すぐに悠は一人で戻ってきた
そして何事もなかったように、空を見上げていた竜の横にちょこんと腰を下ろした
「ずいぶん早かったな」
興味なさげに竜がそう呟いたが、悠はそれには答えず再び拳銃を竜に手渡しただけ
それ以上竜も追及はせずに、ただ鉛色の空を見上げていた
やがて、わりと近くからキャーという金切り声が聞こえた
ついさっき聞いた声と似ている気がしていた
「光ちゃんの声っぽいねー」
悠は竜の顔を見上げてそう言った。あぁ、やっぱりお前もそう思ったんだ
「しゃあない。行ってみるか」
竜がそう言うと、悠は嬉しそうに頷いた
そこは修羅場だった
洞窟に戻ろうとした光をならず者3人衆の尾木、笹野、大和が囲んでいた
今にも襲い掛かろうとする”野獣”のような連中は、おいしい獲物を見つけたとばかりに大喜びな様子だった
「死にたくなかったら大人しくしろ」
わかりやすいくらいの悪党なセリフで銃を突き付けながら尾木がそう言うと、光は怯えた表情で小さく頷いた
「それじゃぁ、まずしゃぶってもらおうか」
笹野が卑猥な笑みを浮かべてそう言うと、大和と尾木はそれを大喜びで囃し立てる
震えて動けない光に対し、笹野はさらに圧力をかける
「いいから早くしゃぶれ」
そう言って無理やり光をしゃがませ、自分のズボンを下ろそうとしたその瞬間
驚愕した笹野の口には拳銃がぶち込まれていた
それを見て満面の笑みを浮かべているのは悠だった
「おう、早くしゃぶれよ」
悠がそう煽ると、尾木と大和は慌てて悠に襲い掛かろうとしたところ...
2人ともあっという間に地面に寝転がらされていた
「帰るぞ」
何事もなかったように、ズボンをぱんぱんと払うと竜はそう小さく言った
竜は目にも見えない早業で2人を蹴り飛ばし、拳銃を口に突っ込んで遊んでいた悠もそのまま笹野の顔面に膝蹴りを喰らわせてKO
「光ちゃん、帰るよー」
そう言って、今にも泣きそうな光を悠が抱きかかえるように連れて3人は洞窟へ戻った
洞窟に戻った後、落ち着いたのか光は激高していた
「どうしてすぐいなくなっちゃうんですか。お陰で酷い目に遭いましたよ」
恨めし気に光が見つめるが、悠はどこ吹く風。竜の横に座っていつものように小さく歌っているだけだった
「わかっただろ。俺たちなんてアテにするだけ無駄ってことが」
竜は目を細めて光を見据えてからそう言った
いきなりの視線で驚いたのか、一瞬光はたじろいだ様子を見せたがやがてすぐに首を振った
「けど助けてくれました。やっぱりあなたたちの協力が必要なんです。お願いします」
光は再び頭を下げていた
何をどうすれば、俺たちに助けを乞う気になるんだろう。それが竜には不思議でならなかった
クラスでも孤立しているというより、誰とも関わろうとしない竜と悠
クラス一どころか、校内一。いや、函館一かもしれない学力を誇る光
接点などどこにもないはずの3人が、今こうして巡り合っている不思議
そもそも教室で話したことすらなかったよな、竜が内心そう思っていると悠が「そだねー」と小さく呟いていた
「もう1回だけ聞いておく。なんで俺たちなんだ」
竜がちょっと強めの口調でそう聞くと、光はすぐに頷いた
「それはお二人の信頼関係です」
そう言ってから、竜と悠を見つめた。少しだけ羨ましそうな視線で
「こんな状況下です。誰が裏切って、誰が味方かなんてわかるはずがない。けど、お二人は...とてもお互いを信頼し合っています」
光がそう言い終わった時には、すでに竜はさっきまでと同じように鉛色の空を黙って見上げていた
その場に取り残されていた悠が、光の頭をよしよししてからニコッと微笑んだ
「私たちはね、そんないいもんじゃないよー」
そう言って、再び竜の横にちょこんと腰を下ろす
光がいるのを忘れたかのように、二人だけの空間に戻っている
光は一瞬呆然としたが、すぐにううん、と首を振って気を取り直した様子
毒気に当てられないように、すぐに二人の元へ戻った
光が何かを話そうとするが、それを悠が立ち上がって手を当てて制した
「ちょっと待ってね。さっきのアホたちがまたこっちに来てるから」
そう言って悠が拳銃を片手に出て行こうとするのを、竜がすぐに制した
「ここに居ろ」
静かな表情のまま、竜はショットガンを拾うといつの間にか洞窟から出て行っていた
やがてすぐ銃声の音らしきものが響いてきた
「へぇ、殺っちゃったのかなー」
まるで他人事のように悠がそう話すのを聞いて、光はちょっと驚いていた
やがてすぐ足音が近づいてきたので、悠が外に出迎えに出ようとしたその時だった
突如現れた複数の人影が悠に襲い掛かっていた
殺意を持って首を絞められる悠に対して、光はどうすることもできず立ち尽くしていた
そして別の人影がその光に気づき、さらに襲い掛かろうとした瞬間の出来事だった
「邪魔だ、どけ」
大和はあっという間に蹴り飛ばされていた
竜にショットガンで威嚇され、慌てて逃げ出していった
その様子に光は驚いてる間もなく、竜は悠の首を絞めていた尾木もあっという間に蹴り飛ばしていた
「ほら、行くぞ」
竜はいつの間にかマシンガンとショットガンを持っていた
拳銃を光に渡すと、ちょっと咳き込んでいる悠を見てちらっと笑った
「遊んでる暇はないぞ。行けるだろ?」
悠はすぐに小さく頷いた
光は状況が分からないので戸惑っていると、悠が再び促してきた
「ここにいるとまた連中が来るから。光ちゃんの調べたかった場所に行くよ」
悠がそう言うと、竜は無言のまま頷いたので光はようやく合点が行った
「わかりました。案内します。ついてきてください」
光がそう言って先導し、竜と悠はその後に続いた