「へえ、この子が竜也の今好きな人なんだね」
美緒は未悠の写真を見つつ、竜也のほうを見て意味深な表情
竜也はあえてそれに返事をせず知らぬ存ぜぬを演じていると、光が美緒に追随する
「さっき話してたのよ。竜ちゃんがこの人に会いたくて恋しくて震えるってね」
どこの西野カナだよそれと思わず鼻で笑っていると、祐里が今度は追撃してくる
「ホントあんたは浮気性よね。私たちだけじゃ足りないってか」
いや、そんなつもり最初からねーしと思いつつ、何気に考えてみるとまあすごい恵まれた環境
ギャル系、クール系、綺麗系、そして可愛い系とジャンル別に取り揃えてます状態
選り取り見取りですね。誰にも相手されなくてゴミ箱遺棄が妥当だろうけど
「イケメンじゃなくてごめんな」
いつぞやの加地さん並みの名言をぶちかますが、意に反してまるで相手にされず3人はそれぞれ酒井と未悠の話題で盛り上がっている
「この酒井ってやつさ、これだけイケメンのくせに全然気取ってなくて逆に退いたよね。いくらでもモテるのに何でか知らないけど竜と意気投合してさ」
祐里が思い出話に花を咲かせていると、美緒と光は竜也を“問い質している”
「ねえ竜也、この酒井って人紹介してよ。キミがダメなら彼を婚約者にするよ」
さりげなくとんでもないことを言ってくる美緒に対し、さすがの竜也も戸惑いの様子を隠せない
また美緒の表情がいつも以上に涼しいものだったので、ふざけてるのか真剣なのか判断しきれないのもある
光も想定外に食いついて来ている
「竜ちゃん、貴方を見損なったわ。こんな素敵な知り合いがいるのに隠してたなんて」
なぜか悪者扱いにまでされ、竜也は非常に面白くない
明らかに不貞腐れた様子を隠そうともせず、すっと椅子から立つとその場から姿を消す
あちゃー、やりすぎだよという感じで祐里は美緒と光に目で注意するとゴメンという感じで二人はそれぞれ祐里に手を合わせる
いや、私にじゃなく竜に謝ってという感じで祐里は竜也を追うことに
祐里がすぐ廊下まで出たが、竜也の姿はそこにない
どこか別の部屋に行ったと思ったのだったが、まさか外に出た? と考えて祐里はちょっと焦ってしまう
「光、美緒。竜いないんだけど」
祐里が思わずそう呼ぶと同時、玄関の戸が閉まる音が聞こえる
嘘でしょ? 祐里が思わずそう呟くと同時、光と美緒はそれぞれ慌てた感じで廊下へやって来る
「今さ、玄関のドア閉まる音したんだけど」
祐里がそう言うと、美緒はすぐに玄関の方へ走って行こうとするが光がそれを制す
私の責任だからと言って美緒がそれを振り払おうとするが、光は小さく首を振って美緒の制止を止めない
「私が言うのも何だけど、美緒ちゃんと私が今行っても竜ちゃん怒るだけだよ」
言って、光は祐里の目を見てお願いという感じで促すと、祐里はやれやれという感じで玄関の方へ足を向ける
そしてすぐにドアを開けるが、竜也の姿は見当たらない
まさか遠くまで行っちゃった...?
祐里はそう思ったが、さすがに独断でそのまま探しに行くのは憚られる
辺りは一気に暗くなってきているのもあり、このまま徒手空拳で出歩くのはどうかなという思考回路
とはいえ竜也が一気に遠くまで行ってしまっているとしてもアレなので、一度戻って相談するかこのまま追うかと一瞬逡巡した時だった
ふと横に視線を向けると、竜也が一人気まずそうに立っている姿が目に映った
視線をすぐに下に向けて素知らぬ振りをしている竜也に対し、祐里は静かにその横に立つ
「よかった。遠くまで行っちゃったかと思って心配したよ」
祐里はそう呟くと、外は危ないよと言って渋る竜也を無理やり家に連れ戻す
家に入ると、廊下には光と美緒が心配そうな表情で待っていたが、2人が戻って来たのを見て胸を撫で下ろしている
祐里は光たちに居間で待っててと指示を出すと、自身は竜也を伴って別室へ入ることに
「ほら、座って。って自分の家じゃないけどさ」
祐里に促されるまま、竜也はとりあえず床にそのまま座る
小さなテーブルを挟んで祐里が向かいに座ると、竜也の目をしっかりと見て諭すような表情
「あんたもさ、冗談だってわかってるのにそんなに怒る必要ないじゃんね」
祐里が呆れた感じでそう言うと、竜也は小さく首を振ってみせる
納得してないなと感じた祐里はまた竜也の目をまじまじと見る嫌がらせをすると、ただでさえ人の目を見て話すのが苦手な竜也だけに、すぐその視線を逸らすが祐里はあえてその視線を追いかけるファインプレイ
「ホントあんたはわかりやすいよ。人を煽るのは好きなのにさ、人に煽られるのはとにかく嫌いよね」
それは否めないと感じた竜也は小さく頷くと、祐里はニコッと微笑んで見せる
「光も美緒もあんたのこと好きなんだからさ、むくれないの。何だったら、“俺は祐里のことが好きだ”って宣言してやればいいのさ。光も美緒も泣いて悲しんでくれるよ」
言って、祐里は自分で笑いを堪えるのに苦労している様子
それを見て竜也は小さく首を傾げたが、やがていや、それはダメだという感じで首を振った
「それはダメだろ。例え冗談でもそういうことは言っちゃダメだって」
あ、冗談ってそういう意味じゃなくてとしどろもどろになっている竜也を見て、祐里はあははといういつもの笑み
「大丈夫だよ、気にしてないから。けど、何か照れるね」
自分から振っておいて、は照れ臭そうに笑みを浮かべる祐里を見て、竜也もつられて笑みを浮かべた
「とはいえ、美緒と光に“お礼”はしないとダメよな」
竜也はそう言って不敵な笑みを浮かべると、祐里も同じように“悪い”笑みを浮かべて竜也にそっと耳打ちする
それを聞いて竜也は思わず祐里の目を見ると、いつものまにか祐里は朗らかな表情を浮かべて頷いていた
「別にいいけどさ、俺より美緒や光と一緒にいたほうが頼りになるんじゃね」
思わず本音をこぼすが、祐里はううんと笑みを浮かべながらそれを否定
「そりゃあんたは光みたいに頭がいいわけでもないし、美緒みたいに決断力もないけどさ、それでも一緒にいると何か心強いんだよ」
そう言って微笑む祐里を見て、竜也は照れ臭くなって目を逸らしてしまう
「あはは。じゃあそう言うことで、そろそろ居間に戻ろっか」
祐里が提案すると竜也は一瞬ん?という様子だったが、やがてすぐに頷く
そして立ち上がろうとした瞬間、祐里が謎の笑みを浮かべているのに気付いた
「ん、何かした?」
竜也が問うと、祐里は“ちょっと時間大丈夫?”と意味深にまじまじと竜也の目を見つめていた