「あ、あ、全然知らない人です」
清野太陽の足元には生魚萌屡の死体が転がっている
太陽が歩いていると、それを見かけた萌屡が足早に逃げたので持っていたライフルで射殺した。ただそれだけ
「いや、知らないです」
ついこないだまで、太陽は4股をしていた
その相手の一人が萌屡だったのだが、それがばれたのがつい一昨日
そして今日このプログラムというわけだった
共通のゲーム。パズドラで謝罪をしてもブロックされ、「あー、あー、もう。あー」と必死に電話やLINEを送っても徒労に終わった
思わず帰り道にまったく関係のないマンションに入ろうとするなど右往左往し始めたが、やがて一人で達観していた
「今後も反省の気持ちを忘れることなく、自分を律しプログラムを勝ち抜いていきたい」
太陽はそう考え、まずは萌屡を殺害した
そして萌屡のリュックを漁り、しっかりと拳銃を押収する
ライフルと銃、まずは当場を凌ぐには十分に思える
”自分が萌屡にしてしまったことは本当にごめんって思ってる
しっかり供養とかはする。だから本当に許してほしい”
そう届かないメッセージをパズドラから打って、太陽は一人満足そうに頷いている
「プログラム初日なんですよ。もう死にます」
一人でそう呟きつつ、太陽はまたどこかにLINEを送り始める
”携帯は使えない”はずなのに、普通に”彼女達”とLINEが出来ている僥倖
北洋のドンファンこと、清野太陽はプログラムに巻き込まれていてもそちらのほうへの意欲は失っていない
天を仰ぎフーとため息をつきながら、
「いや、これはちょっと……。マズいッス」
そう彼女たちにそうLINEを送りつつ、一応周囲への警戒は怠らない
野球部だからこそのモテモテ男な太陽だったが、部内での人望は皆無に等しかった
同じクラスの刃長拓は不気味なほどのカリスマを誇っているのに、太陽にはそれはない
2年から3番ライトでレギュラー、去年の道予選では唯一の得点につながる2ベースを放ち、プロのスカウトのお眼鏡にかかったという噂もあったが、太陽はそれよりも女遊びに夢中だった
それにしても、と太陽は思った
いきなり射殺してしまったのは失敗だったかもしれないな、と
”慰み物”にしてから殺すのが筋だったのではないかと
これは惜しいことをした。次に女子を見つけたら、まずは”食事”をしなければならないと太陽はそう感じていた
”俺が悪くて自分勝手なこと言ってるのも本当にわかる”
しかし本能のまま動いてしまうのが清野太陽であった
そんな太陽の視界に、一人の女生徒の姿が目に映った
武居咲、かなりきつい性格のそれがどんどんこちらに近づいてきて、そして太陽と萌屡の死体に気づいた
「ちょ、あんた人殺したの?」
いつも以上に目を大きく、そして吊り上がらせた咲がそう問い詰めると、太陽はわざとらしいくらいに怯えた表情で両手を振ってそれを制した
「勘弁してください。話しても意味ないですよ。プログラム初日なんですよ。もう死にます」
言って、太陽は咲に銃を突きつける
いや、お前いま自殺する言っただろと内心突っ込みつつも、いきなり銃を突き付けられた咲はさらに目を吊り上がらせて驚愕の表情
「反論とかじゃなくて...もう終わりですよ。これで武井も死亡、彼氏にも迷惑がかかる...」
言うが早いか、太陽は銃で一発、そして矢継ぎ早にライフルも発射し呆気なく咲も殺してしまった
「男が来なくてよかった」
しみじみ呟く太陽に、どこからか妙な音楽が聴こえて来た
どんどん近づいてくるそれ
”ズンズンズン ズンドコ ズンズンズン ズンドコ”
音だけは聴こえるが、周囲を慌てて見渡す太陽の視界には何も入らない
しかし、その音はますます大きくなって近づいてきている
逃げるとかじゃなくてここにいたら絶対にダメだと思った太陽は、咲のリュックを漁り武器がしょぼいことを確認すると、慌ててこの場を立ち去ろうとしたが
不意に首に激痛が走った
思わず首筋を触ってみると、右手が血塗れになっていたことに驚きを隠せない
返り血にしてもこれは...思い、太陽がふと後ろを振り返ると
そこには、満面の笑みを浮かべた氷室清が鉈を持って立っていた
「興奮すっゾ!涅槃へ GO!」
歌いながら、太陽が反撃する隙をまるで与えずになたでの華麗な惨殺ショーだった
意外性を秘めたヤツが生き残る。教官様もオッタマゲ〜
不気味すぎる笑みを浮かべつつ、しっかりとライフルと銃を回収しつつ清はこの場からいつの間にか姿を消していた