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岡野和近と八森鈴香の2人は、永遠に結ばれた誓いの通り開始当初からずっと二人で行動している

190センチを超え、身体能力にも自信がある和近に支給された武器はハリセン
華奢な体型からは想像できない、意外にしっかりとした下半身を持つ鈴香に支給された武器はコンパス(算数とかで使うやつ)
とてもじゃないが、銃などで暴れている奴らには敵わない状況

わりと近くで銃声のようなものが何度も聞こえるたびに鈴香は怯えていたが、和近は「大丈夫大丈夫」と言って安心させていた

開始から10時間くらい経っているのに、誰とも遭遇しないで済んでいるのはありがたい話であった
和近がクラスで仲がいいといえるのはせいぜい棚町くらいだったし、鈴香にしては特段仲がいい子はいないという有様
もちろん取り立てて仲が悪い人がいるわけではないが、このような極限下に置いて信用できる相手は互いにお互い同士だった、ただそれだけ

いくら身体能力に秀でている和近でも、銃などの飛び道具を持った相手では厳しいものがある
まして”フィアンセ”を守りながら、となれば猶更

とにかくエンカウントせず、最後の最後までやり過ごす
遭遇した場合はタイマン勝負で、相手に飛び道具を使わせない展開にしていく。それ以外に策がない状態

武器が武器なのでなかなか民家や店などに入る勇気も起きないわけで、支給のパンと水で空腹や渇きを凌いでいた二人だったが、さすがにもうちょっとちゃんとしたものが食べたい、との鈴香のリクエスト
地図を見た和近は、今いる場所の近所に住宅街があると認識した

「俺がちょっと行ってめぼしいもの持ってこようか?」
和近はそう提案した。今いる場所は割と安全なような気がしている
二人で連れ立って歩くより、自分一人が行って戻ってくるほうが確実な気がして思えなかった
確かに一人鈴香を残していくのは不安ではあったけれども

「一人になるのは怖いよ」
鈴香は不安げにそう言ったので、ならばと和近は第2のプランを提案する
「じゃあ住宅街まで一緒に行こうぜ。俺も正直お前を残していくのは不安だ」

和近が本心でそう言ってちらっと笑うと、鈴香もそれで同じように笑って頷いた
まあわりと暗闇。夜陰に紛れて動けば、早々見つかることはないはずだ、と

問題は”先客”がいた場合。話が通じそうな相手ならいいが、いきなり攻撃されたら武器が武器なので打つ手がない
とにかく慎重に、そして大胆に

「カズくん、何が食べたい?」
鈴香が小さく笑みを浮かべたままそう聞くと、和近はすぐに頷いてニヤリと笑う
「牛丼」
それで鈴香も、知ってたとすぐに頷いた

とはいえ『吉野家』や『すき家』は営業してないので、民家で材料を調達ということになりそう
鈴香はまあ料理は人並みに出来るので、牛丼くらいなら材料さえあれば問題なかった

「それじゃ行くか」
和近が促して歩きだし、鈴香がすぐその後ろに続く
しばらく歩くうち「うっ」という鈴香の声が聞こえ、和近が後ろを何気なく振り返ると
鈴香は包丁で心臓部分を後ろから刺された挙句、ロープのようなもので首を絞められている状況だった
驚いて和近が目を凝らすと、そこには満面の笑みを浮かべた氷室清が瀕死の状態の鈴香の後ろに立っている

瞬時に和近は清に向けてドロップキックを発射する
清はまともに喰らってもんどり打つが、その反動で鈴香に包丁がさらに深く刺さる悪循環

「鈴香ー」
和近がそう呼びかけるが、もう鈴香は息をしていなかった
その様子を見て、清はゆっくり起き上がりつつ再び不気味な笑みを浮かべる
そしてまたリュックから別の包丁を取り出すと、それを和近に向ける

しかし、”復讐の鬼”と化した和近にはそんなものは通用しなかった

包丁を何度も突き出し攻撃する清のそれを余裕を持って躱しつつ、正面から清の片足を抱え込むようにして担ぎ上げ、そのまま後方に倒れこむ”フラップジャック”を喰らわせると、清は思わず包丁を手放して顔を押さえて苦しんでいる

「よくも...私の顔に..」
清がそう言って激高するが、和近は清の左手首を右手で掴み取り、左腕をくの字に折り曲げながら清の頭上に持っていき、内側から自らの左腕を清の首に前腕を押し付けながら徐々に締め上げる変形のコブラ・クラッチ”マネークリップ”で完全に動きを止める

失神寸前になった清を真っ逆さまにして持ち上げて抱え込み、そのまま頭頂部から地面へ激突させる”ツームストンパイルドライバー”の後、無理やり清を起き上がらせる
和近は左手で掴み取った清のの右腕を引っ張った勢いで体を向き合わせ、自身の右腕を清の喉元に目掛けて叩き付ける”レインメーカー”をまともに喰らわせると、そのままの勢いで清が落とした包丁を”ジャンピングエルボー”の要領で心臓にめがけて何度も何度も差し込んだ

さすがの氷室清も、その猛攻にはあっという間に涅槃へGO!になってしまった

完全に事切れた清を両肩に担ぎ上げ、そこから右手で清の下半身を押し上げることで大きく弧を描くように反転させ、後頭部から背中から地面に叩きつける変形ファイヤーマンズ・キャリー・スラム”ヘビーレイン”をお見舞いして、ようやく和近は現実に戻された
最愛のフィアンセ、八森鈴香がもうこの世にいないということに

「...鈴香、仇は取ったぞ」
言って、天を見上げる和近の瞳からは涙が溢れ出す
ちょっとした油断。やっぱりあの時、あそこの場所で留まらせておくべきだった...
そう悔やむ和近だったが、もうどうにもならない
現実にフィアンセ”鈴香”はもうこの世にいないし、自分も殺人者となってしまった

”誰よりもダサいのが岡野和近だとわかったんじゃないですかね。本当に俺ならこの状況を打破してくれるだろうと思ってた鈴香には申し訳ないと思いますし、クソダセぇな、本当”
そう心の中で呟くと、決意は決まった

これからは皆殺しだ。鈴香の復讐マッチだ、と

「俺がこのプログラムの中心にいる限り、北洋高校3年B組の生徒に血の雨が降るぞー」
和近は一人、天を仰ぐように両腕を拡げたポーズで夜空に向かってそう吠えた