「それで、その子とはまた会えたの?」
光が聞くと、竜也はすぐに首を振ってそれを否定する
あれっきりだよ。“またいつか”って言われたから、図書委員を密かに続けてると言って思わず自嘲
しかし、竜也はすぐに謎のニヤリという笑み
あたりは暗くなってきているとはいえ、その笑みを感じ取れたようで光もふふと小さく笑みをこぼす
「何かあったのね?」
光がすぐに察しをつけると、竜也は小さく頷いた
実はさ...
つい先日の出来事
日曜日の昼、竜也がいつものように競馬を見ながら寝落ちしかかっていた時
不意にスマホに着信音
なんだ今日は部活休みだぞーと思いつつ、竜也はベッドに投げてあるスマホに手を伸ばす
LINEに通知があり、珍しく直也から送られてきたのでなんだろという感じでそれを開くと
双方ともジャージ姿。直也と、見たこともない一人の少女との2ショット写真が送られてきていた
健康的な可愛い系の少女で、意外に恵体なそれ
パッと見、イケメンと美少女なわけでお似合いのカップルにしか見えない
“何だよ、惚気かよ、むかつくわ”
思わず素になってそう返信してしまうと、見覚えのない電話番号からすぐに着信があった
普段なら知らない番号は出ないのだが、なぜかこれは出ないといけないという使命感が湧き上がった
「もしもし?」
明らかに探るような口調で通話に応じると、久しぶりという声が聞こえる
聞き覚えがある声の気がするが、すぐに誰かはわからない
「あれ、君も酒井と一緒で私が誰かわからないの?」
くだけた口調でそう言いつつ、含み笑いをしている女子の声で当たりがついた
「まさかだけど、松村なん?」
あくまで冷静を装いつつも、竜也の心臓の鼓動の高まりは凄いことになっている
受話器の向こうにそれが聞こえるんじゃないかと錯覚するくらいのレベル
「そうだよ。もしかして写真でも気づかなかった?」
竜也の知ってる未悠よりもテンション高めの感じ。久々だからなのか、これが本来の未悠なのかはわからないけれども
「わかんねーって。別人じゃん」
竜也がそう答えると、ひっでーと電話口から未悠の声が届くがそれと別に、だよなと直也の声も聞こえたので竜也は思わず笑う
「って、何で酒井と松村が同じ学校に居るんだ。転校先全然違ったじゃん」
素朴な疑問をぶつけると、私も酒井がいてびっくりしたと言って笑っている未悠の声が届く
「相変わらず転勤族でさ。こないだ千葉の学校に転入してね、何でもイケメンサッカー部員がいるって聞いて、まさかだよなと思って部活見学に来たら..まさかだったよ」
やめろという直也の笑い声も聞こえてきたので、竜也も思わずはははと笑ってしまう
じゃあ俺休憩に戻るなという直也の声が聞こえてきたので、またなと聞こえるか微妙なところだが竜也が返す
「酒井には悪いことしたかな。会ってすぐ、杉浦の連絡先わかる?って聞いたからね。酒井キョトンとしてたよ。そもそもお前誰?って感じで」
それはそうだろう、と竜也は内心思う
俺の記憶の片隅にある未悠は、いつもぼさぼさ頭で寝起きのような目をしたぽっちゃり系のそれ
しかし画像で送られてきたのは、髪はしっかりとまとめて健康的で笑顔が眩しい少女に変貌している
「まさかお前...整形した?」
竜也がとんでもない核爆弾を投下すると、スマホ口の向こう側で未悠が噎せ込んでいるのがはっきり聞こえて竜也は思わずにやけてしまう
「ったく、久々だっていうのに変わらないな君は」
呆れたような口調で未悠はそう言って、何度も咳をしている。どうした、花粉症か?と見当違いな心配をよそに未悠は続けている
「身長が伸びたんだよね。12センチくらい。で、体重はそのままって私は何余計なこと言ってるんだろ」
まさかの一人ツッコミが炸裂しているが、それで合点が行った。成長期ってすごいね
「俺も身長は伸びたけどな。180あるよ」
竜也がそう返すと、凄いじゃんと感嘆する未悠の声。画像送ってというリクエストに、後でなと適当に返すと送らないともう二度と電話しないからねと即答が返って来て、今度は竜也が噎せる羽目に
画像ねぇ...あぁ、こないだ伊藤くんと撮ったあれでいいかと竜也が内心考えている
動画なら例の4人でのグータッチのアレでもいいが
「...そういえば、彼女とはうまくやってるの?」
未悠が笑いながらそう訊いてくる
彼女...?
「俺は彼女いない歴=年齢だぞ。嫌味か」
拗ねた口調で竜也が返すと、違う違うというすぐに未悠の声
「進藤だっけ。彼女とまだ同じ学校とか?」
あぁ、そういう意味ねと竜也は内心苦笑
やばいやばい。この頃被害妄想が強くなってると自嘲しつつ、同じだぞ、俺が野球部員で祐里はマネージャーやってると答える
「え、嘘でしょ。甲子園出てなかったじゃん」
すかさず未悠が追撃してくるので、市予選で負けたわと返して再び苦笑
「マジでやってるんだ。ちょっと驚いたよ」
それはそう。中学の時はただの陰キャな図書委員だし、挙句3日で野球部を退部しているのは未悠も知っているわけで
「一応な。これでも1年からずっとレギュラーです」
自慢気に沿う返すと、西陵って弱いんだねと即答が返って来て再び噎せる
おいおい、俺より制御不能じゃねーか
「長くなっちゃったね」
しばらくして未悠がそう呟く
気づいたらもう1時間以上喋っていたわけで、それでもまだまだ話せる気がするけれども
竜也がそうか?と軽く相槌を打つと、スマホの向こう側で未悠が笑っている
「まあこれからいつでも話せるよ。オイ杉浦、シーユー、ウィンターブレイク」
そう言って未悠は笑いながら通話を終了させた
「冬休みに会えると思ってたのになぁ」
竜也がしみじみと呟くと同時、不意に小さな人影が前方に映ったので光が注意を促した