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12時の放送が始まった
異常なほど滑舌の悪い男・テンルーとかいうのによるそれは、誰が死んだのかどころか、禁止エリアがどこなのかがまるで聞き取れない状況

「樋口くん、これじゃどこが禁止エリアかわからないよ」
ペヤング獄辛を死にそうになりながら食べつつ、安理がそう呟く

無事民家にたどり着いた樋口、安理、和屋の3人組は周囲の確認をしてからとりあえずという感じで一番古そうな家に入ってみた
ちょうど昼時ということもあり、家にある食糧を頂こうということになり、運よくカップ麺が3つあったのはよかったのだが
ペヤングの獄辛だけの信じられない状況

無理に食べなきゃいいものを、腹が減ってはプログラムは出来ぬということでそれぞれ食べることになったのだが
各自汗ダラダラで死にかけになりながら食す地獄絵図状態

「キンキンに冷えてやがるっ・・・!!」
そう言って、冷蔵庫から拝借した金麦を飲んで辛さをごまかしている和屋
ひたすら水で流し込んでいる樋口に、負けるもんかと立ち向かう安理
まさにプログラムの3バカは俺たちだ!状態であった

テンルーの放送はいつの間にか終わっていたが、さすがにこれはやばいと思ったのだろう
『ゲロです』と教室にいた声だけは無駄によかったカッパさんの放送が始まっていた
どうやらテンルーの”通訳”をしてくれているのだろう
そしてやばいことがわかる。自分たちがいる場所は13時には禁止エリアになるということに

「これはまずいことになったよ。早く食べてここから出ないと」
安理が涙をぼろぼろこぼしながらそう言うと、和屋も半分吐きそうになりながら口に押し込みつつ頷いて同意を示す
いや、お前ら。無理してまで食べる必要ないじゃんと思いつつ、樋口も一口食べてあまりの辛さに噎せかえって瀕死状態に追い込まれてしまう
さすが、IWGPチャンピョンのザ・ドラゴンをKOしただけのことはあると思いつつ、一口だけで樋口は箸をおいて水をがぶ飲みする

「さてどうする。とりあえずここを離れるにしても、次はどこ向かえばいいだろうな」
樋口がそう聞くが、二人の耳にはそれぞれ届いてないようだった

「王子、疲れたろう。僕も疲れたんだ」
そう言って眠ろうとする和屋に、完全グロッキー状態の安理も頷きながら続ける
「綺麗な顔してるだろ。死んでるんだぜ。?それで」
言って、テーブルに突っ伏す安理
いや、もう時間そんなないんだから遊んでる場合じゃないんだが...

思った樋口だったが、ふとした油断から一瞬意識が飛んでしまっていた
気づくと12時50分、一刻の猶予もない状態だった

樋口こそ目覚めたが、安理も和屋も寝ている始末
必死に揺すって2人を起こすと、荷物を纏めて民家から飛び出す3人
周囲の確認をしている暇などなく、慌ただしくそのエリアをかろうじて抜けたのは12時59分
お間抜けにもほどがあるが、何とかなったので結果オーライだと樋口は内心安堵していた

アテもなく飛び出してしまったので、今後の方針が定まっていない3人
それどころかまだ寝起き感半端ない2人を抱えて、このままで大丈夫なのかと心配な樋口
”やる気”になってる連中に遭遇しないことを祈りつつ、とりあえず地図を眺めてみる

安理はまだほとんど起きてないし、和屋は今にも吐き出しそうなレベルに見受けられる中、近場でどこか身を潜められそうな場所を探してみると、そう遠くない場所に適当な別の住宅街があることに気づいた
しゃあない、そこで少し休むことにするか
樋口はそう提案しようとすると、突然安理が這いつくばってどこかあらぬ方向を見ていることに気づいた

それを樋口が問うと、安理は「いや、ちょっと待ってくれ。今いいとこなんだ」と意味不明の返事だけ
そこで樋口も安理と同じ体勢こそしなかったが、その方向を見てみると、そこにはそれぞれ銃を所持した西崎竜、本原悠、水木光が高所を歩いているのが見えた
やがて3人の姿は遠ざかって行ったので、安理は何事もなかったかのように起き上がる
なるほど、隠れようとしたのねと樋口が一人感心していると、安理は妙に悔しそうに首を振っていた

「いやぁ、悔しいね。見えなかったよ」
安理はしみじみそう言ったが、もう面倒なので樋口は突っ込まなかった
しかしいつの間にか平静さを取り戻している和屋は、「なんだ、パンツ見れなかったのか」といきなりぶちかますのでどうしようもなかった

そんな時だった
急に、きゃーという甲高い声が聞こえた
樋口たちがそれぞれその声が聞こえた方向を見ると、そこには同じ顔をしたブス2匹。中黒岩萌生と中黒岩萌萌が並んで立っていた
ブスたちはそれぞれ樋口たちのほうを見て、とても怯えた表情を浮かべている
いや、俺たち人畜無害だし...

そいやいまだにリュックの武器すら見てなかったと思いつつ、やむを得ずお互いに出方を伺うように固まっている
正直あまり見ていたくないブス2人との対峙で困っていた樋口だったが、ちょうどいい感じで”神の助け”が訪れるのだからまさに”主人公”である

突如、どこからともなく爆音を轟かせたスポーツカーが目にも止まらぬスピードで現れると、そのままブス2人を勢いよく跳ね飛ばす。それでもスピードを一切落とすことなく走り抜けたそれは、そのまま禁止エリアに突撃してついさっきまで樋口たちがいた家に突撃して大爆発からの大炎上。乗っていた人間の首輪爆破の爆発も加わり、とんでもない状況になっているのが見受けられた

運転していたのは北洋の暴走王・愛内真誠だった
せっかく調達したスポーツカーで、華麗に100マイルをぶちかましたのはいいが見事に制御不能になってブス2匹を殺害した上に自分まで死んでしまうスーパープレイを行ってしまった
ブスを撥ねた直後、「ああこれでもうダメだ…」と頭を抱えていたがそれによってハンドル操作が不能になったというのだからお笑い種である

しかし目の前でブスとはいえ、人が死んでしまうのをまともに見た3人はなかなかにきついものであった
100マイルのスピードとはいえ、その瞬間がさもスローのように見受けられたのは気のせいではないのだろう

嫌だな、当分夢に見そうだわ...樋口たちはそう思い、この場所から足早に立ち去って行った