クラスが誇る屈指の”イケメン”コンビ、黒潮次郎と真能英興はしっかりと合流していた
言い続ければ正義を実現しているこの二人は、どんな困難な状況下に置かれても諦めるということを知らない
”どんな状況でもイケメンだと常に折れない心を持つことが大事”
それをポリシーに持つ英興だけに、こんなプログラムに置かれたくらいでは心が折れることはなかった
そして相棒の次郎もそれは同じだった
”俺からイケメンをとったら何も残らない。ただのバカに成り下がってしまいますから”
その二人の友情は高校入学の時から固く結ばれている
偶然席が隣だった、ただそれだけ
入学式を終えて緊張気味だった次郎だったが、何となく隣の英興に話しかけた瞬間に運命を感じた
あ、こいつとなら仲良くなれそうだと
それは英興のほうも同じだった
今までにない感覚を、その瞬間に覚えた
あ、俺の相方はこいつだ、と
それから2人はずっと一緒だった
英興は次郎と話しているだけで、”楽しい・嬉しい・僕セクシー”だったし、次郎は次郎で「このクラスは俺ら以外イケメンがいないよな?」と自信満々に豪語していた
2人に支給された武器はそれぞれ、マシンガンにグレネードランチャー
戦い抜くには十分すぎるそれ
次郎はいつもの水色のジャケットを羽織り、英興もいつもの白スーツに着替えている
目立つことこの上ないのだが、ポリシーを曲げることなどありえなかった
2人がまた無意味にポージングを取っていると、後ろから「うわっ」という声が聞こえた
次郎と英興がそれぞれ振り返ると、そこにはフィリピン顔がますます強化されつつある広瀬葛、そしてもっとフィリピン顔でガタイが無駄にいい広瀬マテンの双子が立っていた
広瀬葛はナチュラル畜生として校内で有名人であった
「どうして大人のくせに用務員になろうと思ったんだろ」
「事務員さんは毎日電卓叩いて何が楽しいんだろ」
などと口を開けば暴言の山
なまじ顔はよかったのでそれをいいことに男遊びも止まらない有様で、貞操観念はゼロ
地元では札付きのワルだったらしく、ちょっと居づらくなりすぎたので高校は別の地域のここに来ているというもっぱらの噂
姐のマテンはそこまでではなかったが、まあ一緒に居るということもありこちらも評判はそんなよろしくはない
そんな双子2人が次郎と英興が、また無意味にポージングを取って佇んでいるのを見て変な声を上げたようだった
「何、あんたら。相変わらずキメえんだよ」
葛はいきなりそう言い放つと、次郎、英興の順に顔をまじまじと見た後に鼻で笑ってみせた
「黒潮さ。あんた前、人の顔まじまじと見たことあったよね」
気持ち悪がった口調で葛がそう続けたが、それは次郎にとって記憶にない事だった。いや、もしかすると...あれか
「それ、お前の勘違いだぞ。本当のこと教えてやろうか?」
そう前振りをしてから次郎は頷きながら続ける
「あの時な、お前の後ろにいた子が可愛かったんだよ。本原悠な。どっかの誰かさん達と違って凄くいい雰囲気だよあいつは」
次郎がさらっとそう言うと、英興はそれに同意するように力強く頷いている
”可愛かったから見てた”的なことを期待していた葛にとっては、それは衝撃的な事実だった
挙句の果てに、クラスでどちらかというとはぐれ者の位置にいる見下していた悠以下と提示されたのだから、まあそれは怒り狂うのは当然だった
人をバカにする癖があり、自尊心の高さはチョモランマクラスの葛にとってそれは許しがたい出来事だった
「黙れ、このブサイク2匹」
マテンがいきなり吠えた
どちらかといえば控えめで、葛のフォローに徹しているマテンなのだがさすがにこのイレギュラーな状況下に置かれた上にまさかの口撃。我慢がならなかったのであろう
「もうさ、あんたらうざいから消えてくれない? もちろんこの世からさ」
葛はそう言って、次郎と英興を見て再び鼻で笑うと崖のほうを見て指差した
「どうせ生き延びるなんて無理なんだし、さっさとそこから飛び降りでもしなよ。香典くれてやるからさ」
言うと、葛とマテンはそれぞれ1円ずつを次郎と英興にぶつけてきた
もうさすがに、次郎と英興の我慢は限界を超えようとしていた
「黙れ小童!」
英興がそう一喝すると、さすがに葛とマテンはちょっと驚いた表情を浮かべたが、すぐにまたバカにした表情に戻る
しかし英興がマシンガン、そして次郎がグレネードランチャーを構えているのを見るとさすがに驚愕の表情に変わった
「ちょっと待って。貴方たち、冗談もわからないの?」
慌てて口調すら変えて許しを乞う葛とマテンだったが、もう時すでに遅しだった
英興と次郎は一瞬のアイコンタクトの後、同時に発砲した
”ラーメン、つけ麺、僕イケメン”
マシンガンを至近距離から浴びた葛は見事なミンチに、グレネードランチャーをまともに喰らったマテンは腹に大きな空洞が開ける華麗なダイエット成功で互いにこの世から消え去ることに成功した
「 いーけないんだ、イケメンだ」
英興はそう言って不敵に笑んで右手を差し出すと、次郎も同じように微笑みを浮かべてからガシッとそれを握った
「勝つのは俺らしかいないんだろ」
次郎はそう言うとジャケットを羽織りなおし、英興もスーツの胸ポケットに赤いバラを差し込んだのであった