竜、悠、光の3人は一軒の民家にいた
ポツンと一軒家な感じのその家で、悠と光はテーブルに添えられた椅子に向かい合わせで座っている
竜は一人、台所で何かを作っている
悠が唐突にお腹空いたよーと喚きだしたので、ちょうど見かけた家に入ったという状況
光が「私が作りますよ」と言ったのを制してから、竜は無言で台所へ向かっていった
「竜に任せとけば大丈夫だよー」
そう言って、悠はまた何かの曲を口ずさんでいる
光は戸惑いつつ、自前のタブレットを開いて何かの作業をし始めた
それを悠が覗いてみたが、わけがわからなかったのでまたすぐに歌を歌っている
やがてすぐ、竜が3人分のスパゲティを持ってきた
所謂ナポリタン、悠の大好物
美味しそうに勢いよく食べる悠の様子が、小動物みたいで可愛いなと光は内心感じている
「食わないのか? 早くしないと悠に取られるぞ」
そう言って微笑みつつ、竜は自分で作ったパスタを首を傾げながら食べている
「しまった、ちょっと胡椒入れすぎたか」
などと、一人で呟きながら
「え?」
と光が思っているうちに、本当に悠が光の分にも手を伸ばしてきたのには驚いた
もう食べ終わったの?
「こら悠、人のモノに手出すな。ちょっと待ってろ」
言って、竜は”おかわり”を持ってくると、受け取るが早いか悠は無言でまたそれを食べ始める
思わず苦笑してしまった光だったが、やがてパスタを食べるとそれが普通に美味しいのに驚きを隠せない
ちょっとしたカフェで出せそうな、そんな優しい味
大盛りのおかわりすら一瞬で食べ終え、悠はさすがに満足したのか一人で頷いていた
「やっぱ竜の料理が一番おいしいよね」
そう言って、おもむろに全員分の皿を下げて洗い物を始めている
一瞬の早業に戸惑いつつも、光はまたタブレットでの”調査”に戻り始めた
それを竜は後ろから”何してるの”的に覗き込んでいる
「すいません、ちょっと調べたいことがあって」
光がそう言うと、
「気にするな」と竜は言ったが、そのまま覗くのを続けている
いや、私が気にするんだけど...そう思いつつ、光はある事実に気づいた
あ、これはちょっとまずいかも...
思い、一旦タブレットを閉じて落ちていたチラシを拾った
そしてそれに、ペンでさらさらと文字を書いて竜に見せた
”盗聴されてるみたいです”
光がそう書くと、竜は黙って頷いた。いつの間にか表情から笑みは消えている
そして洗い物から戻ってきた悠にもそれを見せると、悠は竜の顔を見てちらっと笑った
「知ってたよ。光ちゃんは今気づいたの?」
そう言って、また竜の横に座ると小さく歌い始めている
まさかの出来事に戸惑いを隠せない光は、そうなんですか?と竜にこっそり聞くと、竜は小さく頷いた
「どうして先に言ってくれないんですか。私が言ってたこと筒抜けじゃないですか」
光は思わず涙目になって抗議すると、竜也ちょっとおどけた様子で両手を上げてみせる
それを見て悠は手元にあった拳銃を光に手渡そうとするが、さすがにそれは光が拒否した
「ねえ、何でよ。怒るなら殺しちゃいなよ」
いきなり物騒なことを言う悠に思わず苦笑する光だったが、その悠がマシンガンを竜に突き付けているのを見て慌ててそれを止めた
「何バカなことしてるんですか」
光がそう言ってマシンガンを奪うと、悠はまたいつもの様子に戻って素知らぬ顔
マシンガンを突き付けられても涼しい表情を変えなかった竜だったが、その慌てふためく光の様子が面白かったのか小さく笑みを浮かべていた
「で、どうする。お前の考えは”向こう”にばれてるみたいだが」
竜が揶揄うような口調で光に訊くと、光はその竜の視線を睨み返す感じでキリッと見つめ返した
それから改めて再び別のチラシを拾うと、
”私は諦めません。脱出の方法を探ります。手伝ってもらえますよね?”
それを見た竜と悠は、互いに無言のままだったが静かに頷いた
”目には見えない力で繋がる 夢はいつか ほら輝きだすんだ”
悠はそう歌って満足げな表情を浮かべた
「いいのか? 俺らこんなだぞ」
竜が光にそう訊く。それを受けて悠もうん、うんと頷いているが光の意思は変わらない
”私はこの人たちに賭けてみる。いや、賭けてみたい”
もうそれは、思い込みに等しいものであった
『プログラム』というイレギュラーなものに巻き込まれてしまった以上、自分の知識だけじゃ立ち回れない
光は最初にそう考えた
そこで頭に浮かんだのは、明らかにクラスで浮いている2人
西崎竜と本原悠の2人だった
どこか浮世離れしているこの2人なら、もしかしたらと光は考え、訪ね歩いた
悠のお陰で一度襲われかけはしたが、しっかりと守ってくれたし今のところは間違いじゃなかったと感じていた
運動能力は光自身不安しかないので、この2人に補ってもらいその間に方法を探る
光が出した結論がそれだった
ならば、あとは自分が頑張らないと。光は内心そう決意し、再びタブレットを開こうとするとそれを竜と悠が同時に制した
「え?」
光が思わず声を出すと、それも悠が口を塞いで止めた
「荷物纏めろ。近くに人の気配がする」
竜は涼しい顔でそう言ったが、しっかりとマシンガンを右手に持っている
それに追従するように悠もショットガンを右手に持ちつつ、光に拳銃を手渡してくる
思わず受け取った光だが、使える気がしないのでそれを竜に渡そうとしたがあっさり拒絶された
「バカか。自分の身は自分で守れ」
言って、竜は窓から外の様子を伺っている
やがてすぐ、
「裏からだな」
竜はそう言って、裏口のほうへ歩を向けると悠も素早い動きでそれについて行っているのを見て光は驚きつつも、その後に続いた
そして竜が周囲を伺いつつ外に出てから、左手でこっちだと指示を送って来たので悠が光を庇うように外へ飛び出してくる
それから竜がドアを閉め、家から離れた直後に家に向けての銃声が聞こえ、そして窓が割れる音
その後追撃してくる足音は聞こえなかったので、逃げつつも光は内心安堵のため息をついた
「こっちの方向で大丈夫なのか?」
安全と思われる方向に誘導しつつ、竜が光にそう訊くと光はすぐに頷いてみせた
「大丈夫です。ちょっと回り道すれば問題なく行けます」
光がそう答えると、それを悠は普段見せたことがない研ぎ澄まされた視線で見つめていた