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「冗談はさておき、早く祐里と美緒探すか。向こうは俺たち来るの待ってるだろうし」
竜也が表情を戻してそう言うと、光はふふと小さく笑みを漏らす
急に真面目なこと言わないでと言わんばかりにかぶりを振ったが、やがて小さく頷く

「それはそう。あれだけの大きな音が鳴ったわけだからね、ここに留まってると他に人がたくさんやって来て面倒になるわ」

それならばここで立ち止まっている必要はないわけで、二人は狭い道を進むことに

幸い誰にも遭遇せずに進めているが、いざという時に備えて気が休まる暇がないのが辛いところ
元から口数の多い二人ではないだけに無言での移動が続いている

ちょっとした物音にも警戒しながらなのは余計に疲労感が募る

「さっきまでは何とも思わなかったんだけど」
沈黙を破り竜也がそう呟くと、1歩遅れてついて来ている光はん?という表情

「腹減って来たわ。やきとり弁当でも買いに行くか」
相変わらず空気と状況を読まない発言を竜也がかますと、光は小さく笑みを浮かべてすぐに首を振った

「竜ちゃんの奢りならもっと美味しいもの食べたいわ。例えば...」
言って、光は竜也の横に立つとしっかりと目を見つめる

「ビッグマックとポテトのSでいいわよ」
思わぬファストフードの提案。私たちは学生だからねと言って光が笑うと、まあなという感じで竜也も頷く

マクドよりラッピのがいいなと竜也が笑うと、たまには悪くないでしょと光が続ける
まあポテトはマクドのほうが美味いわなと竜也が内心思いつつ、祐里と美緒がどこへ隠れたかを考えてみる


「祐里と美緒ちゃんは私たちが探知機を持っているから、きっと建物の中にいるわね」
竜也が考えを言う前に光がそう結論付けてきたので、さすが才媛様には敵わないなと内心舌を巻く
ならもう1個俺が考えたことを言おうかと思っているうち、光が続けている

「そんな遠くには行ってないと思うな。美緒ちゃんだけならともかく、祐里がいるからね」
またしても先を越されてしまうが、考えが同じことに竜也はちょっと嬉しい気分
“漢字コンクール”以外に光と頭脳勝負で勝てる気はしないだけに、同じことを思っただけで進歩してるなと自覚させてもらった

「とはいえ出てすぐの家にいるとも思えないよな」
竜也が歩きながらそう言うと、光はそれに同意するように頷いた

「さっきの騒ぎを聞きつけて東田が出てきそうだな」
竜也がそう揶揄うと、光は鋭い視線で竜也を思わず睨む

「竜ちゃん...次にその名前出したら絶交だから」
光からいつもの柔和な表情は完全に消え、ガチでぶち切れる5秒前(広末涼子ism)状態
美緒も東田を嫌ってたけど、それ以上の拒絶を感じたのでもう冗談でも名前を出すことはやめようと竜也は心に誓った

「ところで水木さん、一つ聞きたいことがあるんですが」
思い切り下に出た竜也がそう質問すると、光はさらに表情が険しくなった
“空気が悪いから”名前呼びを止めて名字で呼んだのだが、それがさらにご機嫌を損ねる展開に
竜也は思わず頭を掻き、何度か首を振った。やっぱ辛ぇーわ。祐里、美緒。助けてください! 助けてください!(世界の中心で愛を叫ぶism)

「何? 聞きたいことがあるなら早く言って」
いつになく冷たい口調で光が言い放つので、竜也は内心震えている
ちらっと光の表情を伺うと、それはもう見たことのない怖い表情...と思いきや、小さく笑みを浮かべていたのであれ?という感じでまた首を傾げる

「ふふ。さっき言ったじゃない。好きな人に対してそんなツンケンし続けるわけないでしょ」
いや、光に惚れられる覚えはないし、資格もないんですけどと思いつつ、好意を持たれるのは満更でもない

で、何が聞きたいの?と光が再び促したので、竜也は素朴な疑問をぶつけることに

「今更なんだけどな。何で“竜ちゃん”って呼んでるのかって。いや、嫌だとかじゃないからな」
いつからかわからないが、気づいたらそう呼ばれている
そう呼ぶのは親戚と祐里の両親だけだったのだが、いつの間にか光もそう呼んでいる

「祐里がずっと“竜”“竜”って呼んでるじゃない?」
光がそう返してきたので竜也がすぐに頷くと、光は続ける

「さすがにそう呼ぶのはなと思ってたら、美緒ちゃんが現れて。美緒ちゃんは竜也って呼んでるから、なら“ちゃん付け”しようかなって。同じじゃつまらないでしょ?」
キャラを確立させるためだったのか(違います)と竜也は内心感心しつつ、小さく笑みを浮かべて頷いた

ようやく打ち解けて来たというのか、この場に馴染んできたというべきか。竜也と光の間に穏やかな空気が流れ出している
ゆっくりと会話しながら歩を進めているが、これがプログラムじゃなければどんなに楽しい事かと竜也は内心思っている
だって、こんな美人と二人きりですよ?
まあついさっきまで美緒と一緒だったんだけど、美緒と二人きりは何度かあったわけで特段珍しくはなかった事実
光とは一度だけ。それも東田からの“貰い事故”みたいなものだっただけで、ちゃんとした2人でのお出かけはなかった

勿体ないことをしたなーという思いが募っている
冗談だとは思うが、光は自分への好意を口にしてくれているわけで、もし誘っていたら断られることはなかったんじゃないか
それどころか...恋人いない歴=年齢を回避できていたんじゃないかという浅はかな考えが脳裏をよぎっている

「実は竜ちゃんの試合、お忍びで何度か見に行ってたの知らなかったでしょ?」
笑みを浮かべつつ光がそう言ったのを聞いて竜也は心底驚いている
野球とか全然興味ない感じだし、勉強に忙しいのにわざわざ見に来てくれてたなんて感無量です

「竜ちゃんがピッチャーやった時はホント驚いたんだから」
光が続けた言葉を聞き竜也は思わずサムズアップポーズするが、その試合は美緒も来てたんだよなと内心思っていた

「ふふ、実はその日美緒ちゃん見たわよ。声かける前に帰っちゃったけどね」
光が悪戯っぽく笑うと同時、妙に血生臭い匂いが届き始める

「え?」
光も即座にそれに気づいたようで、お互い周囲に慌てて目を配りだす
するとちょっと離れた場所に3つの人影影が見えた
恐る恐る近づいてみると、そこには...

首と胴が離れた死体が2つ
そして

その首を眺めて舌なめずりしている、鎌を持った渡辺天明の姿が目に映った
その姿はすっかり変わり果てていて、闇の住民としか思えない風貌のそれ

「てめえらがどう足掻こうが完全に潰してやるよ。お前らは悪夢しか見れないってことをよく覚えとけ!」

天明がそう嘯くと同時、竜也と光は何も見てない聞いてないを装って凄まじい勢いからの逃走を敢行する。“風になれ”と言わんばかりの快速
天明もあえてそれを追おうとはせず、2つの死体・上石百紗と上石百観を見下ろしつつ満足そうに何度も頷いていた
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