公平に“グーとパーで合った人”での抽選により、祐里と光。竜也と美緒の組み合わせに決まったわけなのだが、竜也がまさかの“パー”を出したことに祐里は心底驚いた様子
「たまにはいいだろ」
普段はグーしか出さない竜也はニヤリと笑ってそう告げると、祐里はやられたーという表情
「じゃ俺たちも行きますか」
祐里たちが行ってから3分も経ってないが、竜也がそう促すと美緒は静かに頷く。私も今そう言おうとしてたよと言って、ふふと笑みを浮かべて
竜也と美緒が出てしばらくすると、家の窓ガラスが割れる音が聞こえてきた
「後ろは振り向かなくていいよ。先を急ごう」
美緒に言われるまでもなく竜也はそのつもりだったので、小さく頷くとそのまま歩を進めている
やがて届く、“なんで……なんでだよ……理由だけ聞かしてくれよ。いねえじゃねーかよ”という叫ぶ声
「小崎か。あの声」
竜也がそう呟くが、美緒は誰かわかっていないようでそれに対する返答はない
静かに早く進もうと呟いて夜道をひたすら進む
しばし沈黙のまま歩みを進める二人
周囲はいつの間にか真っ暗で、横を歩く美緒の表情は窺い知れない
それで竜也の脳裏に、ついさっきのあの冷たい表情が浮かんで内心ゾッとしている
もしかしたら、今二人で歩いていることに“不満”を覚えているのではないか
竜也の悪癖、常に悪い方へ悪い方へ考えるそれ
色々考え込んでいるうち、どんどん後ろ向きになっていき言葉を発することすら出来なくなっていた
ホントは一緒に歩くなんて嫌でしょうがない。祐里と光もきっと俺が合流しないことを心から願っているに違いない...あると思います(天津木村ism)
「竜也、どうかした? 調子悪い?」
美緒が心配そうに訊いてくるが、それは竜也の耳には届かない
一人項垂れた感じで歩いている竜也に気づき、美緒はいつものふふという笑み
「マイダーリン、私と一緒じゃ不満?」
美緒は歩を速め、わざわざ竜也の前に立ってそう言い放つ
さすがにそれは“届いた”ようで竜也は思わず噎せる
暗闇に反響しそうなくらい、思わず大きく咳き込んでしまったそれで、竜也は慌てて周囲を見渡してしまう
美緒は小さくふふと笑みを浮かべつつ、自分の口元に右人差し指を当ててお静かにというポーズ
「さっき“美緒たん”って呼んでくれたじゃないか。そのお礼をしただけなのに、その反応はなんだい」
美緒にそう微笑まれると、竜也は返す言葉がない。苦笑しつつ、小さく両手を合わせてごめんの意
「もう勘弁して。そして忘れてくれ」
竜也がそう呟くと、美緒は小さく頷きつつ進むよとの合図
再び歩き出す二人だが、先ほどまでの沈黙は消え去っていた
一つ聞きたいんだけど?という美緒の問いかけに対し、竜也は何なりとと殊勝な態度
それで美緒が改めて質問。“キミはたん付けしてる人を見て、どう思っていたの?”と
「あぁ、キモっって思って速攻ミュートしたけど」
躊躇わずに竜也がそう返したので、今度は美緒が思わず噎せる
「もうツッコミどころしかないんだけれど....」
美緒はそう言いつつ、下を首を振っていたがすぐにふふといういつもの笑みを浮かべて続ける
「じゃあ何で私たちをそう呼ぶかな? ホントキミってやつは」
口調こそ呆れているが、表情は普段通りのそれに見えたので竜也は内心ほっとしている
そして本音をこぼしてみることに
「いやな、俺が“キモッ“って思ったのが間違いないよなーって確認したかっただけなんだが。予想以上にきつい当たりでびびったわ」
竜也が心底から出たようなため息交じりにそう呟いたのを見て、美緒は竜也の頭をぽんぽんと撫でる
「キミは前、私を名字で呼ぼうとした時に睨まれたのが怖かったとか言ってたけど、今日とどっちが怖かったかな?」
美緒の質問に対し、竜也は躊躇なく即答する。もちろん、今日だと
「今日はホントに“終わった”と思ったよ。世界が終るまでは、離れることもないって思ってたのにさ」
曲のリズムに合わせるように竜也がしみじみぼやいてるのを見て、美緒は静かに頷いている
「あんなことでどうにかなると思われたのなら心外だね。そしてそれは、きっと祐里も同じだよ?」
美緒はそう窘めたが、竜也にしてみるとちょっとどころじゃなく嬉しいそれ
信頼してくれているんだから、それは裏切っちゃいけないよなと自身を戒めることになった
気を引き締め直そうと思わずふぅと下を向いて息を吐いてから、左胸を右拳で鼓舞するように叩く
美緒はそれを静かに見守っていたが、またいつものふふという笑みと共に頼りにしてるよと小さく呟いている
そして再び歩を進め、2手に分かれる道が見えて来たので竜也が「次どっちだっけ」と美緒に訊くが、なぜか美緒は返事をせずに小さく首を振るだけ
それどころか竜也の方へ視線を向けず項垂れた様子だったので、竜也が不審に思いつつ美緒の見ていた方向に視線を向けるとそこには...
そこに立っていたのは長身で筋骨隆々の鈴懸健宗と、なぜか顔面白塗りの花魁スタイルな水沼浩子の二人だった