あははと笑う祐里の声が2階まで響いてきたので、光は思わず静かにしなさいと叫んでいる
いや、光ちゃんの声も結構大きいよ?と思い美緒は小さく笑みを浮かべる
そしてすぐ光は美緒のほうに向きなおると、意味深に笑ってみせる
「さて、私は謝ればいいのかな?」
悪びれもせずに美緒がそう言うと、光は小さく首を振った
ん?という感じで美緒が首を捻ると、光も同じように意味深な笑みを見せる
「プログラム緊急条項33条4項」
光がそう呟くと、美緒は思わずふふふと笑ってしまう。バレてた、見破られてた
「やっぱりね。さっき色々調べてたら、そんなのが見つかってね。今までの美緒ちゃん、そして今日の美緒ちゃんの様子から判断して、きっとこれだなーって」
光が涼しい顔でそう告げると、美緒は参りましたのポーズをするが、すぐにいつもの表情に戻る
「祐里には言った?」
美緒がそう聞くと、光はすぐにそれを否定する。言えるわけないじゃない。まあ知ったの今さっきなんだけどと言って小さく笑う
「そっか。まあ断られちゃったんだけどね」
美緒が自嘲気味に呟くと、光は何とも言えない表情を浮かべている。返事に困る的な
それで美緒がまた続ける
「祐里と光ちゃんを置いて自分だけ逃げるなんて出来ないだって。ホント、無駄にカッコつけるよね竜也はさ」
美緒が首を振りながらそう呟いたのを聞いて、光は黙って頷いている
「そうね。いかにも竜ちゃんって感じ。大概自分勝手なとこあるくせに、祐里が絡むともう別人だから」
光が笑みを浮かべながらそう言うと、わかると美緒も同じく笑みを浮かべて頷く
「ホント、せっかく私が“社長”の座まで準備してあげたっていうのにさー」
美緒は1階のほうを見ながらそう言って笑っているが、光はまた表情を真剣なそれに戻している
それに気づいた美緒は、どうかした?と思わず尋ねる
「美緒ちゃん...あなた、いったい何者?」
竜也にも似たようなこと聞かれたなーと思い、美緒は思わず苦笑しているが光の視線は研ぎ澄まされたそれ
冗談を言える空気ではないのを察して、美緒は表情を切り替える
「私は私だけどね。ただ一つだけ言えるのは、このプログラムが起きるのを知っていたってだけ」
2年の2学期、文系のクラスが選ばれる
美緒が知っていたのはそこまで。なので美緒がした工作は、竜也、光、祐里と同じクラスになるように細工をした
ただそれだけ
1/3で選ばれなければそれで終わりだったのだが、運悪く選ばれてしまった
それで『緊急条項33条4項』の実行を計画したが、大体予想通りの頓挫
しかし美緒にはもう一つ隠し玉がある。それはまだここで披露できるものではないので言うつもりはない
「なるほどね。一応それで納得しておいてあげるわ」
光も大体察したのか、あくまで上から目線でそう返す
最初のうちは祐里の笑い声が2階まで届いていたが、今ではまるでそれは聞こえない
自重してるだけならいいが、どうもそんな感じがしないので美緒はちょっと思案顔
それに気づいた光が、何かあったの?と思わず訊いている
「ちょっとね。2人ほど死ぬのを間近で見ちゃったかな」
遠い目をしてそう呟く美緒に、光はかける言葉が思いつかない
「中嶋さんに後藤ね。間接的に私たちが関わっちゃってるからさ、竜也にはだいぶ堪えてると思うんだ」
言って美緒はもちろん私も辛いんだよと付け加えているが、光はそれがすごい納得できている
竜也がすぐに心を切り替えることが出来ない、悪くいえば引きずるタイプというのは承知しているので、今居間でもしかしたら落ち込んでいるのかも知れない
その様子が手に取るように目に浮かぶのでちょっと心配になるが、美緒が「だから祐里に、“竜也をお願いね”と言って来たんだけど察してくれるかな」と言って小さく笑っている
光はそれでまた小さく頷いた
「それなら大丈夫でしょ。あの子も竜ちゃんのことなると自分のことのように心配するからね」
言ってすぐ、もしかしたら2人で沈んでるかも知れないねと続けてふふと笑っている
「ふふ、それは笑う場所なのかな?」
美緒も同じようにふふと笑っていると、光はまた表情をいつもの真剣な眼差しに変えた
そしてスマホを取り出すと、何かを打ってそれを美緒に見せる
『美緒ちゃん。脱出の方法はあるの?』
それを見た美緒はすぐに頷いて、その後すぐに同じようにスマホを取り出してから文字を打って光に見せた
『盗聴気づいてるとはさすがです。あるけどね、まだ言えない。秘密なんだ』
美緒は指を3本立てて見せ3日間頑張ろうと呟くと、またスマホで文字を打つ
『3日目の午後19時。そこまで私たち4人だけなら何とかなるよ』
意味深に笑みを浮かべる美緒に対し、疑問があった光はまたスマホに文字を打ってみせる
『他に誰かいた場合は?』
スマホを翳す光に対し、美緒は一度1階に目をやってからニヤリと笑うとまさかの見開きポーズで光を見つめる
「その答えはもちろん...言わなくてもわかるよね?」
光はそれで、やられたという感じで何度か首を振った
そしてこれからの打ち合わせが始まる
光が、しばらくこの家で安全かな?と訊くと、美緒はすぐに首を振ってそれを制した
どうして?と聞く光に、美緒は苦笑してある人の名前を告げる
「東田がすぐ近くの家にいた」
その名前を聞いた瞬間、光は思わず噎せてからすぐに自分を両手で抱えるようにする
本気で怯えている様子を見て、美緒は「やっぱり光ちゃんも狙われたのか」と思わず呟く
光はすぐに頷き、思い出したくもないわとバッサリ切り捨てると美緒は何度も頷いて同意を示した
「カーテン越しに東田のシルエット見えた瞬間ね、吐きそうになって竜也の腕引っ張って逃げて来ちゃった」
こちらも本気で嫌がってる素振りを見せる美緒に対し、光はあぁ、いつもの美緒だなと感じで内心胸を撫で下ろしていた