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「祐里、こっちこっち」

まさかの最後の出発となった祐里が途方に暮れていると、目の前にある“廃墟”のほうから声がかかる
聞き覚えのある声を聞いて祐里の目は希望に輝きを見せる

「え、光なの?」
祐里が慌てて周囲を見渡すと、制服の埃をほろいながら光が姿を現した

「遅かったね。もしかして一番最後?」
光がようやくほろい終わったのか、スッキリとした様子でそう訊くと祐里は苦笑しながら頷いた

「ホント待たされすぎて嫌になったよ」
そう言いつつ、祐里の手には拳銃が3つも握られているので光は唖然としている
どうしたのそれと思わず再び訊くと、祐里はまた苦笑している

「ほら、教室で2人もあんなことになっちゃったじゃん? だからか知らないけどさ、リュックが余っちゃったんだって。それで銀次郎が、ほら進藤、お前3つ持ってけって。いや、重いからいらないですって言ったら、中身開けて拳銃2つくれたのさ」

あれ、じゃあ何で3つ持ってるの?と光がすぐに突っ込むと、祐里は下を向いて首を振っていた

「銀次郎がさ、俺のも持ってけって。このプログラムは物騒じゃ、いくら銃があっても足りないぞとか言ってさ、銃弾詰め合わせも大量にリュックに入れてくれたさ」

何だかわからないが、竹内は祐里をえらい贔屓しているらしいことがわかった

「もしかしたらだけど...祐里、あなたわざと最後にされたかも知れないわね」
光は感じたままそう呟いた。武器を大量に与えるため、最後まで残した。そう考えるのが一番自然に思える
理由はさっぱりわからないけれども

「けどよかったぁ。まさか1番最初に出た光と会えるなんて思ってなかったよ。もう2時間くらい経ってるのにさー」
祐里がしみじみと言った。そう、クラスの人数x3分なわけで、ほぼ2時間は経過している
今は午前10時前後といったところなのだろうか

「これで祐里が逆の方向に行ってたら私ずっとかくれんぼしただけになるとこだったのよね。こっちに来てくれて助かったわ」
光が思わず笑みを浮かべながらそう言うと、祐里は拳銃を1つ手渡してくる
え?と光が思っていると、祐里は強引に押し付けてくる
「私こんなに持っていたくないしさ。光も1つ持っておきなよ」

“人を殺せる”ものとは思えない軽い扱い
早くも感覚がマヒしているかに思えたので、光は祐里の目をしっかりと見据えた
祐里はキョトンとした感じでそれを見返したが、「大丈夫だって。怖いのは怖いけどさ、光が一緒にいてくれるし」と言ってふぅと息をついた

「後は...竜と美緒か。どこ行ったかなー」
祐里がそう呟いた瞬間、光は小さく首を振ったので祐里は再び驚きの表情

「竜ちゃんはともかくだけど、美緒ちゃんは信用しないほうがいいかも知れない」
光はそう言いつつ再び周囲を確認すると、こっちへ行きましょうと道案内

言われるがまま祐里はついて行ったが、「何で? 美緒は私たちの仲間じゃん」と不満気に返すと、光はまた祐里の目をしっかりと見据える

「もう結構前になるんだけどね、竜ちゃん富雄ちゃんが一緒に廃墟の前に来たのよね」
そこまで光が言うと、祐里はうんという感じで頷く。美緒の次が竜也だっただけに、すぐに合流していてもまあそこはおかしくはないのだが

「2人が見えたから、私はあっと思って目で合図して出て行こうとしたんだけどね」
言って光はふぅと息を吐いて、改めて祐里のほうを見てから続けた

「走って行っちゃった。私と美緒ちゃん、しっかりと目が合ったんだよ。なのに凄いダッシュでね」
祐里はまた驚いた様子で目を丸くしている。」けど竜がいたんでしょ? そんなことさせるわけないじゃん」と言うと、光は小さく首を振った

「竜ちゃんは逆向きだったし私に気づいてない。美緒ちゃんって視力いいんだよね?」
光が訊くと、祐里はすぐに頷いた。だよ、裸眼で1.5って言ってたと返すと、光は思案顔

「それ以外にもさっきの部屋にいた時から、美緒ちゃん何か様子がおかしかったんだよね。言葉でいうの難しいんだけど...何か違和感があったんだ」

それを黙って聞いていた祐里だったが、やがて何度か頷いたが今度は首を傾げた

「ただおかしいのよね。私ですら違和感感じるんだから、竜ちゃんが気づかないわけないと思うんだけど」
光がそう言ったのを聞いて、祐里はまた小さく首を振ると少し悲しそうな表情を浮かべた

「それは仕方ないよ。竜はさ、美緒のことが昔からずっと好きだったんだから」
寂しそうに祐里はしみじみとそう呟くと、あーあという感じで天を見上げている
それはないでしょという感じで光が言いかけるが、祐里の表情からは悲痛な感じがにじみ出ている
悲壮感というには生ぬるいそれ

光からすればどう考えても今の竜也は祐里のことを好いているようにしか見えなかったので、“お前は何を言っているんだ”(ミルコ・クロコップism)な気分
とはいえ、美緒と竜也が行動しているのは紛れもない事実なわけでどう声をかけていいかわからない状態

「前教えたよね? 美緒が引っ越した時の話」
祐里が言ったので光は頷いた
美緒が引っ越してしまい、竜也が心を閉ざして引きこもりがちになったというあれだろう

「その後の話なんだけど。あいつと私の家で遊んでた時なんだけどね、うちの母さんがさ『竜ちゃん、祐里と仲いいね。お嫁さんに貰ってあげてね』と揶揄ったらさ、竜のやつムキになって『僕は美緒ちゃんのほうが好きだから無理です』だって。私その時号泣しちゃってさ」
今じゃ笑い話に出来るけどと祐里は作り笑顔をしていたが、多分今でも笑い事ではないのだろう
心の奥底に眠るトラウマなのかも知れない

以前竜也が言っていた、“あと一歩踏み出す勇気”がなかった。これは祐里も同じなのかも知れないと光は思った
これは厄介な問題かもしれないとも感じた。まあそれ以前にこのプログラムが厄介なのだけれども

「じゃあどうする。竜ちゃんと合流はしたくない?」
光が優しい表情に変えてそう尋ねると、祐里はすぐに首を振ってそれを否定した
だよねと思って光は笑みを浮かべて頷いた

「絶対竜と合流するからね。それで美緒が怪しかったら....私が」
祐里がそう言いかけたので光はすぐにそれを止めた
ん?という感じで祐里が見つめてきたので、光は小さく何度も首を振ってそれを宥める

「ダメ。最初からそう言う気持ちで行くのは絶対よくないから。もし会えたらだけど、私に任せて欲しい」
光が自信あり気にそう言ったので祐里はすぐに頷いた
とはいえ、どこにいるかわからないんだけどねと光が言ったので、祐里はですよねーと言って笑っていた

「銀次郎がさ、“春川には気をつけろよ”とか言ってたんだよね。その時は私バカなこと言ってると思って聞き流したんだけど、もしかするのかな」
祐里がそう言ったので、光の目からはまた笑みが消える。これは一筋縄じゃ行かないかもね、と