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文化祭当日
クラスの出し物はほどほどに関与するだけにとどめ、竜也と祐里は“時間”まで適当に時間を潰している

隣のクラスで“食事”をした際、『バカップル様ご来店』と声を掛けられると、祐里はどうもねーと言って手を振る始末。竜也にも応じるように呼び掛けるが、さすがにそれには乗らなかった

「そういや光に誕生日おめでとうって送ったんだけど」
竜也がそう話すと、祐里も静かに頷いていた。それ以上は話す必要がないよね、という話。相変わらず未読のまま

「何が何だかなって」
紅茶とクレープを堪能しつつ竜也がそう呟くと、祐里はまた小さく頷いている。ホントわからないよねと続けて

頑張ってね、優勝してねと声を掛けられたのが遠い昔の出来事のように思えてくる

「つかこのパンケーキ美味しいんだけど」
祐里が思わずそう呟くと同時、呼んだ? と“厨房”から声が届いた

「って松山かよ」
竜也は声のしたほうを見て思わず声を上げ苦笑している。てっきり女生徒が作ったと思ったそれ、まさかのサッカー部主将のお手製だったのかという衝撃の事実

「俺だけじゃないけどな。杉浦食べてるクレープは本郷が作ったし」
松山はニヤリと笑うと、すぐに厨房へ姿を消している。あ、演奏期待してるからな。青井から聞いたと言い残して

「意外な才能だね。私より料理上手いかも知れない」
祐里はなぜか悔しそうにそう話していた


§


“ライブ”がスタートしている
青井と詩音の出番は最後、そして竜也と祐里が参加するのは2曲終わった後の締め

2人は控室で出番待ちをしていると、よぅという感じで浩臣が来訪

「噂には聞いていたが、どっちもすげー衣装だな。ガチじゃねえか」
浩臣が茶化している。竜也は例によってマント状態の長いコート着用で、祐里もガチ目のミニスカドレスなのだから当然といった感じ
青井と詩音にもすでに披露しているが、2人は特に驚いた表情をせずにサムズアップポーズで歓迎の意思を示していた

「全然乗り気じゃないんだけどさ。一応形だけはなって」
竜也がそう嘯いている。美緒と光に連絡がつかないということは知っているので、まあそうだよなという感じで浩臣も頷いていた

「春川も水木もそういう(冷たいタイプ)じゃないと思ったんだけどな」
言って、じゃあまた後でなと言うと浩臣はログアウトをしている。音程外すなよと揶揄する浩臣に対し、竜は失敗しないのでと祐里が返してあははと笑っていた

「んじゃ俺らもそろそろスタンバイするか」
竜也が促すと、祐里も徐に立ち上がっている。マジだりぃと竜也が苦笑しつつ、一応持ってきたアコギを片手に

体育館ステージの舞台裏、どうもという感じで竜也と祐里がログイン
待機していた文化祭実行委員の方々、演奏を終えた生徒にどうもと挨拶をしていると、見知った顔があって竜也と祐里はそれぞれ頭を下げている

「杉浦に進藤。久しぶりだな」
今年春に異動になった仲村が姿を見せていた。どうしたんです? と竜也に訊かれ、俺来年からまた戻ってくるぞという仲村の返答

「渡島監督、今年で定年だからな。私の後はお前がやれと無理難題押し付けられて」
無茶苦茶だよなと言いつつ、仲村の表情はまんざらでもないそれ。え、今年で定年だったんですかと驚く竜也と祐里に対し、さすが渡島監督。言ってなかったんだなとニヤリと笑みを浮かべる仲村だった

じゃあ俺は職員室に行ってくると仲村が去ると同時、演奏が終わったのかMCが聞えてきた
大歓声だったのが急に静まり、青井と詩音の声がそれぞれ聞こえてくる

『実は私たち、今日の演奏に出るかどうかギリギリまで悩んでました』
『迷子になりそうだった私たちを後押ししてくれた、2人の大好きな先輩たちを呼んでいいですか?』

一旦静まった後に、再び爆発するような大歓声。なあ、これやばくねと竜也が苦笑して呟くと、祐里はあははと笑みを浮かべた

「竜、覚悟決めなさい。もうなるようにしかならないよ」

しゃあない、行ってくるか
竜也はアコギはその場に置いたまま、ベースを持った祐里とともにゆっくりとステージへ向かっていった

『LOS INGOBERNABLES de 西陵。ボーカル杉浦竜也、ベース進藤祐里』
竜也と祐里が姿を現すと同時、詩音がそうシャウトすると待ってましただの、千両役者だのと生暖かい声援が届いている(ほぼ男子生徒)。祐里に対してはキャーと黄色い声援が届き、さすがモテ女といった感じで手を振って応える祐里

「それじゃあ最後の曲、聞いてください。Are you ready?」
青井がそう叫んで煽ると同時、特徴的なイントロが流れ始めている

“できてるよ”

『打ち込みしときました』と青井が言っていたそれ、なんか聞き覚えのあるようなキーボードやギターの音と共に、青井と詩音がギター、祐里のベースで演奏が始まると生徒の期待は高まっている。それはそう、美少女3人が演奏しているんだからね、誰でも喜ぶでしょう。歌うのは俺だけど。ロベカルじゃなくてごめんな(加地さんism)

“大都会に僕は一人で”
竜也のカラオケの締めの定番、なりきりで歌い始めるからうざいんだよねと祐里が苦言を呈したこともあるそれだったが、今回はうまく場にマッチしていた
いつもは棒立ちで歌っているのに、今日は無駄に手でリアクションをつけているのがいいアクセントと化している。足はまだ完治に程遠いので動いてはいないけれども

“世界が終わるまでは離れることはない そう願っていた幾千の夜と”
美緒や光とこういう形で離れることになるとは思わなかったなあという思いがこもっているので、いつも以上に感情移入が凄まじいことになっている
冷やかしで見ていた生徒たちもなぜか聞きほれてしまったのか、それぞれ静かに演奏に見入っている

1コーラス目が終わり、竜也は目を閉じて“2番”の歌詞の時間を待っていると、静かだった会場がなぜかどよめきだしている
後ろでギターを演奏していた詩音は目を見開いて驚いており、それに気づいて祐里も目線を送ると思わずえっと声が漏れてしまっていた

“移動式”のキーボード持参で、美緒が駆けつけていた
黄色のジャンパーに黒のホットパンツに黒のストッキング、いつもの飾らない春川美緒がいつも通り無表情のままの青井妃那の横に立っている

はい? という感じで竜也も素で驚いた表情を浮かべると同時、満面の笑みを浮かべた美緒に歌!歌!と促され歌唱を続けることに

なんだかよくわからない感情の高まりと心臓の鼓動がとんでもないことになっているなと思いつつ、竜也は真摯に歌を続けている
静かに聞き入っていた会場も、サプライズが起きたせいで妙などよめきを帯び始めてまさにクライマックス、オーラスといった空気になり始めた

“誰もが望みながら永遠を信じない なのにきっと明日を夢見てる”

なあ、やっぱり永遠はあるんじゃないのかな。未読で音信不通だった美緒が、なぜか今この場にいて一緒に演奏してるんだぜ。もう会えないのかなと思っていたつい2分前の俺に教えてやりたいよ、まさに儚き夢

2コーラス目が終わり、また竜也は目を閉じている
“光、間奏シーンでギターを投げてくれ”

昔冗談で言ったことを思い出している
ここでギター投げたら盛り上がり半端ないだろうなと思っていると、悲鳴のような叫び声と大歓声が再び巻き起こったので竜也は慌てて目を開けてそちらに視線を向ける

バックステージから黒袴を着たショートボブの水木光が、いつぞや竜也が美緒に頼んでいた“壊れてもいいギター”を思い切り空いていたステージの前方へ放り投げている姿だった

心が休まらないままながら、竜也は歌い終えると最後はド派手にマイクを放り投げてステージから姿を消した



§


後夜祭が開始している

「サプライズ大成功」
青井による策略だった。青井が美緒に声をかけ、“優勝したら私と光ちゃんも函館に戻って文化祭に出る”
ロスインゴ復活だーとかふざけていたのは、あながち冗談じゃなかったというそれ。むしろフェイクになって、竜也と祐里は普通に動揺する羽目になっていた


「ホント辛かった。竜也と祐里のことをずっと“無視”し続けなきゃいけなかったんだから」
美緒はジト目で青井のほうを見つめているが、素知らぬ顔でサプラーイズとおどけているのを光は遠い目で見ていた

「美緒ちゃんに決勝戦の朝に相談されて。急すぎたけど実はもう戻ってもいいって言われてたから」
何気に恐ろしいことを光が言っている。今日帰って来たのは文化祭のためじゃなく、留学を終えたんですかまさか

「うん、そうね。来週から西陵に通うわよ。美緒ちゃんも一緒にね」

おいおい、なんなんだよマジで
竜也と祐里は呆れたように苦笑していた


§


明日は卒業式
“竜、俺と1打席真剣勝負をしてくれ”
浩臣の挑戦状をようやく受ける日が来た。どちらも故障が長引いたわけではなく、受験やら雪やらで長引いたそれ
ようやくいい機会が訪れた

竜也の申し入れで、なぜかタイブレーク形式で行われることに
捕手千原、ホワスト変態玉子、セカンド光、サード美緒、ショート祐里、レフト孝之、センター須磨、ライト和屋というとんでもない布陣がセットされた

2塁ランナーにはビッグブラウン賢人、1塁ランナーに貴崎竜路

「なあ、あまりにもハンデきつくないかこれ」
マウンド上で浩臣がそう茶化すが、竜也は聞く耳持たずに静かにライトスタンドを指差している

「ったく。まあ俺が三振取ればいいだけか」
浩臣は千原にサインを送ると、セットポジションから思い切り腕を振って1球目を投じた


END