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プログラム...
そういえば聞いたことがある(テリーマンism)

昔々、生徒同士で殺し合いをさせるとかいう、超ふざけた楽しい楽しい国家行事
国民の大反対を受け、完全に廃止されていたはずだがなぜ今更そんなものが?!

「どう贔屓目に見ても我々の住む世界はよくない方向に向かっているな」
竹内がいつの間にか語りだしている

「政治も経済も、人と人も、国と国も。疑い合い、傷つけ合いばかりしているな。そんな世の中だ」
ここで息を一つ吐いた竹内は、周囲をぎろりと一瞥してから続ける

「なら、お互いに傷つけあっていただきましょう。“仲間”だ? “友情”だ? 甘ったれんじゃねえ。生き残りたきゃ殺し合ってください。たった3日間の生き残り戦争です。さあ、みんな張り切って行きましょう」

竜也は固唾を飲んで竹内の“演説”を聞いていたのだったが、あまりの胸糞の悪さに心の中で唾を吐いている。ふざけんなよ。俺は絶対そんなのには迎合しない

「竜也...Tranquilo.だよ」
内心のいら立ちを察したのか、美緒がそう呟いたので竜也は小さく頷いてみせる。俺は大丈夫だけど....握っている手から感じるだけでわかる。祐里の動揺は尋常ではないということに
自分自身は何とか平静を保っていれているが、目の前にいる祐里が怯え切っているのを救ってあげられない自分に腹が立っている
状況が状況だけに仕方ないといえばそれまでだが、今までどれだけ祐里に助けられたかわからないだけにせめて今だけは何とかしてあげたいのだが

いつもなら見開きポーズでもすれば笑ってくれるのだろうけれども、今は“両手が塞がっている”
ゆっくり話をしている状況でもないだけに、さぁどうしよう。俺の腕の見せ所といった塩梅なのだが、さすがになかなか頭が働かない状態
光もずっと無言で項垂れているし、美緒は時折竜也のほうを見て微笑むだけ
ならば...俺がしっかりしないといけないなと改めて心に決めた

“firmar por favor.”
いつぞやの美緒のセリフを呟いて祐里のほうを見てちらっと笑ってみせると、祐里は一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、すぐにバーカと言って下を向いて笑っていた
“ありがと”と聞こえたと同時に、光も小さくクスッと笑ってから「さすが竜ちゃん、やるわね」と言ってなぜかお褒めの言葉を戴く

そのやり取りを美緒は静かに見届けていたが、やがて「前向いたほうがいいかも。あまりいい予感がしないんだ」と言って促す
確かにクラスの喧騒が続いている中、正面から感じる竹内たちの“圧”がとても危険な雰囲気に達している感がする

それで竜也と光、美緒は教卓のほうへ目を向ける。祐里はそうすることにより、紅桜の死体が目に入ってしまうのでそれが出来ずに下を向いていたが
「祐里、無理すんなよ。お前は見なくていいから」

竜也がそう呟くと、祐里は小さく頷いたがやがて「お....前?」と、いつものリアクションを返せるようになっていたので一安心

「よーし、一旦静まれ。説明するぞ」
竹内が一喝するとクラスは一瞬静まったが、まだ騒ぎを止めない生徒たちも見受けられる

「血の匂いがしよるでえッ!!」
そう叫んで竹内がポケットから拳銃を取り出すと同時に、3人のおっさんたちも一斉にこちらに向かって銃を構えたのでまた緊迫感が一層に強まる

「ワシの辞書に『できまへん』の文字はない。お前らみたいな出来の悪い生徒ばっかりおったらこの国倒産してまうで」
竹内はそう叫んだ後、事細かにルールの説明を行っている

かいつまんで言えばこんな感じ

・ここはどこかの島
・拉致されて運んできた(家族には説明済み)
・携帯電話の使用は不可
・最後の一人になるまでの殺し合いデスマッチ
・反則なしのノーDQマッチ
・武器、食料、水はこれから配布
・民家は住民退去済み。家を使うのも、店などにある食糧や道具を使用するのは可能
・首輪は禁止エリアと連動していて、間違って踏み込むと即爆破
・この”校舎”には兵士が大量にいる。生徒たちが束になって掛かってきても、返り討ちになるだけ
・なら殺しあえ。それで生き残れ

だってさ。あー、ばからし。あーつまらん(三國志11糞藝爪覧ism)

「...お前たちって。不適切すぎるよ。後で意見書だからね」
祐里がぼそっと言ったので竜也は思わず吹きかけたが、状況はとても深刻だった

クラスメイトはもちろん、目の前にいる“Pareja”たちと殺し合いをしろだと?
そう思って竜也は改めて3人をそれぞれ見つめる
光は顔面蒼白になっていてそれどころじゃなく、祐里も同様でがくがく震えているのが元々手からも伝わっていたが、それ以上にやばいことになっているのがはっきりとわかる
幼稚園からだからもう10年以上の付き合いになるが、見たことのない表情を浮かべている祐里を見て、何もしてあげられない自分に腹が立っている。そして美緒は...

竜也が視線を向けると、小さく首を振ってみせた。しかしその視線は穏やかなままで、いつもの美緒と何も変わらない
相変わらず吸い込まれそうな澄んだ瞳のまま、「大丈夫だからね。そう、絶対に大丈夫だから」と誰にも聞こえないよう竜也にだけ囁いてくる

え?という感じでもう1度視線を送ったが、美緒はまた穏やかな表情でただ首を振るだけだった

どういうこと? と思っているうち、「先生、トイレ行きたいんですけど」と一人の生徒、メガネに頭を刈り上げた風貌の高森沖が挙手して起立した直後の出来事だった

もう何が起きたのかすらわからない一瞬だった

閃光と銃声音と共に、高森はこの世からグッバーイ!(ゴーンヌおじさんism)していた
目にも見えぬ速さでの天パおっさんからの銃弾プレゼント、まさにThunder Stormといったところか。知らんけど

「竜、いやだ。怖いよ...」
また間近で人が死ぬところを見てしまった祐里は感情が制御不能になりかけている
普段は沈着冷静な光ですら手に取るように動揺を隠し切れいない中、美緒だけは落ち着き払っているように見えるのが心強い半面、得体の知れない何かを感じさせている
いや、焦ってるよりは絶対いいと思うんだけどね

“ジャストルッキング”しているだけでいつの間にかクラスメイト2人がこの世から“グッバーイ”するという経験はないだけに(あるはずがない。あってたまるか)、竜也はもう今が現実なのか夢なのかわからず困惑しているのを感じている
夢...だったらいいなぁ、的なやつ

「あーすまん、やっちまった。まあ俺に睨まれたら逃げられんということがよーくわかったろ」
竹内は何が楽しいのかわからないが、もう笑みを押し殺すのを出来ないでいる
それで竜也は、あぁもう夢じゃないんだなこれはと改めて悟り、内心首を振っていた