洞窟から出て、順調に悪路の中を進んでいた光、竜、悠の3人
ようやく開けた道が見えて来たと同時に、竜が突如歩を止めた
最後方をのんびり歩いている悠のほうを見て、
「悠、止まれ」
そう言って、竜は歩を止めた
声をかけられた悠も、素直に歩を止めて竜の横にちょこんと腰を下ろす
2人の予期せぬ行動に戸惑いつつ、仕方なく光もその場に立ち止まった
またさっきと同じように小さく歌を口ずさみだす悠と、その横で静かに立っている竜
気づくとすぐ2人だけの世界に入ってしまうのには、光は首を振ることしかできなかったが、とりあえず「理由」だけでも聞いてみることにした
「何かあったんですか?」
光がどちらにともなく聞いてみると、悠は知らない顔で歌っているだけ
そして竜は...ちらっと悠のほうを見て小さく笑みを浮かべていた
「こいつな、膝と股関節に爆弾抱えてるからな」
そう言って竜は再び遠くを見始めた
驚きの表情を隠せない光に対し、悠は歌うのをやめると光のほうを見て小さく頭を下げた
「どうして言っちゃうかなー」
言って、竜のほうを見て小さく睨んでから続ける
「ごめんね、生まれつきなんだ」
そして悠は再びまた何かの曲を口ずさみだす
「そういうことだ。がっかりしてるんじゃないか? やっぱり俺らなんかアテにしないほうがいいぞ」
竜はそう言うと、また小さく笑った
ややしばらくそのままで、穏やかに時間が過ぎていく
突き放されても動かない光にちょっと驚いた竜と悠は、どちらともなく首を振って互いに顔を見合わせる
そしておもむろに竜が話し出した
「俺らより戸叶と合流しなくていいのか?」
しかし、それを聞いた光は小さく笑みを浮かべつつ即座に首を振った
「いいえ。本当に信頼できるのはあなたたちです。碧は友達ですけど信用できるかとなったら...」
竜は何でこんなに買い被られているのかが不思議でしょうがなかった
それは悠も同じようで、不思議そうに首を傾げている
「そもそも私たちと光ちゃん、今まで話したことなかったよねー」
悠はそう言うとまた歌を口ずさみだす
”ハミダシモノの声よ響け”
静かにそう歌う悠の歌声は非常に心地のいいものであった
思わず自分たちが置かれている状況を忘れてしまいそうになる光だったが、やがて竜が「そろそろ行くぞ。行けるか?」
そう促すと、悠は静かに立ち上がったが小さく首を振るとまたその場に腰を下ろした
「そっか。じゃあしばらくここにいるか」
言うと、竜もその場に腰を下ろしてしまった
見放すのかと思いきやしっかりと傍にいる
イメージとはかけ離れていたが、やっぱりこの2人を信用したのは間違いなかったと光は確信していた
大丈夫、きっと脱出の手段はある。それを見つけ出して、実行できるのは私しかいない
「もう行けるよ」
5分か10分くらい経過したあと、不意に悠は立ち上がる
何事もなかったかのように普通に歩きだす悠に、その後を慌てて追う光
竜は軽く周囲を見渡すと、何事もなかったかのようにその後ろからゆっくりと歩を進める
「そういえば」
光が悠の横に並んで、不意にそう声をかける
楽しそうに歩いていた悠だったが、そう声をかけられて少し歩くペースを緩める
それで光が続ける
「悠さん、いつも前髪揃えてますよね。こだわりなんですか?」
それを受けて、悠は聞こえなかったのか返事をしなかったのだが...竜は思わず不敵な笑みを浮かべた
「水木、知らないほうがいいこともあるんだぞ。そこは触れないでおけ」
竜がそう言うと、悠も同じようにふふと小さくとても不敵な笑みを浮かべた
「...今度ね。機会があったら教えてあげるよ」
そう呟いた悠の表情は、普段の悠とはまるで別の表情だったので光は戸惑いを隠せなかった
思わずごめんなさいと言ってしまった光に対し、すぐに元の表情に戻っている悠は素知らぬ顔
その2人のやり取りを、遠くを眺めるように見ているのが竜だった
「さ、早く案内してよ。光ちゃんが探りたい場所にね」
悠はそう言って屈託のない笑みを浮かべていたが、その瞳の”光”は怪しく輝いていた