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お昼の放送が終わった

竹内によるドスの効いた声が“島”中に設置されたスピーカーに鳴り響き、禁止エリアの追加を発表していた
不気味だったのはまだ“戦闘”が始まっていないことを怒るどころか、『ええじゃないか。ゆっくり悩め、そして考えろ』と高笑いをしての最後だった

祐里と光は無事翔から逃げることに成功し、今は見つけた平屋建ての民家で身を潜めている
2人はそれぞれ聞き耳を立てていたが、当面は今いる場所が含まれていないことに胸を撫で下ろしていた

「しばらくはここで安全かなぁ」
祐里が思わず呟くと、向かいに座っていた光はちょっと思案顔をしたがやがて小さく頷いた
戦闘が起きていないということは、各自それぞれ“安住の地”に落ち着いている可能性が高い
なら、闇雲に動き回るよりは当面体力の回復に当てたほうが得策じゃないかと睨んだ
問題は祐里が竜也に会いたいとごり押しした時だと思っていたが、とりあえずは休みたそうなのでそこは内心安堵している

「お昼食べて、少し休んで。それから竜探そっか」
祐里がそう言ったのでまた光は同意を示すように頷いた
まあ本音は探すのに動くのすら反対だったが、さすがにそれは口に出さなかった

「美緒がさ、竜のこと狙ってそうなのは気づいてたんだけどさー」
祐里はそう言って思わず苦笑しているので、光はえ?というような表情を浮かべる
光にしてみればそんな気はまるで感じていなかったので、意外過ぎる祐里の発言

「今年の竜の誕生日もさ、抜け駆けされちゃったしね」


竜也の誕生日は日曜だった
部活は休みということもあり、祐里はサプライズで家に訪問をすることに
“日曜の休み? 昼まで競馬見て寝て、3時からまた競馬見てる”とよく言ってるだけに、なら昼前に行けば必ず家にいると踏んでの行動だったが

チャイムを押すと出てきたのは竜也の母親。なぜか祐里を見て驚いた様子を浮かべている
戸惑いつつ祐里が「います?」と訊くと、竜也の母は「出かけてるのよ。てっきり祐里ちゃんと一緒だと思ったんだけど。お父さんが“竜なら女の子と出かけたぞ”ってさっき言ってたから」

そうですか、と落胆しつつ祐里は家に戻ってとりあえず電話をかけてみることに
なかなか出なかったが、やがて「どうした?」と竜也が出る

やたら周囲が賑やかな感じがする場所にいるのが伝わって来て、思わず「今どこにいるの?」と聞いてしまう

「ん? カラオケだけど。それがどうかしたか」
竜也がそう返すと同時、スマホの向こう側から“竜也、キミの番だよ”という声が聞こえてくる

え、美緒と一緒?
かなり動揺した祐里だったが、そこは何とか繕って「ずるいよ。私も行く」と言って合流することに無事成功したのだが

カラオケ店で合流した後
「竜也。お昼あれで足りた?」と美緒が言ったので、竜也が「ん−、ただ凄い美味かったよ」と完全に二人きりの世界

祐里は完全に疎外感を覚えるレベルだったが、竜也自身はそう感じてないようで「相変わらずお姉さん、歌上手いねー」と普通に褒めてくる
美緒も「ホントだね。竜也、キミボーカルクビになるよ」と揶揄うレベルで祐里の歌唱力は確かに凄いのだが

「それで竜也、夜は何を食べたい?」
美緒と竜也がさらっとそう言うやりとりをしているので、もしかして私完全に邪魔だった?的な流れを覚える祐里

「そいや光ってマメだよな。朝の7時に『おめでとう』ってLine送って来てくれてたよ。さすがに笑った」
美緒が歌ってる最中、竜也が祐里にそう言って笑ってから、てっきり祐里は忘れてるんだなーって思ってたわと続けて曲を探し始めている

バーカ、忘れるわけないじゃんと内心思いつつ、サプライズを仕掛けたのが失敗だったのを後悔していた

竜也が歌っている最中、美緒が祐里に話しかけている
「ねえ祐里、竜也あなたが誕生日忘れてるかもってショック受けてたよ」
そう言って微笑みつつ、飲み物を飲む姿は同じ歳と思えないくらい落ち着きがある
美緒には勝てないなーと思いつつ、いつから誘ってたの?と何気なく聞いた

「先週だよ。来週は部活ないって言ってたからね、じゃあキミの誕生日祝いを兼ねてカラオケでも行く?って誘ったんだ」

それなら私も誘ってくれればいいのにと思ったが、さすがにそれは口に出さないでおいた


「他にも何度かあってさ。大体美緒から誘ってるみたいなんだよね。まあ竜は休みの人は絶対自分から出かけないやつだしさ」

そんな竜也を知っているからこそ、あまり休日は誘わないようにしていた祐里だったがそこをうまく攫われた感じ
とはいえ、言うほど竜也と美緒で出かけてるという雰囲気もないし、実際なかったわけなのだが

「そういえば...言ってなかったけど、私も1回だけ竜ちゃんと2人で出かけたことあったわね」
光がそういえば、という感じで言うと祐里はまた驚いた様子
「何でもないけどね。ただあの時、ちょっと面白い事言ってたんだよ」

あの夏大会の前の話
竜也から珍しく光を誘ってのコメダランチ
3時から試験あるから、それまでだよ?と光に言われた竜也だったが「オーケイ」と言ってその日に決定

相変わらずコーヒーは得意じゃないので、レモンスカッシュを飲んでいる竜也は光に訊きたいことがあった次第

「なぁ、何で光はそんなに頭がいいんだ?」
唐突に聞かれ、光は思わず吹き出しそうになったが、やがてすぐに真面目な表情で竜也を見つめた

「面白いこと言うのね。じゃあ私からも聞きたいんだけど、どうしてあんなに簡単にヒットが打てるの?」
言って光はしてやったりの表情。竜也はしばらく考えた後、「わかんねーわ。来たボール打ってるだけだからな」と答えると、光は何度も頷いている

「同じことよ。私もただ勉強して、それに答えてるだけ。いい? 私と竜ちゃんの“頭脳の差”なんてそんなにないんだよ。それをどう使っているか、ただそれだけなの」
光の言葉に黙って耳を傾けつつ、なるほどなーという感じで竜也は納得した表情

「大切なのはね、信じる時に自分自身を信じられるかどうか。だよ」

それによって竜也が考え込みすぎて、大会で全然打てなくなったがその後に“掴んだ”のは記憶に新しい出来事


閑話休題

「夏大会の後ね、竜ちゃんが私に教えてくれたのよ。“なんでヒット打てるかわかったぞ”って」
光が何かを思い出したように、そう言って微笑みを浮かべている
それで祐里が、「え、知りたい。なになに?」と食いつくと、光はまさかの“見開きポーズ”

「その答えはもちろん....だよ」
自分で言って吹き出す光に対し、祐里は思わずCabron.と突っ込んでいた