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急に真剣な眼差しで見つめられ、また竜也はすぐに視線を逸らすが祐里はふふという感じで黙って見つめている

何だよと怯える竜也に対し、祐里は思わずぷっと自分で噴いてしまった
そしてすぐにあははといつもの笑みを浮かべると、「こないださ、千葉にこう呼び止められたんだよね」と意味深に呟く
竜也はえっという感じからの驚きの表情で、まさかだけど...告白されたん?と思わず聞いてしまっている

言ってから、巨乳大好きな安理がそれをするとは思えないなと感じた竜也に対し、その意図を察した祐里も笑みを浮かべて首を振る

「違うよー。詳しくは知らないけどさ、千葉は胸が大きい子が好きなんでしょ? 私なんて論外じゃん」
祐里は自分の胸の前で“メロン”を作ってみせつつおどけている
どう返していいかわからず竜也が苦笑していると、祐里は続ける

「何かいきなり色紙出してきてさ、“知り合いのモチ職人?”に書いていただいて。365枚ある札の中から、漢字を一文字引き当てるんですけど、僕がイメージしながら引いたのが『緑』という字でしたとか言い出すんだよね。意味わかんない上に怖くてさ、けど逃げるわけにも行かなくて、立ち尽くしてたら“よかったら進藤さんも書いてもらいませんか?”だって。それで私、間に合ってるわってきっぱり断ったらさ、千葉は悲しそうに去って行ったよ」
祐里はそう言って、色紙を取り出すポーズをしてみせる
うん、確かにそれは怖いなと怯えた様子を見せつつ、そいや俺にも色紙を見せてたわと思い出す

それを祐里に告げると、マジ?という顔をするので竜也はいつものサムズアップポーズ

“おもしろがればおもしろがるほどおもしろい。おもしろがればおもしろいことが起きる。おもしろいように起こるからおもしろい”
何かこないだ、こんなこと言いながら玉子が練習してたわと竜也が言うと、祐里は思わず噎せている

「千葉ってやばいんだね。近づかないようにしよ」
祐里が思わず真顔でそう呟くと、竜也はいやいやという感じでそれを制する

「にゃ、最近いろいろあったから疲れてるだけだと思うぞ。ジェフは相変わらず繰り返してるし、トラナイは値下げしないし。知らんけど」
まあ、俺のほうがよっぽど性格悪いしタチ悪いわと自画自賛すると、祐里はそれを否定もせずにあははと笑い飛ばしている

「まああんたも大概適当だしね」
言って、祐里は改めて居間に戻ろうと提案したので竜也はそれに従う


居間に二人が来たのを見て、美緒と光はすぐにごめんという感じで頭を下げてくる
祐里はそれを見て小さく微笑むが竜也は大仰に「であるか」とぶちかましつつ、いつものように視線を合わせないまま着席

「竜也...まだ怒ってる?」
美緒が恐る恐る聞くと、竜也はあえて返事をせずに置きっぱなしだったスマホをポケットに仕舞う
そのまま美緒の方に視線をくれず、祐里に向かってもうちょっとしたら出るか?と持ち掛けている
祐里も自然にそれを受け入れつつ、もちょいしてからでいいでしょと返している

露骨に醸し出す“二人の世界”。美緒と光はそれぞれ顔を見合わせ、それから美緒は竜也、そして光は祐里のほうをしっかりと見据える

「竜也、一つだけ忠告しておくよ。祐里とキミで行動するのは今はやめておいたほうがいい」
あくまで冷静に、そして穏やかな表情で美緒がそう告げると祐里があからさまに不満げな表情を浮かべている
口を尖らせ不貞腐れ始めている祐里に対し、今度は光が続ける

「あなたと竜ちゃんが揃うと、竜ちゃん無理しちゃうんだって。いいとこみせようとばかりするからね」
まさかのとばっちりが飛んでくるが、竜也は我関せずを貫き通すと仕舞ったスマホを開いている
そして目を丸くして驚いた様子を見せているのを見て、すぐに祐里がそれを問うことに

「どうした? 愛しの彼女から愛の告白でも来てた?」
祐里がそう茶化すと、竜也は真顔で首を振ってそれを制する

「“りゅうちゃん”って人からのCメールだった。物語白紙になったけど、これからも4人で頑張ってという応援のメール」
言って、何だかなーという表情を浮かべていると、光がちょっと見せてという感じで竜也からiPhoneを受け取る

「って、全然そんなこと書いてないじゃない。そもそも松村さんからのCメールだし」
光が素で窘めると、竜也は両手を広げて何のことかわからないぞアピール
美緒は竜也の様子を気にもしていない祐里にそれを問うと、「だって竜は顔に書いてあったからね。俺は嘘ついてるぞーって」と軽くいなす

「てかさ、何でCメール届いてるのよ。電話もメールも出来ないって話だったじゃん」
祐里が苦笑しながらそう続けると、竜也は思わずバツが悪そうな表情を浮かべる
頭を掻きつつ、すまん、電話はなぜか繋がってたと言った上でさっきちょっと話してたんだと素直に打ち明ける

それを聞いて今度は美緒が呆れた表情に変わる

「ったくキミってやつは。せっかくの緊急手段を私用で使ってしまうとは」
美緒が強めに窘めると、竜也は素直に頭を下げて謝罪の意思を示す
3人にそれぞれ手を合わせて頭を下げた後、もう会えないと思うと寂しくてなと率直にそう言ってしまう

「って、バキューンって。私たちはプログラムに巻き込まれてるの知ってるだろうに」
美緒は苦笑しつつ竜也にスマホを返すと、竜也は左目でウインクをしながら右手でピストルのポーズを取りつつそれを受け取る

そのやり取りを見て祐里は呆れたような表情を浮かべているが、光は小さく微笑みを浮かべている
いいのよ、今は重い空気になるほうがよくないからと一人頷いているが、やがて「あっ」という感じで何かを思いついたような表情を浮かべる

「そうだ。一つどうしても調べたいことがあったんだよね。出発するの明日の朝にしようか?」
光が突然そう提言すると、返事を待たずに居間から出て行ってしまう
すると、今度は竜也がすかさず「おっと、じゃあ俺も手伝ってくるかな」と言い残して光の後を追う

その右手にはいつのまにかSwitchが握られていたのを祐里は見逃さなかったが、ツッコんだり止める暇もないまさに韋駄天の速さだった

「今の竜也、野球の試合よりスピード速くなかった?」
美緒が苦笑しながらそう尋ねると、祐里はすぐに頷いて呆れた表情に変わった

「ったく、いつもあれくらいスピーディーなら最高の1番打者なのにさ」
言って、祐里は自分のスマホをスカートのポケットから取り出していた
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