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0時の放送が終わった

当面移動する必要がない禁止エリアの発表を聞いて、4人は一様に安堵の表情を浮かべている
それぞれコーヒーを飲み終え、ちょっと一息といったところ

「とりあえず朝なるまではここにいて大丈夫そうだな」
竜也が呟くと同時、思わずふぅと大きく息を吐く

そして、いつの間にか探知機を操作している光が小さく頷いてそれに呼応
「そうね。周囲には全然人の気配がないし」

そう、人の気配がないだけではなく今いる家は、なぜか完全に視界に入らないというか見落としがちになる場所
実際竜也と美緒も、「え、ここだったの」という感じで二人驚いたのは記憶に新しい

「さて、じゃあ寝てくるかな。それとも順番にしたほうがいいか」
竜也がそう話すと、美緒はちょっとだけ思案顔になったがすぐに何度も頷いてみせる

「交代制のほうが無難だろうね。誰かさんみたいに大いびきで寝過ごされてもまずいだろうし」
美緒が悪戯っぽく笑みを浮かべてそう言うと、祐里はいつものあははの笑い声
しかし竜也は悪びれもせず、派手にでかい欠伸をかましている

「何か疲れがどっと出てきた。申し訳ないけど最初に寝ていいか?」
今にも寝そうな顔での竜也の申し出に対し、光は頷いてそれに同意を示している

「いいと思うわ。私はまだ余裕あるし、何だったら3人とも同じ部屋で一緒に寝てきてもいいのよ?」
光が笑みを浮かべながらそう提案すると、祐里はすぐに冗談じゃないよと拒否モードに入るが、美緒は満更でもない表情を浮かべている

「ありがたくその話を受けようかな。竜也、それじゃ行こうよ」
美緒はすぐに立ち上がると、竜也の右手を再び握っている
おいおいと戸惑う竜也を尻目に、美緒は早くという感じで強く促しているのを見て祐里はまたあははと笑っている

「このヘタレ。女の子から誘われてるのに、何してんのさ」
笑みを浮かべつつ、祐里も立ち上がって竜也の空いている方の手を握る

ほら、早く行くよと祐里もまさかの悪ノリを始めたので、竜也は思わず顔をしかめて「Cabron.」と呟く
すると今度は、待ってましたとばかりに光がしたり顔で「竜ちゃん、Cabron.は女の子に向かって言う言葉じゃないわね」の洗礼

八方塞がりの竜也に対し、さらに光が不敵な笑みを浮かべて追撃する

「祐里と美緒ちゃんだけじゃ物足りないみたいだし、私も一緒に寝てあげようか?」
祐里と美緒は、それに対し賛成!などと相槌を打っているので手が付けられない

もう抵抗することも反論するのもバカらしくなり、竜也はなすがままされるがまま
気づいたらなぜか4人揃って寝室へ到着しているのだからもうタチが悪い

しかし竜也はいったん外に放り出される
「私たちがいいって言うまで入っちゃダメだからね。あんたも寝間着に着替えて来なさい」
祐里にそう言われ、どこから取り出したのかわからないジャージの上下が投げつけられた

あーかったりぃと思いつつ、竜也は隣の部屋に入って着替えを済ませてそのままごろりと横になる
しばらくして、祐里の「いいよー」という声が聞こえてきたが軽く放置してそのまま目を瞑っている

それにしても長い一日だったなー、と竜也は改めて感じていた
よくもまあ、無事に乗り切れたものだと自負しつつ、あと2日。“Pareja”を守ることが出来るのかなーという思いも募る
正直、初日も運だけで乗り切った感が強いわけで、思わずふぅと長く息を吐いてしまっている

「竜? どこ行ったの?」
再び祐里の声が響くが、物思いに耽っている竜也にそれは届かない
やがて部屋の戸が静かに開けられたが、それすら気づかずに“考え事”
祐里は部屋の中央で、一人仰向けで目を瞑っている竜也に気づき、不敵な笑みを浮かべる

竜也を跨ぐように立つと、なぜか両腕を大きく振る謎のポーズ
“気配”を感じた竜也が目を開けると、満面の笑みを浮かべた祐里の顔が間近にあった

「目を開けてよかったね。じゃないと“ピープルズエルボー”の餌食だったぞ」
言って、祐里は自分で吹き出しそうになっている
吐息が感じられそうな至近距離での急接近に、竜也は内心戸惑いを隠せない

「ふふ、何か照れるね」
言って、祐里はそのまま竜也の隣に同じように寝転がる
不意に“杉浦 杉浦~ 頼りになる男~”口ずさみだす

思わず竜也は目を丸くして隣の祐里のほうを見るが、祐里は笑みを浮かべたまま“杉浦 杉浦~ お前はいい男~”と続けている

「何だよ急に」
竜也は吹いたようにそう言うと、祐里はあんたの曲でしょとすぐに返してくる

いや、俺の曲は“STARDUST”なんだがと突っ込もうか悩んでいると、今度は
“お魚くわえた御部追いかけて 裸足でかけてく愉快な安理”という酷すぎる応援歌の洗礼が飛んでくる

「ったくさ、応援歌ですらないじゃんこれ」
祐里は上半身だけ持ち上げて、竜也の目を見て笑みを浮かべている

「今日はいろいろあったけど、無事乗り切れた。明日明後日も大丈夫だよね?」
表情こそ笑顔だったが、口調は真剣で切実さを感じさせるそれ

なあ、俺はなんて答えればいい
竜也はそう自嘲しつつ、再び目を閉じて静かに頷いてみせた

「俺が守る..って言えればカッコいいんだろうけどな」
思わずそう呟くと、祐里は小さくあははと笑ってそれに呼応する

「似合わないこと言わなくていいよ。私は...ううん、私たちはあんたがいるだけで心強いんだからね」
嬉しい言葉が届いて、竜也は思わずにやけそうになるのを抑えている
ホント祐里には敵わないなーと考えつつ、何かしてあげれたなという思いが募った

“Finaly! The Ryuya Has Come Back To Program!”
決め台詞をかますと、祐里はあははと笑いつつむくりと起き上がる

“If you smell what The Yuri is cookin'!”
言って、祐里がまた両腕を大きく振る謎のポーズを取り始めたので竜也も上半身だけ起こすと勘弁してくれとちらっと笑った
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