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家は無事発見できたが、果たして本当にここに祐里と光はいるのかわからない
“追っ手”はとりあえずいないようで一安心ではあったが、それはそれ

「竜也、どうする。祐里と光ちゃんはここにいると思う?」
どうやら美緒も確信は持てていない様子で、判断を竜也に任せる雰囲気を醸し出している
とはいえ、ノックするわけにも行かないし窓ガラスを叩き割るわけにも行かないよなーと考えていると、不意に美緒が竜也の手を引いて別の場所へ行こうと促している

ん?と竜也がそちらを見ると、美緒は静かに首を振った

「ここじゃないみたいだ。東田の姿が見えたよ」
そう告げ、美緒は早くここから立ち去りたいオーラを全開に出しているので素直に従うことに

どうやら東田はこちらには気づいていないようで“追撃”はなかったが、美緒の歩くペースは異常に速かった
もう既に家からだいぶ離れているのに、その速度を落とす気配がないので竜也は思わず「もう大丈夫じゃないか?」と声をかけると、美緒は静かに首を振るだけ
そしてだいぶ経った後、ようやく美緒は歩くペースを緩めるとふぅと大きく息をついた
そのペースに付き合って歩いていた竜也もやがて歩を緩めると、「とりあえずお疲れ」と声をかける

ふふと美緒はそれには笑みを浮かべたが、やがて先程の家のほうを目を細めて見つめると小さく首を振った

「ごめんね。どうしても東田だけは無理なんだ」
本気で嫌がってる素振りを見せていることに、触れていいのか竜也が悩んでいるのに気づいた美緒はゴメン、という感じで両手を合わせてみせる

「竜也には教えてあげるよ。あいつしつこくてね」
そして美緒が話し出したのは想像を絶するゲスいネタ

何度断っても毎日のように“デート”のお誘い
教えてもいないのにLINEもしてくるし(即ブロック)、マンションの前で待っていたこともあったとか

「言ってくれれば何とかしてやったのに」
思わず竜也がそう呟くと、すぐにそれは美緒が被りを振る

「嫌だよ。こんなくだらないことでキミに迷惑かけたくないからね」
そう言った後、小さくありがとねと美緒は呟いている
実際、一度東田に匂わせたことはあった

"私は好きな人がいるから無理だよ”
教室で竜也の席を見ながらそう美緒が告げると、東田はそれを鼻で笑って否定する
「あんな奴よりどう見ても俺のほうがいいだろ。大体、あいつは進藤のこと好きだろうが」

美緒も内心感じているそれを、面と向かって大嫌いなやつに言われたのだからたまったものじゃない
それ以来、美緒は東田の顔どころか、名前を口に出すことすら嫌になっていた
ただそれだけの話


「何か大変だな。東田といい、後藤といい。モテるってのが俺にはわからんからさ」
竜也がしみじみ呟くと、美緒は思わず噎せている
どうした?と竜也が心配そうに言うと、美緒はまたいつものふふふという笑み

「いやね、目の前にキミのことを好きだと言った人がいるのに平気でモテないとかいう人がいることが信じられなくて」
やれやれという感じで見つめてくる美緒の視線に思わず照れ、竜也は横を向いて頭を掻くとその視線の先にはまた一軒の家があった

"出逢いはとても不思議な時の贈り物ね”
竜也はそう口ずさみつつ、美緒にその家を指差す
一瞬キョトンとした美緒だったが、やがて小さく頷いて"偶然私もそう感じてた あなたのすぐそばで”とまさかのアンサーをしてくる

「きっと祐里と光ちゃんはあの家にいるね」
美緒がそう呟くと、竜也も全く同じ思いだったのですぐに頷いた

そして足をその家のほうに向け、すぐに到着したのだったが
問題はどうやって合図をするかだった

あまり派手に音を立てるわけには行かないのでチャイムを鳴らすわけには行かないし、窓ガラスを割るとかは論外
思わず竜也と美緒は顔を見合わせ、どうする?とどちらからともなく呟いている

まさか大声で叫ぶわけにも行かないし、ノックしたところで不審がられるだけ
ドアノブを回してみるが当然のようにカギはかかっているわけで、さてどうしましょう

そんな時だった。昔の記憶が不意に頭に過る
"窓をコン、コン。コンコンコン”と叩いて、お互いの玄関からじゃなく窓から呼んで合図をしていたことがあったそれを、竜也は美緒に伝えると、美緒も「あぁ、あったね」とにっこりと微笑む
それで居間に通じてると思われるしっかりとカーテンのかけられたベランダの窓を、コン、コン。コンコンコンと叩いてみた

間もなくカーテンが開かれ、そこには驚きと喜びの表情があいまった祐里の姿がそこにあった

「今玄関のカギ開けるからそっちで待ってて」
祐里はそう言うが早いか、慌ただしく玄関の方へ走って行くのが見える

“光、、竜と美緒が来たよー”
光を呼ぶ声もはっきり聴こえ、竜也と美緒は思わず顔を見合わせて笑みを浮かべる

竜也と美緒が玄関につくと同時、その戸は開かれる

「よっ」
竜也と美緒が声をかける前に、祐里がそう呼びかけつつ、早く入ってという感じで促したので竜也と美緒は周囲を見渡しつつそれに従う
入ると同時、祐里はまたドアに鍵をかけるとよかったーと大きく息をつく

「美緒ちゃん、お話があります。上に来てください」
階段の向こう、光が2階の部屋から顔を出してそう呼んでいる
予想に反して、その表情は小さく笑みを浮かべていたが美緒は思わず頭を抱える

「祐里、竜也をお願いね」
美緒は祐里の耳元でそう囁くと同時、"あぁ、怒られてくるかー”とおどけた感じで階段を上がっていく

お願い? え?
いつぞやの引っ越しの時と全く同じセリフを言い残していく美緒に戸惑いつつ、玄関に取り残される竜也と祐里

「疲れたでしょ。こんな状況だけどさ、みんな揃ったし落ち着いていけるよね」
祐里がそう話しかけると、竜也はいつもの見開きポーズをしてみせる

「そう。まさに...Tranquilo.あっせんなよ!」
決め台詞まで言ってしまう竜也を見て、私は何をお願いされたんだろと思わず祐里は考えていた
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