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ディナーは焼肉だった
とはいっても食べ放題とか安いものではなく、超高級な店のそれ

「うちの系列だから安心して食べてね」
お代を気にせずたくさん召し上がれとの美緒の仰せだが、ド庶民の竜也はメニューを見て思わず尻込みをしている

「あはは、竜が困ってるよ」
祐里が茶化すが、竜也は素で困った様子で美緒にタブレットを丸投げしている

「ホント竜也はしょうがないなあ」
美緒は朗らかな笑顔を浮かべつつ、慣れた手つきで操作して注文を行っている
焼肉きんぐとすたみな太郎しか来たことないんですよ、お値段が出てる焼き肉屋は初めてなんですよと

店に入った瞬間から、場違いだわと思い知らされた上に、“お嬢様、よくいらっしゃいました”のセリフを聞いて改めて美緒の上級ぶりを思い知らされてのコンボ炸裂
送ってくれた美緒の母からも「たくさん食べて明日も勝ってね」と激励されたのだが、その車がまあ見事なまでの外車でその時点で竜也はKO負けしていた状態

「あ、飲み物は黒ウーロン茶にしといたけどよかった?」
美緒がそう訊くと、竜也は頷いたが祐里は不満げな様子を隠さないので美緒はまた微笑みを浮かべている

「麦のジュースはご法度だよ。確かに祐里は18歳で成人してるけど、お酒は20歳から」

まさかのマジレスを受け、祐里は硬直している。それを見て、ようやく竜也も我に返った感を覚え始めている

「うん、せめて明日勝った後のビールかけにしてくれ。今飲んだら明日失格処分になるわ」
年齢を考慮しない適当なことを物申すと、美緒は笑みを浮かべたまま頷いている

「もう勝つことは前提なんだね。それでこそ竜也だ」

満を持してのお食事タイム
すいません、言葉になりません。こんな旨いものをたくさん食べていいのですか状態
普通に勘定したら、「お幾ら万円」になるのというレベルのそれだったが、美緒が竜也の食べっぷりを見て委細気にせず注文している

「ホントすごい美味しいわこれ。美緒ありがとね」
祐里が素で感謝の意を示しているが、美緒はやめてという感じで被りを振ってそれを拒否している

「私は何もしてないから。竜也と祐里が来てるなら、3人で食事してきなさいって親が言ってくれただけだからね」

もう食べれないと祐里が即効轟沈し、竜也も明日に差し障るわと言いながら食べまくりでの終焉
美緒は終始涼しい表情のまま、優雅にそれを見届けて自分も食事を終了している

「食後のデザートもあるからね」

至れり尽くせりの空間で、明日の決勝への“覇気”を奪われかねない空間だったが、逆に言えば英気を養う最高の状態

「こんないい思いさせてくれたんだから、明日は絶対勝つわ。それくらいじゃお礼にもならんだろうけど」
竜也がアイスに舌鼓を打ちながら、珍しく美緒の目をしっかりと見据えてそう話していると、祐里も同様に頷いている

「私は何も出来ないけど、ホント明日の優勝は絶対見に来てね。西陵は必ず勝つさ」

スイーツも終え、あとは時間までジュースを飲みながらの歓談タイム
そういえば! という感じで、美緒が急に話題を振って来た

「今日の試合中にね、なんか小さい子が寄ってきて。一緒にバンドやりましょうっていきなり誘われちゃったよ」
へえ、それは凄いねと祐里がリアクションしているが、竜也はまさかなという思い。青井が美緒をバンドに誘ったとか?
いや、あいつ1年だし。美緒のこと知らないだろと

「西陵の“ロスインゴ”で一緒にやりましょうだって。さすがにびっくりして言葉も出なかったよ」
案の定の結果に、竜也は知ってたと呟いているが祐里は目を丸くして驚いている

「青井かぁ。なんで美緒のこと知ってるんだろ」
祐里のつぶやきに、美緒は私がそれ一番知りたいよと苦笑している。とかくいろいろ謎の多い青井だけに、すべて調べ上げたうえでの行動かも知れない。シランケド

「さすがに断ったけどね。無理だよって」
美緒はそう言っているが、竜也と祐里から文化祭にエントリーされていることを伝えられて苦笑している、行けないからねと念押しされて

「ホントは私も行きたいんだけどね。さすがに勘当されちゃうよ」
やれやれといった感じで美緒が話している。無理強いをする気はないし、そもそも出るつもりもないんですけれども

そんなこんなで、楽しい時間はあっという間に過ぎている
そろそろ迎えに来る頃かなという感じで、3人は店を出ることに
外に出てから美緒がLINEに目を通し、もうちょっとみたい。早かったかなと言って小さく微笑んでいる

「夜風に当たるのも悪くないだろ。明らかに食いすぎたし」
竜也がそう返すと、祐里はあははと笑って同意している。たくさん食べたし、美味しかったし、幸せだと浮かれている

祐里は美緒を連れ、竜也を置き去りにしようと走り出している
駐車場だからあぶねえぞと竜也が声をかけるが、とても楽しそうにおどけている2人

そんな矢先だった
祐里と美緒が車線へはみ出した直後、突如明らかにスピード違反をした車が向かって来ていた

あぶねえ!
竜也は声をかける間もなく、とっさの判断で二人を庇う形で歩道のほうへ引っ張り上げることに成功した

「ったく、ガキじゃねえんだからはしゃぐなよ」
打ち身状態、奇麗に受け身は取れたので3人とも外傷はなく済んでいる
竜也は天を向いて風と大きく息をついているが、祐里と美緒はそれぞれ泣きそうな表情に変わっている

竜也にしがみついて震える2人に対し、無事でよかったわと言ってそれぞれを立たせてから自分も立とうとした瞬間、足首と股関節に激痛が走った
やべっと思いつつ、2人にバレないように表情を繕うことに成功し、しばらくすると痛みは消えていた

「やっぱり竜也は私の王子様だ。2回も助けられちゃったね」
と言っておどけたふりをみせる美緒、そして祐里は神妙な表情
「最悪。竜に貸し作っちゃったよ」
言って、まじまじと頭を下げている。はいはい、2人が無事でよかったですという感じで、竜也は照れ臭そうに背を向けて右拳を高く上げているだけ

美緒はふふと笑って同じように右拳を合わせると、ずるいよと言いながら祐里もそれに追従している

しばし後、祐里の母の迎えの車が来た
車内で美緒は散々竜也を褒め称えていて、祐里も最初は渋々だったが最後には美緒に同調している
美緒の母も何度も竜也にお礼を言っていたが、竜也は居たたまれないうえに痛む股関節と足首に内心焦りを覚えていた