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「さーて、普通なら出席番号順に出発してもらうんだが...」
竹内が言ったのを聞いて、竜也はそれなら祐里と近いからすぐに合流出来ると思い一瞬期待したのだったが

その期待はあっけなく壊される

「それじゃつまらんからな。ちゃんと趣向を用意してる」
言って、竹内が指をパチンと鳴らす
そしてすぐにまたどこからともなく足音が聞こえてきて、小太りのペンギンのような体系をしたおっさんが箱が乗った移動式の机を押して部屋に入って来る

「お前らの出発順を決めてくれるゴロンドリーナポン太さんや。この人が引いた“クジ”の順に出発してもらうで」
ふざけた名前とふざけた体形だと思いつつも、いつ自分が呼ばれるかわからない不安感が一気に心の中に広がって行くのを竜也は感じている
待ち合わせをするにしても下手に私語も出来ない状況。八方塞がりとはこのことを言うのだろう

ポン太が1枚目のくじを引いて謎のガッツポーズをしている
そしてそれを竹内に手渡すと、「最初はお前か。水木光!」

まさかの光が最初に呼ばれることになったので、もう4人で最初から行動をすることは絶望的になった

「光...」
祐里が不安気な眼差しを送ると、光は小さく笑みを浮かべた。そして竜也、美緒の順でそれぞれ目を見て小さく頷くとすっと立ち上がる

「合流しようね。後からどうするかはそれから考えるから」
光の口調はいつも通り芯が通ったものに変わっていた。先ほどまでの不安におびえた様子はない、いつもの“才媛”のそれ

光は天パの兵士から“リュック”を受け取ると去って行ったが、祐里はその今まで握られていた左手を見つめている
竜也はかける言葉が見当たらず呆然としかけていたが、すぐに美緒が空いた左手で祐里の肩をポンと叩いた

「大丈夫だよ。光ちゃんとはまた会えるからね」
それには妙に説得力を感じた。その言葉の端からはどこか暖かさを感じて、心の揺らぎが消えていくような気がする

「それじゃ3分後や。ゆっくり覚悟決めときな」
竹内はそう嘯く

もう生徒たちは誰も口を聞いていないように見える
竜也たちのように“徒党”を組んでいる人たちも見受けられるが、さすがにもう誰も大声で話している者はいない

まるで“死刑宣告”を待っている囚人の気分だった
祐里と美緒が傍にいてくれなければ、もうそれこそどうにかなっているだろう
いや、狂ってしまったほうが楽なのかも知れないけどね。まぁ、それはそれ。これはこれ


閑話休題

続々と名前を呼ばれ、生徒は次々に出立している
ポン太がクジを引くたび、そして竹内が読み上げるたびに祐里がいちいちビクッという感じで怯えている
そんな祐里に何もしてあげられない自分にムカついていると、また美緒が小さく耳元で囁いてきた

「祐里を励ましてあげて。それが出来るのはキミだけだからね」
そう言ってちらっと笑みを見せる美緒に対し、竜也はわかってると小さく返す

「祐里、大丈夫だからな。きっと光が何とかしてくれる」
言ってから、うわ俺何の役にも立たないこと言ってると自嘲しかけたがそれは心からの本音なので仕方ない
それを受けて美緒と祐里は思わず目を合わせると、やがてすぐに互いに下を向いてしまった

「竜也...それはないだろ」
美緒は苦笑しているのか肩を震わせている。せっかくの見せ場を作らせてくれたにもかかわらず、この有様なのだから仕方ないのだが
しかし祐里はすぐに竜也のほうを見て、小さくウインクをしてみせた

「ありがと。少し落ち着いたかも」
祐里がそう言ったのを聞いて竜也はふぅと胸を撫で下ろしたが。美緒は2人のその様子を感心したように見つめている
ふふ、これが10年間の積み重ねなのかな....?

しかしその時間もすぐに終わりを告げることになる

「次は春川美緒。お前の番だ」
美緒の出発の順が来てしまった
まだ生徒は半数以上残っている中、早めの出立になる美緒だったが呼ばれてもその涼しい表情は崩さない

「Ate breve, obrigado.」
小さく笑みを浮かべつつそう言って立ち上がると、去り際に竜也の耳元で「また後でね」と囁いていつの間にか教卓の前へ進んでいる

え?と思って竜也が振り返ると、もう美緒は教室を後にしていた

「私たちだけ残されたね...」
祐里がそう呟いたので竜也は小さく頷いた
けど、いずれどちらかはもうすぐいなくなる事実
一緒に出発できればこれ以上ない心強さなんだろうけれどね。いとしさとせつなさと心強さと(篠原涼子ism)


そして3分後、まさかの展開が訪れる

「おー、次は杉浦竜也か。お前や」
竹内からのご指名がかかってしまった
さすがに心の準備が出来てないそれだったが、呼ばれてしまっては仕方がないところ

「祐里、ごめん。行ってくるわ」
竜也はそう言って立ち上がろうとするが、祐里はその右手をなかなか離してくれない

「嫌だ...嫌だよぉ」
祐里はまた涙目になっている。その手を離すには忍びなかったが、兵士たち3人はそれぞれ銃を構えて早く行けという感じで脅してきている状況
自分だけ死ぬならともかく、このままでは祐里の命にも関わって来る

「杉浦...早く行かないと、お前だけじゃなく進藤まで死んでまうで?」
そう言って竜也と祐里を見つめる竹内の目は怪しく光り輝いていた