熊田真怜は野球部のマネージャーをしている
その美貌に見惚れて、他校の野球部員がピッチャー用のネットに直撃したという逸話があるくらい
活発な性格で校内でも人気がある真怜だったが、彼女には裏の顔があった
『個撮の女王』でもあったのだ
間を通さない方が儲かると言っていろんな『お客さん』と旅行に行ったりして欠席も多かったが、マネージャー事態の仕事はちゃんとしていたので評判は悪くなかった
背が低くスタイルも微妙、金に卑しく自己顕示欲も強いお世辞にも性格が良いといえないのになぜか人気がある真怜
真怜の弟も”イケメン”で通っているが、こちらも相当な女好きで真怜の”友達”をひたすら食べている疑惑もあった
その真怜と一緒に行動しているのは新間恵海。こちらにもなかなか強烈な噂がある
”AV出演”疑惑。限りなく黒にグレー。笹野や大和などに追及されても、「またそれー?」と言って笑い飛ばす強靭なメンタル
間違いなく本人なのに知らない振りを押し通せるのは凄いこと
強烈すぎる個性を持った2人だけに、普段から無駄に意気投合している
それはこのプログラムに巻き込まれても変わっていなかった
お互いに拳銃を持っているしやる気も満々だが、まだ誰とも鉢合わせしていない偶然
あばら家のような民家で二人はすでに風呂を済ませ、夜が明けるのを待っている状態
「私たちはか弱いから。夜はこのままここで過ごそうね」
真怜がそう言ったのを聞いて、恵海も屈託のない笑みを浮かべて頷いている
「こんなぼろ家に、美少女2人が潜んでると思う人は誰もいないでしょ」
2人はすでに出来上がってる感すら漂っている
テーブルの上にはビールの空き缶が大量に散乱している
真怜も恵海も、だいぶ飲みすぎでべろんべろん状態
空腹にビールとつまみを決めたため、完全に悪酔いしている
「つんさぁ、もっと飲む?」
真怜がそう呼びかけると、半分寝かけていた恵海は小さく頷くとジョッキをどこからか取り出してくる
「ビールはもういいかな。たそ、水割り作って」
完全に年齢を忘れたやりとりをかましている2人だが、普通に手慣れた手つきで水割りを作る真怜
”個撮”で鍛えた腕をいかんなく発揮している
恵海に水割りを作り、自分はストレートでウィスキーをかます真怜
いつの間にかその横に山尾光司が座っていることに気づいてすらいない状態
「おい、俺にも飲み物くれ。あとちゃんこもな」
場に馴染んだ体で光司がそう”注文”したが恵海はすでに潰れて寝ているし、真怜はウィスキーをぐいぐいと飲んでいて横に座っている光司をガン無視している
そこで光司は真怜のジョッキを取り上げると、「俺にも飲み物くれよ」と再び懇願する
ようやく光司の存在に気づいた真怜だったが、別段驚いた様子を見せずに逆にまたジョッキを奪い取るとぐいぐいと飲み始める
それで諦めた光司は立ち上がると冷蔵庫からコーヒー牛乳を取り出しコップに注ぎつつ、キッチンでお湯を沸かし始める
カップヌードルにお湯を注ぐと、それを持って居間に戻って来た
コーヒー牛乳を飲みつつ3分待ち、光司がようやく食べようとした瞬間に真怜が有無を言わさずにそれを食べ始めている
予期せぬ出来事に目を丸くして驚いた光司だったが、ここは素直に諦めて別のカップ麺を作ることにした
今度はカレーヌードルにお湯を注いで待っていると、いつの間にか目覚めた恵海がそれをいきなり食べ始めている
しかし光司は諦めない。懲りずにシーフードヌードルにお湯を注ぎ、今度はそのままキッチンで待つことにする
よし、そろそろ3分と思った直後、光司は不意に恵海から声をかけられる
「山尾くん、熱いお茶入れて。お湯沸かすついでにさ」
言われ、光司はなぜか素直にお茶の葉を探し始めてしまう。そこで待ってましたとばかりに、真怜がシーフードヌードルを強奪してしまっている
仏の顔も三度まで。ついに光司が切れた
「お前らふざけんなよ。俺のカップ麺をどいつもこいつも」
激高した光司は左手を高くかざす独特のポーズで威嚇すると、真怜と恵海は二人同時に拳銃を構えるとそれぞれ光司に向けた
「帰れ!帰れ!」
真怜と恵海はノリノリで光司に帰れコールを浴びせている
あまりにも楽しげにコールを送る二人から殺意を感じなかったのだろう、光司は笑みを浮かべて「待て待て」と右手を振ってそれを制しようとする
真怜と恵海の2人はスマホのアプリまで駆使し始め、大帰れコールがどんどん酷いことになっている
光司はぶちぎれてサミングポーズをするが、真怜はシーフードヌードルを食べているし、恵海はコーヒー牛乳を飲んでいる
もう完全に挑発行為の無法地帯と化している
「何か文句があるなら勝負して、負けたら言うことを聞く」
光司がそう言い放つが、真怜も恵海も帰れコールに飽きたのだろう、それぞれテーブルに打つ伏して寝ようとしている
それを見て光司は満足気に頷くと、「怖いのかこの売女野郎」と言い放つ
しかし酔いが回った上にカップ麺まで食べ腹一杯になった2人、真怜と恵海は拳銃を持ったままテーブルを枕代わりに寝始めている
完全に独り相撲と化している光司の感情は収まらない
怒りに震えた光司は助走をつけるとまずは真怜にギロチンドロップを喰らわせる
テーブルの上に頭があるのにそこにギロチンをぶちかます恐るべき身体能力を見せつける光司だが、泥酔状態の真怜は一切の反応がない状態
勢いづいた光司は、こちらも完全熟睡状態の恵海に対して華麗に宙を待ってのダイビングヘッドバットを敢行するが、やはり爆睡中のため一切反応はない
むしろ自分がただ痛い思いをしてるだけのような気がしてますます腹が立ってきた光司は。ついに伝家の宝刀を抜くことにした
”究極のハンドガン”Pfeifer Zeliska(パイファー ツェリスカ)」。超大型リボルバーハンドガンで、ハンドガンのくせに6キロもあるそれをついにぶちかますことにした
並みの人ならその威力で自分が吹き飛んでしまうそれを光司はやすやすと発砲する。並外れた下半身の安定さも無駄に披露している
小型の大砲と言ったほうが近いそれの砲弾を至近距離から喰らった2人は、当然のようにもう姿形をとどめているはずがなかった
光司は元真怜だった肉片に向け「この個撮女郎。パパ活ばかりしやがって! アバズレ!」と吐き捨てると、返す刀で元恵海だった肉片に向けて「このAV女優。AVばかり出やがって! AV!」と勝利の雄たけびを上げる
2度吠えて満足した様子の光司だったが、ふと気づいた
俺は飯を食べてない!!
光司は2つの肉片と共に、血の匂いが充満している素敵な部屋で焼きそば弁当ディナーを無事遂行した
「おい、やきとり弁当を持って来い! この肉片!!」
光司はそう叫ぶが、当然返事がない。ただの肉片のようだ
左手を高くかざす独特のポーズを再び取った光司は、冷蔵庫から豚肉と長ネギを取り出すと函館ならではの「やきとり」製作を開始した