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一方その頃、西陵高校野球部は臨時招集がかかっていた
今日は学校が開校記念日で休みなので部活も中止の予定だったが、急遽のそれ

それぞれ部員はグラウンドに集まっているが、当然竜也と祐里、そして由実の姿はない
仲村が“全員”集まったのを確認すると、万田と安理に声をかける

「万田と千葉。お前ら、明日からセカンドに入ってもらうぞ。大会までもう時間がないからな、勝ったほうがレギュラーだからしっかりやれ」
険しい表情でそう言った仲村に対し、部員たちからは驚きの声が上がる

それもそのはず
“プログラム”に巻き込まれているというのは、教師たちは知っているが生徒たちは誰一人知らないのだから当然である

「監督。杉浦くんがいないときにレギュラー剥奪は厳しくないですか?」
思わず京介がそう挙手して意見すると、部員たちからはそれぞれ同意を示す声が上がる

「監督、まさか杉浦を本格的に投手にする気ですか? 確かにいいスライダー投げてたけど、トータルで考えれば久友のが断然上ですよ」
チームの要、主将の千原はエースの久友を見てちらっと笑ってそう声をかけるが、まだ仲村は無言のまま
やんやと盛り上がる中、和屋が余計なことを言って場の空気を和ませる一撃

「あぁ、そういえば進藤ちゃんもいないね。ということはあいつら、駆け落ちでもしたんじゃね」
和屋がそうぶちかますと、和屋の首を万田が締めあげる

「ざけんなって。進藤は俺の嫁になるんだぞ」
なぜか本気で切れて和屋をチョーク気味に締め上げる万田を、御部が満面の笑みで止めに入る

「そんなに進藤いいか? あいつケツ小さいじゃん」
御部が意味不明の発言でそう宥めていると、然り然りと安理が頷いている

「確かに進藤は顔はいいかも知れないけど、彼女には致命的に足りないものがあるよ」
そう言って意味深な表情をして一人頷いている安理に対し、知ってるーと周囲が声をかけている

そのやり取りを黙って見ていた仲村だったが、やがて「一旦静まれ。お前たちに話しておくことがある」と静かに声をかける
なかなか喧騒は収まらなかったが、やがて部員たちはそれぞれ整列する
それで仲村から部員たちへ告げられたのは悲しい事実だった

「2年1組がプログラム対象クラスに選ばれた。おそらく杉浦も進藤も、そして中嶋ももう戻って来ることはない」
仲村が悲痛な表情でそう告げると、部員たちはそれぞれ顔を見合わせて驚愕している

「ちょっと待ってください。何で今更そんなものが行われてるんです?」
樋口がちょっと激高気味にそう言うと、仲村はただ静かに首を振るだけ。国が決めたことだと言って寂しそうに遠くを見つめている

「先生、何とかならないんですか。あいつら仲間ですよ。助ける方法はないんですか!?」
部員がそれぞれそう叫んだが、仲村は思わず苦笑して両手を振っている

「おい、俺はただの教師だぞ。なに無茶ぶりしてるんだ」
そう言って空を見上げる仲村の目には何か別の輝きを帯び始めていた


一方、豊川秋生を嗾けた有沢拓司は、予想外の出来事に思わず頭を抱えていた

“杉浦と春川さんが一緒にあの家にいるよ。彼らのせいで君は文化祭で評判が悪かったんだ”
我ながら何を言ってるかわからないなと思いつつも、秋生はふーんという感じでその家へ向かっていったまではよかったのだが
まさか2人を殺そうとはせず、ただ家の破壊に勤しむとはさすがに想定外だった
木村樺雄を惨殺する姿を目撃して、これは使えると踏んだまではよかったんだが...

「詰めを誤ったか。まあまた別の手を打てばいいだけか」
そう呟いて、不敵な笑みを浮かべたまま有沢は竜也と美緒の後を静かに追った


小崎健太は棒を持ってまた歩き始めている
狙うはただ一つ、杉浦竜也の『首』を獲ること

このプログラム、勝たなきゃ意味ねえから。それ以上でも、それ以下でもねえから
てっきり進藤祐里がいるから、あの男も一緒にいると踏んで突撃したらいなかったので追撃は一旦そこでやめた
俺はアイツだけは認めてねぇんだよ。アイツ“だけ”は!アイツだけはね、キライなんだよ。

理由なんて簡単だよ。俺が、『コイツ、ダメだな』『コイツ、伸びねぇな』って思ったヤツ、だいたいスターになってっから
……ってダメじゃねぇか、じゃぁ!見る目ねぇじゃねぇかよ!どうなってんだ!アイツはダメだ。アイツ、ダメ。そんな俺が言うけど、アイツはダメ
俺が認めてるヤツ、誰か分かる?安理……ダメじゃねぇかよ、だから!

健太は内心で一人ボケ一人ツッコミを繰り返しているが、きっと祐里と竜也は合流すると睨んでいた
その時は、絶対に“殺る”と胸に秘めている
1日1日やってくから。"ザ・ドラゴン”だか“星屑の天才”だか知らないけど。あんな特徴もない、顔がいいわけでもスタイルがいいわけでもなく、歌がとりたてて上手いわけでもなくちょっと俺より背が高いだけの“アレ”が、何で進藤祐里や水木光、そして春川美緒のような美少女とイチャイチャしてるんだって話
女に興味ない空気出しておいて実はチャラいじゃん、いや、中学の時の俺かよ

要は、単に傍目から見てモテモテに見える竜也への嫉妬でしかなかった
去年の文化祭の締め
竜也が『オイ、西陵。シーユー、ネクストイヤー』とぶちかました後に右拳を高く掲げてそれに祐里、光、そして美緒が追従して拳を合わせたあの光景
無駄に盛り上がる他の生徒とは一線を画して、健太は苦虫を嚙み潰した表情でそれを見ていた
あぁ羨ましいじゃねぇや、あぁ憎たらしい



美緒の作った残りのスパゲティを食べ終えた双尾だったが、すぐに空腹を催している

「おい、俺にちゃんこを...ちゃんこをくれ」
そう言って島を彷徨っているが、なかなか家すら見つからない
春川美緒は料理が上手だった。そして進藤祐里も料理が上手いという評判を聞いている
よし、その2人をとっ捕まえて俺にちゃんこを作ってもらおう
双尾はそう考えゆっくりゆっくりと島を歩いている

「報酬はいらない。今でもちゃんこが好きだ」
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