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「ったく、男どもは碌な話しないんだからさ」
聞き終え、祐里が呆れた感じでそう呟くと竜也は否めないという感じで小さく頭を下げた

「けどさ、自分が褒められてるの聞くのは悪い気しないね」
言って、祐里はあははと笑いながら立ち上がって冷蔵庫へ向かった
それで竜也はふと壁にかかっている時計に目をやると、もうすぐ4時半になろうかというところ
外はまだ割と明るかったので気づかなかったが、結構時間が過ぎていたことにちょっと驚いている

祐里は水のペットボトルを2本持って戻って来ると、一つを「飲む?」と言って竜也に手渡す
にゃ、俺はいいよと竜也が言うと祐里はそっかと言ってテーブルにそれを置く
受け取りはしなかったけど、こういう何気ない気配りが出来るからこそ人気があるんだろうなーと竜也は内心感じている

常日頃から、とにかく気が利くのが祐里の凄いところ
ほぼ初対面の光のイジメへの対応なんて、竜也はもう感心しかなかったわけで
もしその場に俺だけがいたなら、あんな対応できたとは決して思えない

そう考えると、やはり出会いは偶然の贈り物なんだなーという思いがあった
今となっては祐里、光、美緒と一緒にいることが当たり前と思っているが、あの日あの時あの場所で光が立ち尽くしていなかったら、きっとただのクラスメイトのままだったはず
同じ空間にいるだけで、会話を交わすことなどきっとない

祐里が水を飲み、竜也がボケーっとしていると階段を下りる音が2つ聞こえてくる
やがて光と美緒が居間へ顔を出す

「話は終わったの?」
祐里が聞くと、光はすぐに頷くが美緒はなぜか項垂れた様子を見せる

「苛められて疲れちゃったよ」
美緒はそう軽口を叩いているが、表情はいつもと同じそれで目が合った竜也に対して小さく笑みを浮かべる余裕がある
それで竜也は、無事謝罪は終わったんだなと納得していた

「あ、お水ちょうだい」
光は竜也が辞退した水に手を伸ばしているうち、祐里は美緒に目で合図を送っている
美緒がん?という感じでそれに反応すると、祐里は「ちょっと話したい事あるんだけど。向こうの部屋に行かない?」と言って奥の間を指差している

美緒はふふといつものように笑みを見せた後、竜也のほうを見てわざとらしく項垂れてみせる

「竜也。どうして私ばかり責められるんだろう。助けて欲しいんだけど」
それを聞いた祐里は別に責めるつもりないしと言って思わず苦笑しているが、それでも話があるのは事実のようで奥の間へ再び促している

「諦めて行って来い。あ、ちょっと待て」
竜也はそう言って立ち上がると、冷蔵庫から水のペットボトルを1つ持って来てそれを手渡す

「ほら、これで喉潤して戦ってこい」
竜也が茶化すと、美緒と光はそれぞれ顔を見合わせて笑みを浮かべている

美緒、早くーと祐里の声が届いたので、美緒はじゃあ行ってくるよ。またねと言って居間から去って行く
 
竜也と光は居間に残された
何となく間があったので、竜也が再びスプライトに手を伸ばして飲み始めると光はふふと笑って同じように水を飲んでいる
 
「ホント、貴方は炭酸好きね」
光がそう呼びかけると、竜也は例によってサムズアップポーズで返答

「で、美緒のこと許してやってくれたん?」
竜也が笑みを浮かべながら聞くと、光は掟破りのサムズアップポーズ返し
やるなという感じで竜也もまたサムズアップポーズをする意味不明な空間

祐里と美緒は戸を閉めていて、竜也はそちらに聞き耳を立てているが会話は何も聞こえて来ない
それで竜也は光に、「なに話してると思う?」と思わず質問タイム
光はわかるわけないじゃないとそれを一笑に付すと、逆に「どうして美緒ちゃんの“誘い”を断ったの?」と返されてしまう

竜也はそれを受け止めると、真顔のまままたもサムズアップポーズ

「大事な"pareja”を置いて俺一人ぬくぬく生きていくわけに行かないでしょ。Por fin encontre mi "lugar"y"parejas"だからな」
言って、竜也は得意の右拳を掲げて天を見つめるポーズ

ふふ、私も拳を上げればいいの?と光は笑みを見せると、竜也はそれを促すがさすがに光は追従しない
目を細めて竜也を見つめると、「ようやく2人切りになれたね」と謎の発言をする

ほ?という感じで、竜也がキョトンとしていると光は竜也の耳元で『緊急条項26条4項』と、よくわからないことを囁いてさらに竜也を困惑させる

本気で困って目を丸くして、何度も首を傾げている竜也を見て光はまたふふと笑ったあと、ごめんねと言って小さく手を合わせた

「ちょっと揶揄いすぎたかしら。竜ちゃんは美緒ちゃんからどこまで聞いてたの?」
光がそう尋ねると、竜也は素直に何も知らんぞと返す。上級がどうのこうのしか聞いてないぞ、と
光はそれを聞いて頷くと、「美緒ちゃんらしいね」とだけ言って一人満足げ


「逆に聞くけど、光は美緒のこと許したん? ガチ逃げしたんだろ。俺も気づかなかったとはいえさ同罪なわけだし」
竜也がちょっと神妙な様子で言うと、光はまたそれを一笑に付す

「ふふ、もうその件は終わった話だから」
そう前置きしつつ、光は続ける
「それよりもこれからだからね。竜ちゃんには私たちを守ってもらわないと」
言って、光はテーブルに置いてあった銃を持って、バーンと撃つ振りをしてみせる

予想外の行動に竜也は思わず吹き出すが、祐里と美緒のリュックもその場に置かれていることに気づく
あ、これいちおう届けたほうがいいかな...

なぜかそんないらない配慮が脳裏に浮かび、ちょっと荷物届けてくるよと言って席を立つと光は思わず笑みを浮かべる

「竜ちゃん、そんなに向こうの様子が気になるなら混ざって来ればいいのに」
しかし光はあえて止めようとはせずにそれを見送ると、また一人思案顔

「お待たせー」
竜也が戸をノックしつつ、リュックを持って部屋に入るとそこにはテーブルを挟んで向かい合う二人の姿

「ふふ、何しに来たの?」
美緒はいつも通りの笑みをたたえている表情だったが、祐里は思いつめた表情で竜也と目を合わせようとしない
これはまさにお邪魔だなと感じた竜也は、リュック2つを美緒に見せつつその場に置くとすぐに居間へ戻った
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