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ついて行くまま走っていた竜也だったが、やがて不意に美緒が足を止めた

「ふふ、闇雲に走るのはよくないんだけどね。さすがにちょっと焦っちゃったよ」
そう言って笑みを浮かべる美緒には、またしても息が上がっている様子は見当たらない
おいおい、さすがの俺でもちょっときついかと思ったのにと竜也が感じていると、美緒はふふと笑う

「竜也。キミは練習サボりすぎなんじゃないの? どうして茶道部の私より疲れてる感が出てるのかな」
ぐうの音も出ない一撃を喰らい、思わず竜也は右手でサムズアップポーズをしてしまう
いや、そこ自慢することじゃないよとまた美緒はふふふと笑う

「にしても」
竜也が呼び掛けると地図を取り出そうとしていた美緒はすぐに振り向く。どうかした?と言いつつ、今いる場所の検討をつけている

「双尾に対する対応。よくあんな冷静に行けたな」
改めて竜がそう触れると、美緒はすぐに被りを振った

「あんなのただのハッタリだよ。お腹が空いてたみたいだから、パスタ残ってるよって教えてあげただけさ」
言って、まさかあんなすぐ逃げられるとは私も思わなかったと言ってまたもふふふと笑う

そのハッタリをかませるのがすごいと思うんだけどなと感じ、また美緒に借りを作ってしまったなという思い
正直、一人でこの舞台に放り投げられていたらもう死んでいるような気さえする
間違いなく“Anotherなら死んでた”(綾辻行人ism)
俺なんてモブキャラだしさ、“リドルなら生きてた”って状況には絶対ならないと思うんだ


閑話休題

「さて、これからどうしようね。竜也、キミは行きたい場所はあるかい?」
美緒にそう聞かれ、竜也はまた真顔で右指で立ててのサムズアップポーズからの“カラオケ!”と即答
思わず美緒はコケそうになって、違うよとそれを両手を振って否定する

「カラオケは確かに私も行きたいけど...って。今言うことじゃないだろ」
美緒はまた下を向いて笑っている。ホント、いつもと同じやりとりをしているだけに思える
そう、この首輪さえなければ

「キミはホント面白いね。チキンなのか肝が据わってるのか...どっちなんだい?」
美緒は下を向いたまま思わずそう呟いているが、ホントそれと自分でも思っている
基本的にはチキンで引きずるタイプなのは間違いないのだが、傍に仲のいい人がいてくれるとこうも強くなれるというか

「それにしても...やはりこの島は狭いね。ちょっと家に潜んでいただけなのに、3人とエンカウントしてしまうんだから」
美緒がしみじみとそう呟いている
ですよねーという感じで竜也もそれに頷いて呼応。しかし逆に言えば...

「ということは、だ。祐里や光と合流出来る可能性も高いんじゃないか」
竜也が言ったそれには、美緒がすぐに首を振ってそれを否定する
ん?という感じで竜也が美緒のほうを見ると、美緒はふふといつもの微笑み

「祐里ならともかく、光ちゃんは曲者だなぁ。すぐ見つかる場所にいると思えないんだけど」
そう言った後で、あぁと言って小さく頷いた

「もしもだよ。もし光ちゃんが祐里と一緒にいれば、見つけられる可能性は高くなると思うよ」
言って美緒はふぅと息をついた
思わず竜也がどういう意味?と訊くと、美緒はまたふふと笑う

「光ちゃんも祐里も運動は苦手だからね。2人揃うとすぐどこかの家に潜む感じになると思うんだ」
美緒はそう言うが、さすがにすべての家を虱潰しに当たるわけには行かない

「大丈夫だよ。言ったじゃない、私に策があるって。信用してほしいな」
美緒が自信あり気にそう言うので竜也は小さく頷いた。ホント頼りにしてます

美緒はまた地図を眺めている
竜也もそれを横から眺めるが、特に口出しはせずに曲を口ずさんでいるだけ
"あたり前じゃなくて いつも感謝していたい
今も君が元気で暮らしてる幸せ”

"どんな困難な道でもいい
退屈と無縁な明日に乾杯さ”
普通に歌い切ってしまう竜也に対し、地図を見て思案していた美緒はふふと笑っている

「確かに困難な道が待ってるよね。物理的にもいろんな意味でもね」
言って、美緒は急に今歩いて来た方角と逆の方向を指差す
それで竜也が何気なくそちらに視線を向けると

竜也は思わず天を見上げて大きく息をつく
向こうから一人の女子のシルエットが近づいて来て、その相手はこちらに向けて笑顔で手を振っている

「中嶋さんか。竜也、どうする?」
美緒が囁くと、竜也は即座に首を振るので美緒はすぐに頷く
そういえばさっき話してたもんね。信用ならないって

「杉浦と春川じゃん。一緒にいたんだ」
満面の笑みで由実がそう呼びかけてくるが、竜也と美緒は返事すらしない
それどころかそのまま振り返ってその場を立ち去ろうとするので、優美は慌てて声をかける

「ちょっと待ってって。何で逃げるのよ」
由実は慌ててそれを追うが、美緒と竜也は速歩から一気に駆け出し始めて聞く耳すら持たない

「何なのよ。杉浦さぁ、私たち同じ部活の仲間だよね?」
由実がそう問うと、竜也は不意に足を止めるので美緒もそれに従った

「仲間だ? よくそんなことしゃあしゃあと言えたもんだな」
竜也が珍しく強い口調で言い返すと、美緒がその肩をポンと叩いて宥める

「私たちはあなたと行動するつもりはないから。消えてくれるかな?」
言って、美緒はいつもの涼しい表情のまま拳銃を由実のほうへ向けた
それで由実は慌てて手を上げて攻撃の意思はないことを示すが、美緒は竜也に「じゃあ行こう」と囁くと同時に目を丸くして驚いている
竜也も思わず目を疑ったそれ。由実の背後にいつの間にか人影が現れていて、有無を言わさないでの殺戮ショーが開始されている

「美緒、見ちゃダメだ。早く」
さすがの美緒も目を丸くしたまま動けなくなっているので、竜也は慌ててその手を引いて走り出す


由実の背後から現れたのは田原翔だった
いつものトーチャーツールで殴打した後、どこからか取り出した強靭な鉄パイプでひたすら殴り続けて由実をただの肉片に帰る作業が完了している

「おのれえええ、おのれえええ! おのれ義信ー! オレの“ボール”吹っ飛ばしやがったぞ!」
相変わらずイキリ切った目でそう叫んだ後、不気味な笑みに表情を変える

「このプログラムに出てるヤツら、全員タダのオレの死体コレクションだ!」
言って叫ぶと、舌なめずりをしながら竜也と美緒の去った方向とは違う方向へ姿を消した
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