時刻はもうすぐ0時になろうとしている
悠が半分以上寝たままの状態で、「光ちゃん、交代だよー」と居間へ戻ってくる
どう見ても起きてないそれを見て、竜と光はまた互いに顔を見合わせて笑っている
その様子に気づいた悠は、一人ほくそ笑んでいる
「竜、明日の朝は赤飯だね」
言って意味深な表情をする悠だったが、すぐにまた寝ぼけ眼に戻る
あまりにも眠そうに見える悠を見て苦笑する竜は、「いいよ。お前も寝てろ。俺だけで十分だ」
言って、竜はまたテレビをつける
え、このタイミングで..?
光が内心そう感じていると、悠はまた不敵に笑った
「あぁ、この時間かぁ。そりゃテレビつけるよね」
どういうことなんだろう、光がそう思っているとテレビでは天気予報が流れ始める
あぁ、明日の天気を確認してるんだなと光が勝手に納得していたが、悠は竜を見て笑っている
全国の天気が終わり、地方版に切り替わると同時に竜はテレビを消す
え。どういうこと...?と光が困惑していると、悠は「竜はね、さっきのアナウンサーを見たかっただけなんだよ。ね?」
言って竜のほうを見ると、竜は知らない顔をして「さあな」と返すだけだったが、明らかに動揺しているように見受けられる
「光ちゃん、竜も普通の男の子なんだって。可愛い子を見たいだけなんだよ」
悠はそう言うと、どこから取り出したのかメガネを光にかけさせる
「ちょ、悠さんって。それ私のメガネじゃないですか」
されるがままメガネっ子になった光を見て、悠は満足顔
「おめでと。これで光ちゃんは竜の非攻略キャラになりました」
それを聞いて竜がまた噎せている。光はもう訳が分からな過ぎたので、「すいません。じゃあ寝てきます」と言ってメガネを外して居間から出ようとすると、外から放送のようなものが聞こえてきたので思わず立ち止まる
無駄にシンプルなテクノポップ調の曲が流れ出す
”潮州力?? 足が短い 潮州力?? 腕が短い 潮州力?? 胴が短い 潮州力?? 全部短い〜”
酷すぎる歌詞に乗って、0時の放送が始まったようだ
「何コラ!タココラ!」
いきなり滑舌が悪すぎる罵声から始まるそれ
昼のテンルーよりはマシに感じるが、それでもまるで何を言ってるかわからない放送
「何がやりたいんだコラ、放送を飾ってコラ」
いや、それこっちのセリフです...光は内心そう突っ込んでいる
「禁止エリア。入るなコラ、入るな、入るな、入るなよ! またぐなコラッ!またぐな、またぐなよ、 またぐな、またぐなよ、絶対に!」
いや、知ってますから。それより早くどこがなるのか教えてください...
「逆境?それ、チャンスだよ。インパクトなんです、もうそれで勝負は決まる。努力をしても報われない奴はいる。間違いなくいる。ただ成功した奴は必ず努力をしている。このプログラムにはには非常ベルが鳴っている」
そこでぶっつりと放送が途切れ、その後はお馴染み”ゲロ”による淡々とした放送が開始された
とりあえず6時までは禁止エリア該当がないということで一安心し、改めて光は仮眠を取ることにした
「それじゃ」
光がそう言って去ろうとすると、急に表情を変えた悠は竜のほうによって何やら耳打ちをしている
竜も素直にそれに耳を傾けていて、見せたことのない不敵な笑みを浮かべている
そして悠と竜は自分たちのリュックのほうに視線を向け、意味深に頷いている
明らかに不穏な二人が気がかりで、光は寝室へ行くのを留まってしまう。もしかしたら、この2人に寝首をかかれるのではないか。そう思わせるような素振りを露骨に2人は行ってきている
あっ、と光は思った
もしかしたらこれは...いや、間違いない。きっとそうだ
「それじゃおやすみなさい」
光はそう言って居間を後にする
光の考えはこうだった。あからさまに思わせぶりなことをして、きっと私をからかっているだけ。そう読んだ。今日1日の2人の行動パターンから当てはめると、これは間違いないはず
そう踏んだ光の行動は正解だった
間もなく、また悠がハンドバックを投げているような音が聞こえてきたのだから
「光ちゃん、つまんないよ。ちゃんとリアクションしてよ」
悠のそう嘆く声が寝室まで届いてきたので、光はしてやったりの表情を一人浮かべていた
光がいなくなった居間。ハンドバックを投げつけた悠だったが、やはりまだ眠そうな様子は変わらない
「いいからお前も寝て来い。あぁ、水木と同じ部屋はダメだぞ。襲うからな」
竜が静かにそう言い放つと、悠はまた不敵な笑みを浮かべる
「ちっ、バレちゃしょーがねーなー」
悠は酷い棒読みでそう言うと、冷凍庫からチョコジャンボモナカを取り出している
「正々堂々勝負してやるよ。私は真っ向勝負で参観王になった女だから」
などと意味不明なことを言いながらモナカを貪り喰らう悠にまるで興味を示さず、竜は地図を眺めている
「明日はどうする? このまま駆け落ちしちゃう?」
あっという間にモナカを退治した悠は竜に対してそう言うが、当然のように竜はスルーして返事すらしない
反応がなくつまらなかったのだろう、悠は急にテレビの傍で何かを弄り始める
「酷いやつばかりだ。PS4をプレイするだけなのに。恥ずかしくないのか」
どうやらPS4が接続できないようで、悠はご機嫌斜めだった
それで竜に接続させているのだが「どんな後進国の言葉なんだ」、「お前の国は技術的に進んでいるんじゃないのか」などと好き放題言い張りつつ接続が繋がるのを待っている
やがてあっさり繋がったようで、悠は竜からコントローラーを受け取る
しかし繋がった途端に興味を失くしたようでそれをすぐに投げ捨てる
わりといつもの光景なのだろう、竜は特に気にも留めた様子を見せずに再び地図を眺め始める
「どうしよね。廃墟目指してみる?」
悠がそう言うと、竜はすぐに被りを振った。無駄だ、まだ時期尚早だという感じで自分の首輪を指差す
うん、知ってると言わんばかりに悠は光が置いていったタブレットを弄り始める
『首輪解除は簡単そうだけどね』
悠がそうメモ帳に打ち込んだのを見せると、竜は下を向いて小さく笑っている
それは問題ないだろうな、そう呟いて竜は一人遠くを見ている
「ねえ、竜は生きて戻りたくないの?」
悠がそう聞いたが竜は聞こえてないのか、まだ遠くを見たまま
「やっぱり忘れられないんだね、あの人のことが」
「さあな。もう忘れたよ」
竜はそう言ってタブレットを弄りだすと悠はその横から覗き始める
ブラウザを勝手に落とし、『Youtube』を勝手に見始めるので竜はすぐに立ち上がった
悠はタブレットを持って移動し始めると、光がいる寝室の前にタブレットを置き去りにしてくる
やがて流れ出す、爆音の”うっせぇわ”(馳浩バージョン)
間もなくドアが開き、「いい加減にしてくださいよ。何なんですか」
本気で怒った風にそう言って飛び出してくる光を見て悠と竜はまた小さく笑っていた