勢いづいた西陵の猛攻は止まらない
完全にパニック状態になった藤波は制球を乱し、樋口に対して全て頭部付近へすっぽ抜けるボールで四球
よく逃げた、よく生き延びたと褒めてあげたい状況。よく頑張った、感動した！！（小泉ジュンジュンism）
それを見て慌てて控え投手の辻内がアップを開始したが、すぐに登板できる状況ではない
一度伝令で間を取った上で藤波は続投。続く高井と相対するが、完全に闘志を失った藤波のボールには球威がまるでない状態
置きに来た真っすぐをジャストミートするが、まさかの打球はセカンド正面
ショートからホワストへ転送され、併殺で勢いは途絶えたかに見えた
しかし藤波は相変わらず藤波だった
万田、須磨に連続四球を与えると、続く天満の初球にまた頭部付近へすっぽ抜ける暴投寸前のえぐいやつ
警戒心ＭＡＸだったので無事逃げることはできたが、もう危なくて仕方ないやつ
さすがにもう限界と判断されたのか、ようやくここでピッチャー交代
大型左腕の辻内が１－０からマウンドに上がるが、打席は左殺しで名を売る天満
初球の甘めの真っすぐを完璧に捉えると、三遊間真っ二つで打球は抜けていく
２アウトということもあり、好スタートを切っていた万田は悠々生還でなおも２死１、２塁
続く近藤は当たれば飛ぶが、何でも振る超絶フルスインガーがネックの右打者
打席に向かう前、渡島が何事かをアドバイス。普段あまりしない行動だったので、横に立っていた祐里はキョトンという表情
ネクストへ向かう竜也に対し、祐里は今の渡島の行動を思わず訊いている
「何言ったんだろ」
「多分だぞ。初球は絶対振るな。とかじゃね、シランケド（国分優作ism）」
マジでわからんわという感じで、竜也はニヤリと笑みを浮かべて改めてネクストへ
その笑顔を見て、祐里は何でこいつはこんな余裕なんだろと思わず苦笑している
打席に入っている近藤は、いつも以上に闘志を漲らせている
体躯は大柄でマッチョバディ、とにかく見た目の迫力がある近藤（目は優しいけど）に対し、道院側はデータがほぼないので警戒心ＭＡＸ
まさかの４球続けてボールを、これまた奇跡のすべて見送りのホアで近藤が出塁
２死満塁で竜也に打席が回って来る
久々の右打席だったが、狙いはもう一つだった
左より右のほうが“長打”が狙えるので、目指すは遥か彼方レフトスタンド
気分は高揚しているが、竜也は妙に冷静だった
手に取るように、相手の投げてくるボールがイメージできている状態
初球はボールから入り、２球目は真っすぐでストライクを取りに来るだろう、と
じゃあそれを狙いましょう
辻内が投じた初球はスライダーで、足元に沈むそれ
余裕で見逃すことも出来たのだが、あえて打ち気にはやるそぶりをみせる
審判の手は上がらずボール判定。マウンドの辻内は不満げな様子だったが、竜也は静かに構え直している
あくまで平常心で、スタンドの応援がはっきり聞こえるくらい無の極致
そしてその２球目だった
左投手辻内のストレートは唸りを上げて外と思いきや、真ん中よりにシュート回転で入って来る
竜也は待ってました、とばかりの強振でそれを捉えると、打球はぐんぐん伸びていく
本人的には決勝戦のアレと並ぶくらいの手ごたえを感じるそれ、ボールは左中間スタンドに飛び込んだかに見えた
しかしあと数センチの差でフェンスオーバーとまでは行かず、無情にも再びのスタンディングトリプル
走者一掃で７－０というスコアになったのだが、竜也は三塁塁上で悲しそうに天を見上げている
その様子には気づかず、ネクストに向かう浩臣が祐里に対し「何だよあれ。あいつ、悪魔に魂でも売り渡したのか」と呆れたような、感心したような口調で声をかけて行った
思わず祐里は笑ってしまい、それから竜也のほうを見るとなぜか三塁スタンドへ向けて手を合わせて謝罪をしている姿が目に入って来た
いや、マジで意味わからんという感じで祐里が思わず苦笑しているうち、和屋は気を取り直した辻内の剛球に３球三振に打ち取られていた
グローブを取りに戻ってきた竜也に対し、祐里はそれを手渡しつ“塁上のアレ”を尋ねてみると竜也は苦笑して小さく首を振った
「美緒に“サイクルヒット”と“両打席ホームラン”をお願いされたんだけどさ、無理だった。ごめんなって」
言って何事もなく竜也は守備位置へ向かって行く
呆気に取られる祐里に対し、しっかりとそのやり取りを聞いていた渡島はやれやれといった表情
「ようやく納得したぞ。三塁打打ってまるで嬉しそうにしなかった理由がな」
マウンドに上がった須磨、普段は後ろで投げることが多いタイプの投手
今日は相手が藤波ということで、先発のマウンドへ
ストレートに自信があり、浩臣が“俺より速い”と太鼓判を押しているそれ
肩が出来上がるのも速いが、その分スタミナには不安があるわけだが
大量リードを貰ったこともあり、須磨は落ち着いたマウンド捌きを見せている
３番のお金を好きそうな金髪ネックレス捕手に単打を許したものの、無難に４凡で切り上げている
続く２回は浩臣がヒットで出塁したが樋口の豪快な併殺もあり、陵西の攻撃も無得点
そして早々とその裏の守備から浩臣を下げ、京介をショートに入れて竜也をセカンドに廻す采配を披露
「まあいつものことだが、今日は全員試合に出るつもりでいてくれ。必ず使うからな」
試合前の予告通り、そして大差がついたこともあってそれを実行しようということなのだろうか
「伊藤は次の試合の登板に備えてだ。後でブルペンで軽く投げておけ」
須磨は２回裏に被弾したもののその１失点に纏め、３回の打順で代打を送られてお役御免
４回に再び先頭打者で打順が回った竜也は左中間を軽々と破る二塁打で“サイクルヒット”に望みを繋いでいる
道院の３番手根尾は後続を締め追加点はなかったが、陵西のマウンドに上がった高井も２イニングを被安打０、奪三振４、四死球５という怪投をみせる
試合は一気に均衡していくが、意にも介せず渡島は積極的にメンバーを入れ替えていた
５回から久友がマウンドに上がり、高井に代わって御部がサードに入って樋口がホワストへ廻っている
ベンチで暇そうにしている岡田に対し、祐里が「今日はお休みなの？」と軽口を叩くと岡田は苦笑して肘を抑えてみせる
「実はちょっと痛めてるんすよ。隠してたんだけど監督にはバレてました」
岡田のそれを聞いて、祐里はポンと肩を叩いている
「次までに治さないとね。陵西の未来は岡田とリュウロに懸かってるんだから」
祐里があははと笑いながらそう返すと、岡田はまた苦笑して首を振っている
「俺と貴崎だけじゃ無理っすよ。他に誰かいないんすか？」
真顔で岡田にそう返され、祐里はちょっと首を傾げるがすぐに頷いてまたあははと笑う
「成田もいるし、賢人もいる。後は...なんだっけ、ストリップマンくんもいたね」
言って、“このクソナイを照らす 絶望を君に 呆れる皆を背に ストリップ”
GOGOレッツゴー ストリップマン
と、とんでもない曲を口ずさみつつ渡島の横に戻っていく
「ストリップマンて。中野のこと？」
岡田が思わず呟くと、普段は表情をあまり見せない竜路が杉浦先輩がそう呼んでましたと思わず笑みを浮かべて返している
それで岡田は、ホントとんでもない人だわと感心した表情を浮かべている
俺には変なあだ名付けられてよかったとしみじみと思いながら