戻る
「よっ、久しぶりって。随分背伸びたな」
3年ぶりの再会、当時は156センチだった竜也は今は180センチ
浩臣も165から175まで伸びているのだが、越されているとは想定外だったようで思わず笑みを浮かべている

「そういう伊藤くんはずいぶん体が厚くなったなー」
竜也はいかにも投手という体型に進化した浩臣を見て感心していると、浩臣は力こぶを作ってみせる

場所はファミレス
互いに昼飯を食べながら、旧交をわかり合っている

「ったく、あと1勝で甲子園だったんだぜ? 悔しいわ」
チキンステーキを食べつつ浩臣がそう言うと、竜也はそれ去年の俺も一緒と言って小さく笑う

「今年は全然ダメだったわ。ちょい考えすぎてさ」
竜也はいつものコーラを飲みつつそう呟くと、浩臣は何度も頷いている

「言ってたな。まあイップスもだいぶ良くなったみたいだし、秋は行けるんじゃね? 選抜で会おうや」
軽く言ってくる浩臣に対し竜也は苦笑しつつ、スマホに着信があったのでちょいごめんといって離席

すぐに戻り、ゴメンという感じで手を合わせる竜也を制しつつ、浩臣はニヤリと笑みを浮かべる

「女の声がしたな。進藤だっけ。あいつか?」
しかしすぐに竜也は首を振ってそれを否定したので、浩臣はちょっと怪訝な様子

「竜に他に女友達がいると思えないんだがな」
浩臣が真顔でそう言うと、竜也はニヤリと笑ってスマホを開いてみせる
ん?という感じで浩臣がそれを見ると、文化祭での4人でグータッチをしている時の動画が流れている
それを見て浩臣は目を丸くして驚いている

「って、これ春川美緒だよな? 何で函館にいて竜たちとグータッチしてるんだ??」
明らかに驚いている浩臣に対し竜也は『幼馴染』ということを伝えるが、逆にどうして美緒のこと知ってるん?と聞く羽目に

「それ聞くか。俺振られてるんだよ、春川に。しかもすぐそのあと転校しちゃってな」
言って烏龍茶を痛飲する浩臣に対し、竜也はいつもの正直スマンカッタ(佐々木健介ism)の洗礼
思わず噎せる浩臣を見て竜也はゴメン、と言って笑いつつ「電話は美緒からだった。部活休みなの?だって」

「って、名前呼びしてるのかよ。ムカつくわー」
そう言いつつも、浩臣の目は笑っている。竜也もそれでつられて笑い、「名字で呼ぼうとしたら本気で睨まれた。その時の顔見せてやりたいよ」と言いたい放題

「そっか。つかすげえな。文化祭で“バンド”だっけ」
浩臣が感心したように言うと、竜也はいつもの無言でサムズアップポーズをみせた後、急にスマホで浩臣の画像を撮ろうとする

「おい、写真はNGだぞ。つか男の写真撮ってどうするんだ」
言って笑う浩臣に対し、竜也はまた無表情でサムズアップポーズ

「美緒に送る」
ボソッと竜也がそう言ったので、浩臣はマジでやめろよと言って大笑い
しかし結局2ショットで写真を撮ることに成功し、それを美緒に送ると「え、キミたち友達だったの?」と期待通りのリアクション

「しかし世の中って狭いな」
浩臣がしみじみ呟くと、竜也は同意するように何度も頷いていた


食後の運動という感じで、2人はバッティングセンターへ
ストラックアウトで7枚を披露する浩臣に対し、竜也はなあ伊藤くん、変化球教えてと突然のお願いタイム

「お前セカンドじゃん。投手じゃないのに何でよ」
浩臣は当然の質問をするが、竜也は真顔でサムズアップポーズ

「危機管理を兼ねて。試しにフォーク投げたことあるんだけど、全然落ちなくて」
言って、竜也はフォークの握りを披露するが、それを見て浩臣は首を傾げている
ちょい手見せてと言われ、右手を開いてみせると浩臣は一人頷いていた

「竜さ、お前手のひらがでかいけど指の長さは普通だな。それならスライダー縦回転にしたほう投げやすいかも」
それからしばらく浩臣によるスライダーのレクチャー
どさくさ紛れに高速スライダーや、カットボールまで教えて貰っている

「じゃあ俺からも。バッティング少し教えろよ」
浩臣がちらっと笑うと、竜也は俺夏大会打率.091だぞと言って笑みを返す

実際、教えることはないくらい浩臣の打撃はシャープなそれ
ドヤ顔で快打を繰り返す浩臣に対して、「あと足りないとしたら....愛だな」と言ってまたもサムズアップポーズでぶちかます竜也を見て浩臣は思わず噎せる

「ったく、少なくともお前よりはモテてると思うぞ」
ブースから出てきて浩臣が思わずそう呟くと、竜也はすかさずスマホでどこかに電話しようとしているのを見て慌ててそれを止める

「やめろ。春川に連絡しようとするな」
浩臣はガチで懇願しているので、竜也はそれを見て小さく笑った


「さて、次はどこ行くか。実践でも出来ればいいんだけどな」
バッティングセンターを後にして浩臣がそう話しかけようとして、思わず目を丸くしている
竜、てめえと言いかけたが、その本人竜也も驚いているそれ

「ふふ。やっぱりここにいたんだ」
バッグ片手に微笑んで佇んでいる美緒がそこにいた

「ファミレスの写真見てね。きっとここにいるんだろうなーって思って待ってたら期待通りだったよ」
涼しい顔でそう言う美緒に、竜也と浩臣は顔を見合わせて苦笑している
どれだけ待った?と竜也が訊くと、美緒は小さく頷いて微笑んだ

「待ってたのは嘘だけどね。たまたま通りがかっただけだよ」
言って、美緒は近くの百貨店の袋を見せる

これはまさに、“Destino.”だなーと思い竜也が一人頷いていると、浩臣は思わず大きく伸びをしている

「しゃあない。カラオケでも行くか?」
浩臣が思わずそう言うと、竜也が返事をする前に美緒が首を振った

「ちょっと行きたいところあるんだけど。いいかな」
美緒がそう言ってちらっと笑ったので、竜也と浩臣はそれぞれ頷いて従うことに
Next
Back