感心しつつちょっとだけ驚いた

「もうどーでもよくなっちゃった。さっさと行けば?」
悠衣はしっしっと追い払うような仕草を見せた
どこまで本気かわからないので、4人はまだ様子を伺う
それに気づいたようで、悠衣はすぐにまたふふと笑みを浮かべる

「これが仲間か...羨ましいわね。私は”洗脳”でしか仲間はいなかったから」
悠衣はそう言って、下の階層を見つめた
なるほど、豊田を”操ってた”のは悠衣だったのね、と改めて光はそう思った

「道に迷ったとか言って、わざわざ助けに来てくれる。水木光、あなたはいい仲間を持ったね」
悠衣は本心からしみじみと言ったが、それを聞いていた竜也は照れ臭そうに右手を振った

「いや、ガチで道間違えたんだが...」
竜也がそう言うと、光は頭を抱えてみせた
どこをどうすればそうなるのよ...と。やっぱり私がついてないとダメなのか...

「あのね、私がこっちのほうだよ、こっちのほうだよって案内してたら...ねぇ」
夏未がそう言ってテヘペロな雰囲気を醸し出すと、祐里も同じようにテヘペロ
「あのさぁ、私は竜ちゃんにメモ渡したよね? 見なかったの?」
光がそう問いただすと、竜也はあっというように目を見開いた
「...忘れてた」

そのやり取りを最初は呆けた表情で見ていた悠衣だったが、最後のほうはもう肩を震わせて笑うしかない様子だった

「もうね、いい加減にしてくれるかな。なんだかあなたたちと一緒に居るとおかしくなりそうだわ」
悠衣は下を向いて首を振ってから、夏未のほうを向くとちょっと手招きした

「私?」
夏未がちょっとたじろいだ様子を見せると、悠衣は笑って首を振った
「大丈夫、何もしないわよ。あなたに何かしたら、そこの王子様がまたプロレス技仕掛けてくるでしょ」
悠衣が竜也のほうを見ながら冗談めかして笑うと、竜也はいつもの見開きポーズで夏未を見据えて頷いた
それでもちょっと不安げな様子の夏未だったが、悠衣が再び手招きしたのでしぶしぶ近づいて行った

「あなたのスマホ、出口に落ちてるけど拾わないでね。爆弾が仕掛けてあるから」
悠衣はそう夏未に告げると、夏未は戸惑いの表情を浮かべながらも小さく頷いた

「さて、もう時間がないわね。早く行ってもらえるかな?」
悠衣はそう言って、再びしっしっと追い払うポーズを見せた
何だろう、何かとても打ち解けた雰囲気を感じていた祐里は思わずこう言ってしまった

「友利さ...あなたは一緒に行けないの?」
思わぬ提案に、竜也と光は思わず祐里の顔を見たが...祐里の目は真剣だった
そしてそれを聞いて、夏未も同意していた
「そうだよ。あなたも一緒に行こうよ」

祐里と夏未の真剣なまなざしを受けた悠衣は、即座にかぶりを振った
「...お気持ちだけありがたく受け取っておくわ」
そう言うと、悠衣は寂しそうに遠くを見つめた

「あなたたち... お人好しにもほどがあるわよ。私のことはいいから、もう行きなって。あと5分でそれ、爆発するよ?」
悠衣は言って、素早い動きで光から箱を奪い取った

目にも見えない素早い動きに、4人は驚嘆した。これがThe Eliteの本気ってやつなんだろう
それから悠衣は4人をそれぞれ後ろから後押しした

「ほら、早くしないと巻き込まれちゃうよ。行った行った」

どうやら時間は本当にないようだった
竜也が祐里、光が夏未の手を引いて前へ進みだすが祐里は必死に抵抗していた

その様子を見ていた悠衣はおかっぱ頭の髪を掻くと、ちらっと笑った
「杉浦。ちゃんと引っ張ってあげなって。マジで危ないからさ。1、2、3、ダー!」
なぜかしゃくれた感じを入れ、ちょっと大きめな声でそう告げると、悠衣は別の方向へ歩き始めた

「...生まれ変わったら、今度はあなたたちの仲間に入れてもらうわね」
悠衣は聞こえないようにそう呟くと姿を消した

未練がましく後ろを振り返っていた祐里だったが、竜也がセクハラ行為よろしく抱きついて必死に前へ誘導したのでようやく諦めてくれた

何度もため息をついた祐里に対し光が、「彼女にも事情があるのよ」とちょっと寂しそうに言った


そして4人が廃墟の出口に辿り着いたと同時、遠くのほうから爆発音が聞こえてきたのであった