走って逃げている最中に、竜と悠はそれぞれマシンガンとショットガンを自分のリュックに仕舞っている
それを見ながら、あぁこの人たちは敵だろうと殺したくないんだ。私の考えは間違いじゃなかったと確信していた光だったが、やがて木々の茂みのある地点に来ると竜がまた歩を止めた
「悠、止まれ」
言われた悠は素直に従うと、ぴたっと足を止めて木の陰に隠れる
慌てて光も歩を止めて、悠と同じように木の陰に隠れようとすると竜がそこでいい、座るかしゃがんでろと指示を出す。そして拳銃も仕舞えと言ったので、光は慌ててリュックにそれを仕舞う
やがてすぐ、前方から2人の影が見えて来たので光は驚いてちょっと目を丸くした
竜は二人に、「そこにいろ」と合図をするとその現れた2人・黒潮次郎と真能英興と静かに対峙していた
マシンガンとグレネードランチャーをそれぞれ持っている二人に対し、竜は素手
どう対応するのだろうと光は内心ハラハラしながら見守りつつ、悠のほうをちらっと見ると悠は膝を押さえ苦痛に歪んだ表情を浮かべていた
「大丈夫ですか?」
思わず光が近寄ろうとすると、悠はすぐにそれを制してすぐに目で小さく何度か合図を送って来た
あぁ、演技なのかな。。光は思いつつ、何で今こんな時に...とも思いいろいろ逡巡している
「すまん、助けてくれ。追われてる」
竜は二人に頭を下げていた。予想外の行動に戸惑う二人に構わず、竜は頭を下げたまま続けた
「水木が襲われかけてるのを助けたら、尾木、笹野、大和が執拗に追いかけてきてな。このままじゃ悠と水木が犯されちまう。悠は膝が限界だし、俺もこの通りだ」
言って、竜は左足首を押さえてみせた。そして向こうでは悠が膝を抱えて泣きそうなそぶりを見せる
「俺もさっきくじいてしまってな。もう無理だ。このままだとあいつらが...」
そう言った後、竜はしみじみと天を見上げた
黙って竜の話を聞いていた次郎と英興だったが、泣きそうな悠と疲れ果ててるように見える光の様子を見て二人で目を合わせて何かを思案している様子だった
そしてやがて遠くから聞こえてくる
「おい、どっち行った?」
「向こうだ」
「早く追いついてやっちまおうぜ」
などという3つの声
それで、竜が言っていることは本当だと2人の”イケメン”は把握したようだった
「話はわかった。ここは俺たちに任せておけ」
次郎がそう言って竜の肩をポンと叩くと、その横で英興も小さく笑みを浮かべて頷いてみせる
「どんなのが寄ってきても大丈夫。俺たちがクズ共を殺ってる間に、お前らはさっさと逃げな」
言って、英興はマシンガンを構えてから悠のほうへ寄って行くと小さく頭を撫でた
「5回に1回は”お兄ちゃん”と呼んで」
そう言い残すと、茂みから通りのほうへ向けて歩いていく
それを見て次郎も、こちらは光のほうへ寄って行くとジャケットをちらっと開いてポーズを取ってみせた
「恐れず追いかけ続ければ夢は叶う」
ポーズを取ったまま、しっかりとグレネードランチャーを持って英興に続いて通りのほうへ進んでいく
それをしばらく見ていた竜だったが、やがて”やれやれ”という感じで悠と光に行くぞと合図を送った
「悠さん、膝大丈夫なんですか?」
光がそう聞くと、悠は普段の表情に戻って何度も頷いてみせた
「ほら早く。まだ歩けるだろ?」
竜がそう促し、3人は再び歩き始めた
「つか、あいつら銃持ってただろ。追いかけて大丈夫なのか?」
今更な感じで大和がそう言う
男1人、女2人を追いかけるのだからすぐ追いつくと思っていたのだが、予想外の悪路に逃げ込まれて想像以上に苦戦していた
「バカか。さっきの見ただろ。あいつらは人に向けては銃を撃つの怖いんだよ。洞窟の時もそうだったろ」
目を血走らせながら笹野がそう言うと、尾木もは何度も頷いていた
「アレだろ、あっちの木陰だ。さっさとやっちまおうぜ」
3人が木陰に近づいた矢先、そこから現れたのは白スーツ姿の真能英興に、水色のジャケットの黒潮次郎
服装こそふざけているが、二人の手元にはとんでもない武器が装備されているわけで尾木たち3人はそれぞれ驚きの表情を浮かべたが、それでもこいつらなら対処できると内心余裕があった
「おい、そこのイケメン2人。水木と本原を見なかったか?」
尾木が揶揄ったような口調で”イケメン”を強調しながらそう聞くと、笹野と大和は思わず吹き出すような様子を見せる
そうでなくても怒りの義憤に燃えていた2人にとって、それは『宣戦布告』と同義だった
無言のままそれぞれ3人を睨みつける次郎と英興に対し、構うだけ無駄だなとすぐに察した3人は無視して木陰のほうへ向かおうとすると
すぐに次郎と英興はそれを阻止するかのように立ちはだかる
「おい邪魔だよ、俺たちはイケメンに用はないんだ。ホモじゃないからな」
笹野がまたイケメンの部分を無駄に強調してそう言う
それだけじゃ飽き足らず、大和も完全に馬鹿にした口調でそれに続ける
「いいからどけって。何だったら、お前らも一緒に犯るか? 好きなほう選ばせてやるからよ」
もう言葉はいらなかった
英興はマシンガンを尾木のほうへ向けて構え、次郎も笹野へグレネードランチャーを向けた
「おい、待てって。何の冗談だよ」
言うが早いか、尾木と笹野、大和はそれぞれ慌てて逃げ出そうと後ろを向いた瞬間だった
”効果テキメン!僕イケメン!”
英興と次郎は同時に発砲を開始した
至近距離からのマシンガン乱射で、尾木と大和は見るに堪えない華麗な挽肉ミンチ(100g70円)と化し、笹野はグレネードランチャーをまともに喰らって笹野のかぶと煮(税込み385円)へと進化を遂げた
「いーけないんだ、イケメンだ」
英興はまたそう嘯くと、小さく笑みを浮かべながら次郎に右手を差し出す
それを同じように笑みを浮かべながら、次郎はその手をがっしりと握り返すと小さく頷いた
「今の自分にはプログラムが足りない」
次郎はそう言うと、木陰のほうへジャケットでポーズを取ってみせるがすでに竜たちは姿を消した跡だった
「それはそれでいい」
英興も薔薇を咥えてポーズを取ってからそう呟くと、やがて2人はまたどこかの方向へ向けて歩き始めた
”これはやばいものを見てしまった”
鈴木鷹広は尾木たちとイケメン2人のやり取りをすべて見届けてしまった
そして、偶然なのか運命なのか。殺戮が終了したイケメン2人が、自分が隠れているその方向へ向かってきているのが見えたので慌てて猛ダッシュで逃げだした
イケメン2人はその鷹広に気づいてすらいなかったのだが、気が気でなかった鷹広は持ち前の快速でぶっちぎっていた
しかし、闇雲に逃げるというのはとてもよろしくない行動
得意のオーバーランを敢行してしまったようで、思わず禁止エリアに侵入してしまっていた
咄嗟に気づき、牽制バックのつもりでヘッドスライディングでエリアから逃げ出したが時すでに遅し
首輪爆破からの首チョンパで鷹広はこの世からグッバイすることに成功した
牽制アウトはいつものことなのに...鷹広は今頃、涅槃でそう悔やんでいるかも知れない