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「41人全員殺します。本気なんですけど」

そう言って嘯くの斎藤祐之
端正なマスクに定評がある、野球部のエースである祐之は涼しい顔で佇んでいる
しかしその右手には似つかわしくない鎖鎌が握られており、そしてその足元には変わり果てた友田甚之助の遺体があった

祐之が特にあてもなく歩いていて、偶然遭遇したのが友田甚之助だった
祐之の顔を見て、なぜか逃げようとした甚之助をとりあえず鎖鎌で斬殺した祐之

プログラムに選出された時点で、もう全員殺して生き残るしかない
祐之はそう考えていた。たまたま最初に出会ったのが甚之助だった。だから殺した、それだけの話
殺人が合法なこのプログラム、ならどんどん殺していい武器を得ていくしかない

祐之に支給されたのは鎖鎌
とてもじゃないが、これで勝ち残るには不可能としか思えないが、次から次へと敵の武器を得ていけば当たりを引けるかも知れない
それでまず殺害した甚之助のリュックを漁ると、そこに入っていたのはこれまた使い道がないピコピコハンマー
祐之は思わず天を見上げた
そして流れだす汗を青いハンカチで拭う

”まあ、ぶっちぎりで勝っても何も面白くないか”
祐之は内心そう思い、一人不敵な笑みを浮かべる

祐之にはライバルがいた
苫小牧高校のエース田中正洋、そして函館北洋高校の斎藤祐之
道内の枠を超えて、日本、そして世界へ広がるライバル関係と祐之は一人で勝手に盛り上がっていた

北洋にいた証をこのプログラムで示したい
そう思う祐之がまず考えたことは、「なるべく弱そうな生徒と対峙したい」
甚之助はまさにそれにふさわしい相手だったので、ありがたく殺害した次第

新しい武器を得ることはできなかったので、まだまだ頑張らないといけない
持っているのではなく、今は背負っています
勝手に、甚之助の分まで頑張ろうと祐之は考えている

とはいえ、3日間ただ殺し続けるのはさすがに体力的にも精神的にもきついかなと思ったのも事実だった
なら、まずはどこかで一息つこうか
地図を見ると、ちょうどよさげな場所に洞窟があることが分かったのでそこを目指してみよう

外はあいからわずの曇天模様
洞窟へは険しい道のりが続きそうなので、その前にと思い支給された水を一口

「フーハハハ、ホモじゃないです」
祐之は不意にそう呟く

そう言えば隣のクラスに、世界レベルに有名なホモカップルの”シュウシル”がいたことを不意に思い出した
野球の応援にも来ていたホモップル、祐之が力投し1-17(5回コールド)と快敗したあの試合
刃長、樋口、清野のエラー三昧からの祐之のおじぎんぐファストボール、落ちないフォークにチェンジアップを駆使した投球術で苫小牧高校と大接戦に持ち込んだあの試合
スタンドから巻き起こっていた悲鳴のような雄叫びの中で、ひときわ際立っていたホモップル

「付き合う(女性は)1人じゃ我慢できない」
祐之はそう思いつつ、試合後に観衆に頭を下げたあの北海道予選
なぜ今こんなことを思い出したのかなと考えつつ、その気になっていた。もう少し謙虚にならないといけないと思ったのが去年の道予選だった

しかしどうやら、もう甲子園予選に参加することはなさそうだ
北洋高校3年B組にはライバルと思える人はいない。なら41人全員殺しを達成して、斎藤祐之の名を世界に轟かせたいと祐之は感じていた

よし、じゃあ洞窟へ行くか
あぁ、カイエン乗りてぇ。(勝ち残ったら)銀座に土地買うってやばいですか? ビッグになって勝ち残ろう
祐之は一人そう嘯いている

そんな時だった
祐之の前に黒い影が急に立ちはだかった
175センチの祐之を超えるその大きな黒い壁は、いきなり祐之の頭を何かで殴りつけてきた
?!と思う暇もなく、次から次へと続くスマッシュの連続技。雨あられ、目白押し
端正だった祐之の面影が消し飛ぶほどの、有刺鉄線を巻いたテニスラケットでの剛腕スマッシュが炸裂していた

誰も望んでないのにビキニ姿をドヤ顔で晒すテニスが得意なキングコングこと、浪花なおみは視界に入った斎藤祐之をとりあえず惨殺すると、わざとらしく涙目になった
いや、私はやってない。私は鬱病だから知らない。こいつは自殺したんだ!
そうとでも言いたげに、会見拒否をするかのような高速スピードでその場から姿を消した

友田甚之助の死体と、元斎藤祐之だった何か
それは道の真ん中に無惨に転がり捨てられていた