「ったく、キミってやつは」
居間に戻り早々、竜也は美緒から苦言を呈されている
祐里が今起きた出来事を伝えたところ、美緒は表情こそ柔和なままだったがあまり機嫌はよろしくない様子
それはそう。洋平に罪はないのだが、狂鬼と化している田原翔の親友で、ましてその翔と会おうとしている男に貴重な水を迷わず提供してしまう竜也のお人好しぶり
「まあ、そこが竜也のいいとこ...なのかなぁ?」
美緒はそう言って祐里のほうを見て笑みを浮かべると、祐里は苦笑しながら小さく首を振る
「竜はね、困ってる人見てほっとけるわけないからさ。その相手がよっぽど嫌いなら別だけど」
違いない。そのせいで中嶋を死に追いやる羽目になったけどな!
内心自嘲しつつ、またそれで落ち込んでいく羽目になる竜也に気づいたのか、いつの間にか背後から現れた光が竜也の右肩をポン、ポンと叩いている
「私は竜ちゃんの味方だからね。祐里や美緒ちゃんがどんなにイジメても、私が守ってあげるから」
美緒と祐里のほうを見つつ、そう言って光は笑いを堪えるのに苦労している
つかどこ行ってたん?と光の渾身のボケをスルーして竜也が尋ねると、光も何事もなかったように「お風呂掃除して、それからお湯を入れて来たのよ」とさらっと返したので祐里と美緒は顔を見合わせて笑みを浮かべている
「今まで感じなかったけど、竜と光ってお互いにボケなのかな?」
祐里が美緒にそう話しかけると、美緒は口元に笑みをたたえたまま小さく首を振った
「竜也はボケもツッコミも行けると思うよ。今のは素でスルーしただけ」
余裕のお見通しで美緒がそう告げると、なるほどねと祐里は納得した様子
そのやり取りを気にせず、竜也と光もそれぞれ話をしている
洋平から聞いた“井伏が危険”だというのを告げると、光はそれを一笑に付している
「小松原くんに聞かなくてもそれはわかってることじゃない。私、彼が学校の自販機の上からバク宙してるの見たわよ」と思わず思い出し笑いをしている
ヤツならやりかねんなーと竜也が内心感じていると、祐里がなぜか挙手をして話に加わって来る
「私も井伏がやばいとこ見たことあるよ。あいつ、去年の後夜祭で両手に花火持ったままバク転して怒られてるの見たさ」
光はそれを聞い同調して笑みを浮かべている
どんだけ破天荒なんだと竜也が感心(違う)していると、美緒も同じように笑顔で頷いている
「私も最近見かけたな。なぜか色紙を持った千葉..じゃなかった、玉子が必死の形相で逃げるのを井伏が真顔で追いかけてるのを見たよ。手にはなぜか...言いたくないな。何かいやらしそうなディスクが入ってそうな入れ物を持っていたよ」
美緒が下を向いてふふと笑いながらそう言うのを聞いて、竜也は目に光景が浮かぶようで思わず噎せそうになった
よかった。関りがなくて
「井伏だけじゃないよ。田原もやばいんだからさ」
祐里が窘めるように言うと、光が他にもいるよと静かに続ける
「渡辺くんも普段と別人だったよ。竜ちゃんと歩いてる時に見かけて、逃げられたのは本当に運がよかった」
確かにと竜也がしみじみと頷いていると、再び美緒が続けた
「豊川さんと双尾くんも危険な感じだよ。特に豊川さんは人間とは思えないから、出会わないようにしないと」
まあぶっちゃけ、今いる4人以外とは関わりたくないわなと竜也が内心一人頷いていると、祐里と光が意味深に笑顔で頷いている
「ノブさんは私たちを助けてくれたんだ。だから全員がやばいってわけでもなさそうだけどね」
祐里と光が互いに笑顔で頷きつつそう言ったのを聞いて、意外な名前だなーと思って竜也はちょっと驚きを隠せない様子
その竜也のちょっとした変化に美緒は気づいたようで、「ノブさん...中丸くん、彼意外にいい人なんだよ。強面だけどね」とまさかの同調を打つ
「竜はさ、クラスに仲のいい男子いないからね」
祐里が容赦無用で一刀両断すると、竜也は否定もせず素直に頷いている
違いない。まあ普通に会話してたやつはいるけど。小松原洋平とか、田原翔とか渡辺天明とか
あ、二人も危険要注意人物になってますね。はい、残念!(ギター侍ism)
「ホント、キミは人に心を開かないよね。仲良くなればよく喋るけど、それまではホントに」
言って光のほうを見つつ意味深に微笑む美緒に気づき、光はふふと微笑みを浮かべる
「凄いわかるわ。最初カラオケでちゃんと歌ってさえくれなかったからね」
光が“例の件”を蒸し返しているが、攻められるのを嫌った竜也はまた逃走している
とはいえ、外に出るのはリスクでしかないのでまたさっきの部屋に戻ったようだったが
「あれ、いつの間にか竜いないし」
祐里があははと笑うが、すぐに表情を変えて大丈夫かなと続ける
「大丈夫だよ、部屋に戻るのが見えてたから。ちゃんと手にSwitch持ってたから、そこまで怒ってはいないと思うけど」
美緒が穏やかな表情でそう返すと、祐里はほっとした様子を浮かべているので光は変わらず静かに笑みを浮かべている
「祐里もホント竜ちゃんのことになると心配症だよね。貴女が一番信じてあげないとダメじゃないの」
家にいるから安心というわけではもちろんないが、無意味に外をほっつき歩くのはあまりにもリスクが高すぎる行為
さすがに2度も同じことを繰り返すほど竜也は愚者ではないと信じているし、実際ただ面倒になって逃げただけなんだろうと感じていた
「心配だったら見に行ってくればいいよ。お風呂の準備できたら呼ぶからさ」
美緒がそう促すと、祐里は満更でもなさそうな様子
仕方ないなぁと独り言を言いつつ、冷蔵庫からコーラを2本持つと迷わずに竜也が“立てこもる”部屋に向かおうとする
「ちょっと待って。襲うのはダメだからね。そういうのは無事に戻ってから、私たちがいないとこでお願いね」
光が例によって茶化すと祐里は一瞬呆れた表情を浮かべるが、すぐにキリッとした表情で光と美緒をそれぞれ見据える
「DEATH!」
両手の人差し指と薬指を立ててポーズを決めつつそう叫んで威嚇すると、いかにもタバコを吸うようなポーズをしつつ竜也のいる部屋の方へ向かって行った