「ごめんごめん」
「悪ぃ」
光と竜也は、それぞれ居間へやって来ると既にテーブルには豪華晩餐...なわけはなく、シンプルに釜揚げうどんとご飯が上がっていた
「美緒がね、あまりここでゆっくりしてる時間ないよって言うからさ」
祐里がそう言うと、美緒は小さく頷いてみせる
「さっきの騒ぎがあったからね。もうちょっと移動したいところなんだよ」
言って、もっと早く2人に来て欲しかったんだけどなと続けたので、竜也と光は顔を見合わせ思わず小さく苦笑する
そして光は探知機を取り出してみせると、壊れちゃったのよと告げると美緒はちょっと首を傾げている
「困ったわ。ここから離れる時はまた二手に分かれるつもりだったのよね」
さすが4人では目立つからと美緒がそう言うと、光と竜也はまあなという感じで頷いて同意を示したのだが
祐里は明らかに不満げな様子
「せっかく4人揃ったのに、またバラバラなんて嫌だよ」
祐里の言い分もわかるが、ぞろぞろと暗闇の中歩くのはまさに自殺行為でしかないわけで
とはいえ、探知器が壊れた以上別行動するのもまた難しい
「行く場所決めてから移動するから大丈夫よ。離れるのはちょっと時間だけ」
光がそう宥めるが、祐里は聞き持たない感じでそれを突っぱねている
まあそうなるよねーと思いつつ、竜也は一人うどんを食べ始める
例によってウメーウメーと空気を読まない竜也を見て、美緒と光は顔を見合わせて苦笑しつつ私たちも食べようかという流れになっている
一人ぶんむくれた様子の祐里に対し、竜也は箸を右手に持ったまま左手で人差し指と中指だけを立てるポーズをしてみせる
「DEATH DEATH フキゲンDEATH」
唐突にフキゲンです★さんアピールでご機嫌回復を図ると、美緒と光は小さく吹いているが祐里はそれを冷たい視線で一瞥するだけ
うわ、めんどくさと竜也は内心思いつつ、何とかそれを表情に出さないようにしている
不意に美緒からの視線を感じ、そちらに目をやると“何とかして”という感じを醸し出している
まあ、目は合わせられないんですけどね。何か照れるし
閑話休題
せっかくの美味しいうどんを食べようとしない(今はそれはどうでもいい)祐里に対し、場の空気を変えなければいけないという思いが湧き上がっている
ギスギスした中で食事しても美味しくないからね
「で、どうやって分けるつもりだった? 2-2だよな?」
竜也が美緒に何となく聞くと、すぐに小さく頷いている
「私と竜也、祐里と光ちゃんがベストだと思ってたんだけどね」
美緒がそう言った瞬間、祐里の表情がまた一層曇る
「ズルいよ。すぐそうやって自分ばかり」
必死に表情には出していないが、明らかに怒り心頭なように見受けられる
マジでもう面倒くせと思った竜也は、次の一手を放つことに
「もう俺1人、女子3人でいいだろ。俺動物占い狼だし、ローンウルフでいいよ。一人でもロンリー寂しくないし」
竜也が真顔でそう言うと、美緒と光は小さく笑みを浮かべている
そして問題の祐里は...険しい表情は崩れ、ちょっと呆れた様子に変わっている
「バーカ。方向音痴のあんたが一人でどうすんのさ」
直球で正論だったので竜也が思わず噎せると、だよねという感じで美緒と光が頷いてそれに同意する
「ホントはひつじだけどな。寂しがりやの」
ボソッと竜也がそう言ったので、今度は祐里が噎せる
「もういいよ。とりあえず食べよっか」
ようやく機嫌を直したのか、祐里がそう言って食べ始めたので美緒と光もそれに追随する
「意地悪したわけじゃないからね。竜也と光ちゃんが方向音痴だから、どう割り振りしようか考えた結果がさっきのだったんだよ」
美緒が“言い訳”をすると、光は同意を示すように頷いている
「正直、美緒ちゃんと2人きりだと気まずいのよ」
光がまさかの暴露。そして当の本人の美緒もなぜかそれに同意を示している
「申し訳ないけど私も同感。君たちは仲良しだろうけど、私と光ちゃんはあくまで“友達の友達”だからさ」
そんなこと言ったら俺と光もそれだよなーと思いつつ、竜也はあっという間にうどんを食べ終えている
おこぼれを頂戴するか、素直におかわりするかが悩みどころではあるが、とりあえず3人が食べる様子を見守ることに
物欲しげな顔に見えたのだろう、祐里はすぐにあげないよと言って悪戯っぽく笑む
光もそれに追随し、食べ過ぎると太るよとちらっと笑んでいる
そして美緒はというと、竜也の目を見ながら「欲しいの?」と挑発してくるので、竜也は即座に頷いてみせる
「うどんよりも美緒が欲しい」
見事なまでの棒読み、しかも自分で言って噎せている始末
祐里は呆れたようにその様子を見ていたが、光は一人何かを思い出したかのような表情
「そうだった。竜ちゃん、例の子の画像見せてもらえる?」
急に話を蒸し返す光に対し祐里と美緒は何事?という様子だったが、竜也はあぁと言ってスマホを取り出すと1枚の画像を開いてみせる
「ほれ。イケメンすぎて腹立つわー」
そこに表示されているのは相変わらずの超絶イケメン酒井直也と、いい意味で変わり果てた風貌の松村未悠の2ショット写真
「へぇ、竜ちゃんの言ってた通りね。お似合いにしか見えないわ」
光が感嘆していると、祐里と美緒もなになにという感じでその画像に目をやる
「竜也、キミにこんなイケメンの知り合いがいるなんて聞いてないよ」
美緒が口元に笑みをたたえてそう呟くと、竜也はなぜか誇らしげにサムズアップポーズ
そして祐里はというと、その少女の写真を見て目を丸くしている
「竜、この子って松村だよね? あんたと仲良かった図書委員の」
祐里にそう言われ、なんでわかったという感じで竜也はちょっと驚いた表情
それに気づいた祐里は小さく笑みを漏らす
「目でわかるよ。変わってないもん。穏やかそうに見えて意志の強いというか、気の強そうな感じですぐにわかったよ」
祐里はそう言って竜也のほうを見ると、うどん残ってるよと今更になって告げる
いや、別にもうそれはいいわと竜也が言うと、私の作ったうどんが食えないの?となぜか逆切れモードに突入したので竜也と美緒、そして光はそれぞれ顔を見合わせて苦笑した