竜也は美緒の手を引いただけじゃなく、体を抱えるように歩を進めている
ついさっきまで、あれだけ“凛”としていた様子の美緒はもうどこにもいない
竜也が握る右手からは震えが伝わって来るし、体からもガクガクという震え
とりあえずな感じの落ち着ける場所、小さな公園を見つけたので竜也はそこへ美緒を導いている
手頃なベンチを発見し、そこに並んで腰かけることにした
「竜也...私のせいで、私のせいで...」
美緒は顔を覆って俯いている
美緒の中ではまだ先程の光景がフラッシュバックしているのだろう、竜也が何度となく呼びかけても返事はなく俯いて震えているだけ
「美緒、自分を責めるな。そもそも中嶋を拒んだのは俺の方なんだから」
言って、自分も自責の念にかられそうになったが今は美緒を元に戻すほうが先決であった
とはいえ、ここまで憔悴しきっている美緒を見たことがないわけでどうすればいいのか途方に暮れている状態
そしてこの場所に長々といるわけにも行かないと感じていた
かける言葉も見当たらなくなった
しばし無言のまま時間が過ぎて行ったが、美緒は変わらず俯いたままだったので竜也は黙って自分の肩の方へ抱き寄せる
“ドラマ”でしか見たことのない行為で、美緒の頭をよしよしという感じで撫でている
これが正解なのかすらわからなかったが、しばらくして美緒が「ありがとね」と小さく呟く
やがて美緒の方から離れ、ふふといつもの小さな笑い声
「ごめんね。キミを守るとか言っといてこのザマだよ。今まで去勢張ってたのがバレちゃうかな」
ようや美緒の口調もいつもの感じに戻って来てるので、竜也は内心安堵している
あのまま怯えたままだったらやばかったね。Enserio マジで
閑話休題
「教室で2人死んじゃった時はギリギリ堪えられたんだけど、さすがに私のせいで人が殺されちゃうのを見たら無理だったよ」
言って、美緒はふぅと息をついて空を見上げる
いつもならその横で見開きポーズをして天を見上げるとこなのだが、今はその時じゃないと竜也は察している
場を和ましたいのはもちろんだが、今はまだ早い
「なあ美緒」
竜也が不意に呼びかけると、美緒は顔だけ振り向いてくる
やはりさっきまでの涼しい表情は影を潜め、“竜也の知らない美緒”になっている。あぁ、これはまずいと竜也は直感している
ぶっちゃけ、ついさっきまで美緒を頼りにしていけば何とかなると楽観していたのだが、ここは俺がしっかりしないとと今更ながらに自覚が芽生えている
いや、正直俺も怖いんだけどね。けどそんなこと言ってる場合じゃないわけで
「美緒、その銃俺に預けてくれ」
竜也がそう言うと美緒は驚いた表情を浮かべ、やがて苦笑して首を振ってそれを拒否したのだが、竜也が再度促したのでようやく拳銃を手渡して来た
「美緒のことは俺が守るからな。10年前と同じように絶対にだ」
言って、我ながらカッコつけてるわーと照れくささを覚えた竜也だったが、美緒がまたふふと笑ってくれたので内心ほっとしている
「そういうとこだよ。やっぱりキミは私の王子様なんだね」
美緒はそう言ってまじまじと竜也の顔を見つめると、ふふふと再び笑む
そして表情もいつもの美緒に戻りつつあった
ふぅと竜也が息をついて、何度か首を振っているのを見て美緒は不思議そうにその様子を見ている
しばらくして、竜也は疲れたわと前置きしてから言った
「いやな、ようやくいつもの美緒に戻ってくれたかなーって。まあゆっくりTranquilo.で行こうぜ」
言って、竜也がいつもの見開きポーズをようやく披露すると美緒はバーカと小さく呟いたがまた小さく首を振ってから続ける
「けどホント、キミが一緒でよかった。私一人ならもうどうにかなってたよ」
美緒がそう言うが、それは俺も同じと思って竜也は内心笑いつつ小さく頷いている
またしばし沈黙が続いたが、やがて美緒が「さて、ここにずっといてもしょうがないか。さっき地図で目星をつけてたんだけど、どっちがいいかな?」
そう言って、美緒は地図を開くと竜也にそれを見せる
いい感じに開けた住宅街か、険しい道の隘路の中にある集落か
「竜也が決めて。私はキミの意見に従うから」
そう言って、美緒は竜也の返答を待っている
思わず竜也が美緒のほうを見ると、わざとらしいくらいにその目を見つめ返してくるので無駄に照れてしまう
それでふと目を逸らして立ち上がった矢先の出来事だった
不意に何か頭上に放物線を描いて飛んできているのを感じ、竜也はジャンプしてそれをキャッチしたが感触でこれはやべーやつと直感し、その姿勢のまま華麗にジャンピングスローで遠くに投げ捨てた
竜也が着地したとほぼ同時に激しい爆発音が響き、爆風まで届いてくるそれ
おいおい、誰だよこんなやばいもの投げてきたやつは...?
ふとその飛んできた方向に目を向けると、慌てて逃げていく人影が見えた
追うか?
一瞬そう考えた竜也だったが、一緒にいる美緒を連れて危険に身を晒す気は起きず、ましてこんなやばい行動を仕掛けてくるやつだけに他に罠があるかも知れないと直感した
「美緒、逃げよう。俺の答えはこっちだ」
竜也は美緒の手を再び握ると、その場から素早く立ち去って行った
「へえ、なかなかやるね。確実に仕留めたはずだったんだが」
高所から手榴弾を投げつけ、竜也と美緒を殺しにかかったのがまさかの失敗に終わって有沢拓司はちょっと不満そうな様子
自分の体力不足を補うため、頭脳で計算尽くした手榴弾テロだったが予想以上に竜也の洞察力と反射神経が優れていたという結果
「まあいい。あの男はさっさと始末しないとね。“僕の光ちゃん”と合流されたら面倒だし」
有沢はそう呟くと、リュックから地図を取り出しつつ竜也と美緒が走って行った方向と見比べる
「なるほどね。まあ彼の考えそうなことかな。まあゆっくりと追うことにしようか」
また有沢はそう呟くと、一人不敵な笑みを浮かべていた