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“調査”することがあると言って、光が向かったPCのある別室
椅子に座り、黙々とPCを操作する光の後ろで竜也は床にそのまま座って同じように黙々とSwitchで太閤立志伝をプレイしている

いつツッコまれるのかと期待していたが、意に反して光は無言でマウスとキーをひたすら弄っている
ま、いいかという感じで竜也も変わらずゲームを続けている不思議な空間

しばし静かに時間が流れていたが、やがて光は手を止めると竜也のほうを見て小さく笑みを浮かべる

「それで、ゲームは順調に進んでるの?」
光がそう声をかけると、竜也は画面から目を逸らさずに右手でいつものサムズアップポーズをしてみせる

「私にはこのゲームをクリアする責任がある。ゲームは我々プレイヤーが自分の手で攻略しなければならない」
竜也が無駄にカッコよく演説っぽくしてみせると、光はふふといつもの笑みを浮かべる

「竜ちゃんの責任はそれじゃないよ。私たち3人を守りつつ、このプログラムから脱出することでしょよ?」
笑みをたたえた柔和な表情でそう言った後、いつもゲームでチート使ってるくせにと強烈なツッコミを入れると画面に夢中だった竜也は思わず噎せている

「Switchだとチート使えないっつーの」
普段使っていることは否定せず竜也は変わらずゲームに夢中な様子だったが、光はその竜也を見ながらいつもの穏やかな表情

「そもそも、何で竜ちゃんは今ここにいるの? 祐里や美緒ちゃんと一緒のほうが落ち着くんじゃないの」
光からそう透き通った視線を向けられるが、普段から人と視線を合わせないマンな竜也にとってそれは何の問題もない

「何か部屋を出て行くときの光の表情が妙に思い詰めてるように見えてさ。一人にするのがよくないかなーとか思って咄嗟についてきちゃった」
どこまで本気かわからない発言をして、竜也は再びSwitchに夢中な様子
その竜也を見つつ、光は思わず「試合中より真剣な顔してるね」と痛烈な一言を浴びせる

「そんなことないですよー」
あからさまに棒読みで竜也が返すと光は意味深に頷いているが、そして何かを思い出したかのようにあ、そうだと言う

「竜ちゃんとセカンド争っているの万田くんと玉子くんだっけ。素人目に見て、あの2人は竜ちゃんより運動能力ありそうに見えるんだけど、なぜか竜ちゃんの守備が一番よく見えるのは何でなの?」

唐突に野球の質問が飛んできた。いつも光にはお世話になっていることもあり、竜也は適当に返すわけにも行かずにSwitchを床に置くと光の視線をしっかりと受け止める

「確かに万田ちゃんは肩も強いし足も俺より速いんだけどさ、やつは致命的にやらかし癖あるからなー」
言って竜也は思い出し笑いをしていると、光はあぁ、あれねという感じで同じように笑みを浮かべて頷いている

「見たわよ、こないだの試合のアレでしょ? 樋口くん登板した直後にセカンドゴロを取って転んだやつ」
何でもないイージーゴロを普通に捌き、なぜか転ぶという神プレイ
竜也はブルペンにいたので詳しくは見ていなかったが、先頭打者を打ち取ったと思った矢先のこの珍プレーによって樋口はすっかりリズムを崩して大炎上する羽目になった

「んで玉子は堅実なんだけどさ、守備範囲がカラーコーンなんだよね」
外野だとそこそこの範囲で守れるのに、なぜかセカンドだと委縮するのか糸原や渡邊諒ばりの広い守備範囲を見せてしまう千葉

「ある意味、万田ちゃんの守備範囲は谷佳智並みに広いけどな」
竜也がそう付け加えるが、もちろん光は意味が分からないのでポカーンとしているので竜也がさらに続ける

「んで俺か。俺は足も速いわけじゃないし肩もいいわけじゃないからさ、じゃあどうやれば貢献できるかって考えた結果、捕手の構えたコースと打者の打ちそうなフィーリングでコース先読みしてる。何でそこ守ってるの? って相手が思ってドツボに嵌ってくれればそれで勝ちだからな」
言って竜也はサムズアップポーズをしてみせるが、やがてすぐにSwitchを拾い直す

「打ててるのは偶然。打球を予測しているのは必然ってとこだよ」
涼しい顔でそう言ってのける竜也に対し、光は「打球のコースは読めるのに、どうして競馬の予想は当たらないの?」と容赦無用すぎる一言を突き刺すので竜也はそのまま息絶える羽目に

竜也は一瞬噎せるが、やがて苦笑しつつ首を振ってそれに応える

「金がかかると邪心が湧くからだろうな。その点試合中は無心というか、雑念湧いてる暇がないし。あ、夏大会雑念だらけで酷い成績だったなそういえば」
竜也がそう自嘲すると、光はふふと笑みを浮かべて首を振ってみせる

「じゃあ今は雑念ないのね。練習試合で全打席ヒット打ってるもん」
“全試合見てる”と公言した光のその発言に、竜也は思わず苦笑する

そっか。ルールに詳しくないとそう思っちゃうんだなーと内心頷くと、竜也は光の目を見てちらっと笑う

「記録上は12打数11安打で全打席ヒットじゃないんだなこれが」
言って竜也はある打席のことを説明すると、光はそうなんだという感じで頷いている

とある試合での出来事

1塁に和屋を置いて竜也は会心の一撃ともいえるセンター返しの弾丸ライナーを放ったのだが、あまりの打球の速さに何を勘違いしたのか和屋は1塁にヘッドスライディングで戻ってしまう大珍プレーを敢行
1塁に到達しそうな竜也と1塁ベースコーチの御部からの指示を受け、和屋はそれから慌てて2塁へ向かうが時すでに遅し
余裕の2塁フォースアウトで、記録上はセンターゴロ
和屋はベンチに戻って仲村から暖かいお説教を頂戴していた


閑話休題

「和屋くん、やっちゃったね。竜ちゃん怒ったの?」
光がなぜか怯えた感じでそう尋ねると、竜也はなぜかふんぞり返った感じで大仰な様子をしてみせる

「いいんだね? 殺っちゃって」
今にも白目を剝きそうな発言をしつつ、すぐに竜也は首を振ってそれを否定する

「にゃ、誰でもミスはあるから。まあ気にするなって言いつつスペースローリングエルボーからフェイスクラッシャー、シュミット式バックブリーカーからのラウンディングボディプレスの刑に処してやったけど」
言って、竜也がプロレスLOVEポーズをしてみせると、光はウルフポーズでそれに呼応する

ふふ、ドラゴンスクリューからの足四の字固め忘れてるわよと光が呟くと、竜也は笑みを浮かべたまま首を振った

「ぶっちゃけ、打率10割だと変に意識するからある意味感謝してるんだけどな」
竜也がそう言うと、光も笑みを浮かべて頷いていた
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