「祐里、大丈夫だ。絶対また会えるからな」
竜也はそう言って何度も頷いてみせると、祐里は渋々という感じでその手を離す
ぶっちゃけ竜也自身も名残惜しいこと半端なかったが、明らかに兵士たちからくる威圧感がやばいのを感じているのでここはNo Tranquilo.で行くしかない状況
「待っててとは言えないけど...絶対私を見つけてね」
祐里がしゃがみ込みつつそう呟いたので、竜也は小さく「Hasta luego.Adios.」とだけ言って教卓のほうへ向かった
「モイスチャーミルク配合です」
竜也にリュックを手渡しした誠実そうなおっさんが何やら呟いていたが、あまりの滑舌の悪さにそうとしか聞き取れなかった
まあいい。まず外に出るかと思い、周囲の様子をさりげなく見学する
“待機室”ならぬ場所には銃を持った兵士がまあ俗にいう密をなしている状態
これはホント襲撃するだけ無駄ってやつですね
そんな時、目が合った鉢巻きをまいた兵士が「やってやるって!」と睨みを効かせてきたので竜也はさっさと退散することに
そして玄関から外に出ると、そこには雑多な風景が広がっていた
見渡す限り、何もない。無。
門らしきものがるだけで、吹きっさらしの酷い場所
さて、ここに立っていたも仕方ないか。祐里をここで待つのはあまりにも無謀すぎるし、まずはついさっき出た美緒を探しに行くかな
“門”を出てすぐのことだった
「だーれだ」
竜也の視界は不意に奪われ、後ろからそう声がかかる
ったく、勘弁してくれ。Cabron.
「...美緒か。悪い冗談はやめてくれ」
目を隠されたまま竜也がそう言うと、ふふと笑い声が聞こえて視界が急に戻った
「また後でねって言ったよね。きっとすぐに出てくると思って待ってたんだよ」
美緒はさらりと言ってのけるが、もし自分じゃなく他の誰かが出てきたらどうするつもりだったんだろうと思ってぞわっとする
この隠れる場所もないところで5分くらいとはいえ、待っていてくれたと思うだけで心に来るものがある
というより、誰か戻ってきたりしたらどうするつもりだったんだろう...
「さて、さすがにここにずっといるわけには行かないね。ましてもうすぐ誰かが出てくる頃だ」
美緒はそう告げると、早くも廊下のほうに人影が見える
シルエットでわかる。残念ながら祐里のものでがないそれ
「祐里には悪いけど...ここを離れるか」
竜也がそう言うと、美緒はこっちだよと手を引いて歩を進める
「キミが出てくる前にある程度周囲は伺っておいたんだ。まあどっちのほうが開けていて、どっちのほうが道が悪そうかくらいしかわからなかったけれども」
美緒が案内したのは、その道が険しそうなほうだった
「ふふ、何でこっちと思ったんだろ?」
美緒が悪戯っぽく笑うと、竜也はすぐに頷く。開けてるほうに進んだほうが民家などもあって、いろいろ“捗る”んじゃないかと思ったので。知らんけどさ
竜也がそれを口に出すと、美緒は小さく頷いたがやがてすぐ横に立っていた“廃墟”のほうに目をやると今まで見たことのない険しい表情を浮かべた
「...竜也。走れるかい?」
美緒の有無を言わせないその口調に、竜也は只事ならぬ何かを感じ取った。あぁ、廃墟に誰か潜んでる的なやつ...?
こちらはまだリュックを開けてすらいないので、攻撃をされたらひとたまりもないわけで
竜也は静かに頷くと、同時に素早くその場を駆け抜ける
一応野球部員で、まあ足は遅いわけではない竜也と剣道部に在籍してたこともある体育会系の美緒だけ、にあっという間にその場から離れることに成功した
「ふふ、さすが星屑の天才くんだ。悪路を走ったのに息一つ切れてないじゃないか」
そう言う美緒も息が切れてる様子はない
「しかし、美緒は走るフォームが綺麗だよな。うちの部にコーチに来て欲しいレベルだよ」
そう言って竜也は思わず笑みを浮かべた。息は切れてないものの、さすがにふぅと一度大きく息を吐いたのを見て、美緒はリュックからペットボトルのコーラを取り出すとそれを竜也に手渡す
しかもなぜか冷えているそれを受け取り、思わず怪訝な表情をする竜也を見て美緒はまたふふと笑みを浮かべる
「開けたほうに実は自販機があってね、君のために1本買っておいたんだ」
もうどこまで本当なのかわからないが、実際に冷えたコーラがあるのは事実
ありがたく頂戴し、ごくごくと痛飲した後、それを美緒に手渡す
「俺だけ飲むんじゃ悪いからな。俺の後で申し訳ないけどさ、美緒も飲んでくれ」
わざとらしく恭しく頭を下げる竜也を見て美緒は苦笑していたが、やがてありがとと言って小さく一口だけ飲むとまた竜也に戻した
「正直、炭酸はあまり得意じゃないんだよね」
言われてみれば、と竜也は思った
ファミレスなどで、美緒が炭酸飲料を飲んでいるのを見たことがなかったなということを
自身はコーラばかり飲んで、祐里にいつも苦言を呈されているのだが
「さて、これからどうする? 俺は祐里と光と合流したいんだけど」
竜也が美緒を見てそう言うと、美緒の表情がきっと険しくなった
ん?と思う間もなく、竜也は目を見開いて驚くこととなる
美緒はポケットから銃を取り出すと、それを静かに竜也のほうへ向けた