戻る
「前から思ってたんだけど、祐里は料理上手だよね」
光が祐里の作ったオムレツを絶賛している
敢えてオムライスじゃなくオムレツにしたところにセンスを感じる

「あはは。オムライスならいつでもラッピで食べれるじゃない? だからオムレツにしたのさ」
わざわざデミソースまで作る本気仕立てで、本人も満足の出来栄えのよう

さすがに洗い物をする必要はないよねと言って、食器を下げるだけにした二人
しかし祐里が「もしかしたら晩御飯もここで食べるかもよ」と言ったので、光がその時は私が洗うわねと言ったのでまたあははと笑った

「光ってさ、実は料理苦手じゃない?」
祐里に図星を突かれ、光は思わず苦笑している。苦手というか、普通にしたことがないというのが事実
“育ちがいい”のでする必要がなかっただけの事なのだが、祐里からすると『光に勝てた』のが嬉しいのかニヤニヤが止まらない状態

「初めて光に勝てた気がするよ。後で竜に自慢しよっと」
それを聞いて光は、ホントすぐに竜ちゃんの名前出すんだから。どれだけ会いたいのだろうと思っていると、祐里は黙って光の目を見つめていた

どうしたの?と光が思わず聞くと、祐里は「いつからだっけ。光と仲良くなったのって」と唐突な質問
え、覚えてないの?と光は不思議そうな顔

「改めて言われると思い出せないんだよね。気づいたら意気投合してたじゃん?」
祐里がそう返すと、まあそうなんだけどと光は思ってちらっと笑う

そう、ファーストコンタクトで光は“生涯の友達”に出会えたという感覚に落ちていた

入学式が終わって、まずは自己紹介が行われたのだが光から見た祐里の第一印象は“派手な子”
一方の祐里から見た第一印象は“住む世界が違う子”

そんな2人がなぜか今ではお互いに欠かせない存在になっているのだから世界は面白い


“運命”Destino.は入学2日目に訪れる

光は登校して下駄箱の前で立ち尽くしていた
そう、なぜか上履きがなくなっていたのだから
早くもイジメの洗礼なのか、それとも“才媛”に対するやっかみなのかはわからないが...
そんな中、祐里と竜也が仲の良さを隠そうともせず一緒にげた場kのやって来たのだったが、立ち尽くしている光を見て祐里がすぐに声をかけた

「どうしたの?」
返事もできず困惑している光の様子に気づいた祐里が、竜也に「スリッパ持ってきてあげて」とすかさず指示
何も言わずにその場から駆けて行った竜也を見つつ、祐里は「大丈夫だからね」と言って自分の上履きを差し出す

え?と戸惑いを隠せない光に対し、祐里はいいからとそれを押し付ける。学校指定だから同じでしょ、まだ1日しか履いてないから臭くないしと言って笑ってみせる

それでも受け取りを躊躇している光に対し、サイズ大丈夫かな。身長同じくらいだから多分行けるよねと既に確定事項
実際身長は光のほうが3センチ高いだけで、足のサイズは同じだったのだがそれは後のお話

やがてすぐ竜也が涼しい顔で戻って来た
その手には新品の上履きがあったので、祐里と光はそれぞれ驚きの表情

「え、どうしたのそれ」
祐里が思わず聞くと、竜也は「職員室にスリッパくださいって言いに行ったらさ、担任の竹内先生が寄って来て。“わかった、上履きだろ”とか言ってこれ渡して来たんだよな。あの人顔怖いからどういうことか聞き返せなかったよ」
そう言いつつ竜也は光にその靴を渡すと、「あ、これです。私の靴」とびっくりした様子
名前が書いているわけではなく、紐の結び方がちょっと変わってるんですと光が言っていた

「恐らくだけど、前の日に誰かが隠したのを竹内先生が見つけて置いてくれたんじゃないかな」
竜也がそう言うと、祐里はちょっと怪訝そうな様子

「けどさ、それならすぐ戻せばいいんじゃない?」
そう言った祐里に対して、竜也は「にゃ、それだとまた隠されるかもじゃん? なら職員室で確保しておいて、水木だっけ?」
竜也がそう言って光の顔を見ると頷いたので続ける
「水木がさ、スリッパ借りに行ったときに渡せば済むってこと。んで朝のホームルームでいきなりお怒りとかじゃないのかこれ」

竜也がそう言って苦笑しつつ、上履きに履き替えてじゃあお先という感じで教室へ向かっている
ん?と思って祐里が光のほうを見ると、光が思わず泣きそうになっているのを見てなるほどと察した

「ほら、泣かない泣かない。もうこんな目に遭わせないからね」
祐里は力強く光の両手を握った

竜也が警戒していた、竹内によるお怒りのHRになることはなかった
もう既に“それ”は裁き終った後だったようで、隣のクラスの女生徒がすでに〆られたとか何とかいうのは、後日風の噂で聞いた
入学テストでオール満点だったというのを聞きつけ、やっかみによる犯行だったとか


閑話休題
その日から祐里と光は意気投合していた
自然の流れで竜也もその輪に加わり、3人で無謀なバンド結成からの文化祭出演

「何で俺が歌わないとダメなんだよ」
そう拒絶する竜也に対し、あんた楽器できないじゃんと言って祐里が笑うと光も同意を示している

「いや、だからさ...」
そもそも俺を誘うなと言いたい竜也だったが、“事情”により祐里にあまり強く言えないため断り切れない

「大丈夫。竜ちゃん歌上手いじゃない。DAM先生の採点だとなかなか酷いけど」
光は褒めてるのかけなしてるのかわからないことをさり気に言ってくすくすと笑い、祐里もそれであははと笑った

「...ったく。トライアングル、カスタネット。鍵盤ハーモニカにリコーダーならできるぞ」
竜也が頭を掻きつつそう答えたので、祐里と光は顔を見合わせてまた笑った


私は絶対に祐里を守ってみせる
彼女を傷つける人がいたら、どんな相手でも絶対に許さない
だって祐里は...私のかけがえのない親友なのだから

光は雑談をしながら心の中でそう呟いていると、急に台所の窓ガラスがガシャーンと割られる音

「きゃっ」
祐里が思わず悲鳴を上げ頭を抱えるが、光は冷静にリュックを2つ纏めると祐里、こっちに逃げるわよと玄関から素早い逃走

やがて台所の窓から遅れて入って来たのは小崎健太

「だから、俺が何が言いたいかっていうと、『祐里しか勝たん』ってこと!」
言って健太は水道の水を一気に飲み干すと、ふぅと息をついてその場に腰を下ろして祐里と光の後を追おうとはしなかった
Next
Back