祐里と光はようやくたどり着いた民家で一息ついている
「さすがにもう疲れた。動けないよ」
椅子に座って水を飲みつつ祐里は泣き言を言っている
同じように水を飲んでいる光も表情は冴えず、大きく息をついている
何度も一人で首を振っていて、いつもの凛とした表情は影を潜めている
しばし経った後、光はようやく地図を取り出した
今いる場所を確認した後、リュックから何かの荷物を取り出している
スマホよりは大きく、タブレットよりは小さい感じのよくわからない端末を取り出した光を見て、祐里は「何それ」とキョトンとした表情
「多分だけど、探知器か何かだと思うのよね。祐里が出てくる前に色々試してたけど使い道がいまいちわからなくて」
電源を入れつつ、光はまた首を傾げている
“光”が2つ点滅してる以外は、他には何も反応がないそれ
「多分誰かが寄って来たりしたら反応があるんだろうけど。それ以外は使い道なさそうなんだよね」
そう言って光が苦笑していると、祐里が貸してと言ってそれを受け取っている
祐里がいろいろ弄りまわしていると、光は小さく歌を口ずさんでいる
それに祐里が何となく耳を傾けると
“ラララ…
打ちまくれ 竜也
そーれ!
ラララ…
攻めろ 竜也”
と、『STARDUST』に乗せた応援歌だったので、思わずあははと笑っている
「なんで急に竜の応援歌歌ってるのさ」
そう祐里が突っ込むと、光は祐里のほうを見て小さく微笑む
「どっかの誰かさんが会いたそうな顔してるからよ」
光がそう茶化すと、祐里はちょっとむくれた様子を見せるが、すぐにあれ、これなんだろといって端末のほうを指差す
それで光が、「どうしたの?」と言ってその画面を見ると
どう弄ったのかわからないが、地図の位置がだいぶずれていてそこに点滅する光が2つ、そして
「これ、竜と美緒だよね? 出席番号がそう表示されてる」
祐里が言ったので光はすぐに頷いた。確かに竜也と美緒の番号が表示されているが、その場所は...
「遠いわね。しかもそこに行くには、さっきの道をまた戻らないといけないわ」
光がそう呟くと、祐里はあーぁと深いため息
竜也と美緒がいる場所が分かったのはよかったが、そこに行くには険しすぎる道再び
そして...
「また誰かと遭遇するかも知れないんだよね。実際人の気配たくさんしたし」
祐里がそう呟いて、また端末をでたらめに操作している
幸い今のところは近所に人がいる気配はないようだったが
「竜と美緒にさ、私たちがいる場所教えられたらなー」
祐里が思わずそう嘆いているが、それは既に光も考えて無理だと判断したこと
スマホでの連絡が不可能だと告げられている以上、手段が他に思いつかないのが実情だった
「Lineも使えないしねー。チャットでも出来ればいいんだけどなー」
祐里がそう言って、スマホを取り出して何かのゲームを起動させようとしている
光はそれを見て、ホントあなたって人はと呆れていた。そもそも起動するわけないじゃないと思っていたのだが
「アレ、普通に起動できるよ。何だったらガチャも引けたし」
祐里がそう笑っているのを見て、光は思わず貸してと言ってそのスマホを受け取る
しばらくそれを眺めていた光だったが、やがて確信を持ったように一人頷いている
「祐里...もしかしたら、私たちのいる場所を竜ちゃんに教えられるかも知れない」
光がそう言ったのを聞いて、祐里はえ?どうやってと思わず口に出している
その時、光はあまりにも近くに寄って来た祐里の首輪に目が行って何かが見えた
え、これってまさか...
そして光は自分のスマホをポケットから取り出すと、何かを打ち込んで祐里に見せた
『盗聴されてるわ。首輪にマイクついてる』
それを見せられて思わず祐里は目を丸くするが、光は大丈夫と言って小さく頷いてみせる
『祐里は竜ちゃんと同じゲームやってるのあったよね? そこで伝言残せばもしかしたら見てくれるかも知れない』
光が続けてそう打ったのを見て、祐里はすぐにスマホで作業を行っている
じゃあ私も、という感じで光は美緒と一緒にやっているアプリを起動すると“伝言”を残してすぐに落としている
『通知鳴れば一発なんだけどなー。竜はいっつもサイレントだから期待できないか』
祐里がそう打ってみせると、光は苦笑して頷いている
何度もあった光景。電話をしても、全然出ずにしばらく経った後に「ゴメン、サイレントで気づかなかった」というやりとりがどれだけあったことか
「ただ問題は、見たとしても来てくれるかな...?」
祐里がちょっと寂しそうに呟くと、光はそこなんだよねと同意を示す
竜也だけなら間違いなく来てくれるという確信があるが、今日の美緒はあまりにも不可解な点が多すぎる
教室内ではもちろんだが、目と目が合った瞬間での逃走はさすがに理解できるものではなかった
本来なら絶対合流しようとはしない状況なのだが、祐里の気持ちを考えるとそれを無碍には出来ない状態
もしそれを断固拒否しようものなら、祐里は私を置いて竜ちゃんのところに向かってしまうという確信があった
「しばらく様子見て、反応なさそうならこっちから行ってみようか。夜とかならこっそり行けそうじゃない?」
祐里が笑みを浮かべながらそう言ったが、それに光は首を振ってすぐに否定した
何で?と訝しがる祐里に対し、光は小さく笑みを浮かべている
「暗闇であの道を私たちが歩くのは辛いよ。絶対ケガするって」
そう言われると祐里は言葉の返しようがなかった。ぶっちゃけここに来るだけで相当しんどかったのは事実なので
「お願い。見たらこっちに来て」
祐里は心の底からそう願っていた