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そこは妙に暗い空間だった
眠りから覚めた樋口の元には、いつもの安理と和屋が横にいてお互いにどこか不安げな様子を浮かべている
いつもの2人なのだが、何だろうちょっとした違和感を感じる

まだ眠気は残るが、樋口は周囲を見渡す
パッと見は教室と同じように見えるが明らかにどこか違う場所
一応席順はクラスと同じになっているが、広さとかが違うのですぐにわかるそれ
窓際の悠と竜は表情こそいつも通り静かなものだったが、こちらもまた何か違和感を感じる

何だ、この違和感は
樋口はそこでもう1度目を凝らして周囲を見ることにした
そこでパッと見た瞬間、中黒岩のブスなほうとブスなほうが視界に入ってしまい思わず目を逸らしてしまったが、今度は強力が視界に入ってしまい吐き気を催してしまった
その樋口に気づいた安理は、「樋口くん、おめでたかい。旦那様は佐々岡かな?」といつもの軽口を叩くが、その表情にはいつもの安理らしさは感じられなかった

「そんなわけないだろ。樋口くんのお相手はスコットに決まってる」
そう言って自分で吹き出す和屋の様子を見て、樋口はようやく今まで感じた違和感の理由に気づいた

”首輪”
そう、全員の首に同じ首輪がしっかりとつけられていることにようやく気付いたのであった

首輪..ねぇ。はぐれ犬コンビにでもなったのかね、俺らはさ

妙に落ち着いている自分に驚いた樋口だったが、どうやらクラスの生徒たちはそれぞれ動揺を隠せない様子
喧騒が起き始め、佐々木健犂・宇野砂子の夫婦コンビが”教室”のドアにそれぞれ体当たりをぶちかますがピクリともせず逆に二人がはじけ飛ぶ恐慌状態

そこでクラスから女子の悲鳴が上がると、ならず者3人衆は非常に喜んだ様子でそれぞれスマホのカメラを向ける始末
ダメだ、こいつら。何とかしないと...

「あんたたち、静かにしなよ。うるさいわね」
妙に落ち着き払った様子で、芝居がかった口調でそう言ったのは氷室清
ちょっと前はマダムキラーだったはずなのに、気づいたらオネエになっていた清は我関せずな感じで振舞っている

あぁ、俺もこういうメンタル持ち合わせたいねーと樋口は内心感心するが、今はそういう状況ではない

そうだ、こういう緊急時はあの子...
才媛様を頼ってみよう、そう思い樋口は水木光の席のほうへ視線を向けてみる
しかし光は、戸叶碧と2人顔を見合わせて震えてるだけのように見えた
さすがの才媛様も、こういう非常時は普通の女子なんだねーと樋口は思い、再び周囲に目を光らせる
そんな時、また樋口の視界に刃長の姿が視界に入った
刃長は先ほどと同じように、異常なまでに落ち着いているように見受けられる

その様子にどこか薄気味悪さを覚えた樋口だったが、相変わらず安理はクラスででかいと評判の”アレ”に視線を送って”んほっ”ているし、和屋はスマホで動画収集に余念がないのを見て思わず鼻で笑ってしまった
何だ、こいつらも意外と落ち着いてるじゃん、と
何が起きるかはわからないが、俺ももうちょっとリラックスしたほうがいいな

「タピオカあるけど飲む?」
不意に後ろから声がかかったので樋口たちが振り向くと、そこにはけばい化粧に定評がある木上優樹菜が立っていた
どこから取り出したのかわからないが、紙コップに入ったタピオカコーヒーを3つそれぞれに手渡すとあっという間に去って行った

とりあえず貰ったので、樋口たちはそれぞれおもむろに口にする
不味くも旨くもない、微妙すぎるクオリティに感心しているとふいに教室のドアが開いた

初老の、薄い髪を髪型でごまかしてる感バリバリの眼鏡の男がびしっとスーツを決めて入って来た
なぜかマイク持参で入ってきたその男は、教卓の前に立つとまずは生徒に向けて一礼をした
そして男はマイクを口元に向けると、演説を開始し始めた

「この国にプログラムが生まれて28年。ついに幕を閉じる時。2021年6月24日、その時が来た! 岡田教官入場!」

無駄にいい声で男が叫ぶと、どこからか流れ出すのは”六甲おろし”
音程が外れまくった”ガイジン”が歌っている六甲おろしと共に、教室にはまた一人の男が入って来た
ひょっとこのような、タコのようなこちらも初老の男
縦縞のユニフォームに身を包んだそのタコ男は、生徒達を一瞥すると不敵な笑みを浮かべた
そしてその後から迷彩服に身を包んだ屈強な男3人がマシンガンを肩にかけて教室に入って来る

おいおい、とんでもないことになってるんじゃないかこれ
樋口は内心そう感じていた

タコ男、そして迷彩3人が教卓の前に並んだのを確認したメガネのハゲはタコ男に向けて一礼すると、再びマイクを握った

「ウマ娘。プロ野球スピリッツ。モンスト。原神。いいかぁ、よく見ていろ。これがハチナイのパワーだ! ハチナイは絶対に負けない」
そう言って一息ついたハゲは、再び生徒たちを一瞥するとマイクで続ける

「りゅうちゃんpresence.プログラム史上最大の決戦。3日間1本勝負を行います!!  世界的智将。プログラム教官、岡田明信!」
そうコールされたタコ男は、起きてもいない大歓声にこたえるように両手を振って応えたのであった
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