下山田佳吾は暗闇に紛れ機会を伺っている
小学校からいじめの首謀者で鳴らした佳吾だけに、人殺しをすることになど躊躇いは一切なかったのだが武器がダンボール。これではさすがに打つ手がなかった
明るいうちに何度かクラスメイトは見かけている
西崎竜と本原悠、そして水木光という異色の3人組。その時は3対1はさすがに無理と判断し、陰に身を潜めてやり過ごした
樋口、千葉、和屋の3人組も見かけたがこの時も同じように見送った。その直後に山尾光司も歩いていたが、これも身体的に勝てる見込みがなかったのでスルー
不思議なくらい女子に遭遇出来なかった不運。見つけたら即犯し、即武器強奪は当たり前だったのに
ただ殺すだけじゃなく、全裸にして自慰をさせ、クソ喰らわしてからバックドロップをしてやろうとまで考えていただけに、誰にも攻撃できなかったのはよろしくない状態
ダンボールに閉じ込めて粘着テープで縛ればいいのか!
佳吾はそう考えたが、そんな簡単に捕まえれるような相手がいるとも思ない
やはりか弱い系の女子を狙って、それをするしかないなと一人ほくそ笑む
水木光、本原悠は無理な様子なので、となれば戸叶碧か前園翠あたりがターゲットになる
あの二人を跳び箱に閉じ込めてあんなことや、こんなことを
そう考えるだけでコッペパンがカレーパンやカツサンドに化ける気がするね
特にあてもなく歩いていた佳吾だったが、やがて小さく明かりがついている1軒の家を見つけた
佳吾がこっそり覗くと、前園翠が一人地図を眺めているのが目に映った
これはまさに時が来た状態じゃないかと佳吾は内心ニヤリとした直後、別の部屋のほうから戸叶碧まで現れて来たのだからもうこれは天の思し召しとしか思えなかった
「はーい、正義を振りかざす皆さんの願いが叶いました」
いきなり突撃することも考えたがまずは様子を伺うことにした
女子2人でいるだけなら余裕だが、他に男がいたら厄介だ。悪いことを考えるのは得意だが、行動に実際起こすわけではない最低の人間である佳吾
普段なら従弟の晋太郎と一緒に悪さでも出来るのだが、今回は単独行動でしかない
しばし様子を伺うが、どうやら碧と翠の2人でいるのは間違いないと確信した佳吾
すぐに窓を叩き割ろうかと思ったが、運悪く近くに石すら見当たらない
しゃあない、まずは石を探そうと佳吾は一旦その場を離れる
すぐに手ごろな石が見つかった
よっしゃ、これで3Pや!
すでに当初の目的を忘れ、佳吾はただの獣と化している
危機的状況に陥ると本性が現れるもので、ただでさえろくでもない人間の佳吾にとって、このプログラムはただの成り上がりの場に過ぎない
ふと佳吾の前に人影が写ったように見えた
いや、こんな暗がりに他に人がいるわけがないと佳吾はたかを括る
こんなとこに幽霊が出たのか。いや、幽霊などいるはずがない。一定の確率でおっぱいとかちんことかが出た心霊写真がない時点で、すべてはツクリモノ。そうレジェンドが言ってた
それで一安心した佳吾は迷いなく2人を襲いに行こうとした直後、何者かに目の前を塞がれる
暗闇に長身と思われるシルエットに立ち塞がられるのはなかなかにスリルがあったが、真っ黒な人物の顔がすぐに浮かんだのでそこまでの恐怖ではなかった
浪花なおみ、どうせまたビキニで自撮りでもしてるだけだろと思い佳吾はバックステップでその場から去ろうとした
直後、その黒い影は急に飛んだように見えた
”ドロップキック”、それをいきなり喰らい佳吾はもんどりうって倒れ込む
何事、と思う前に佳吾は何かを口に突っ込まれる
それがダンボールと理解した直後、佳吾は目の前にいるのが岡野和近ということも把握できた
ダンボールを吐きだそうとした直後、佳吾は首を締めあげられる
復讐の狂鬼と化している和近は、所謂”変形のコブラクラッチ”マネークリップで締め上げると、佳吾はあっという間に虫の息となっている
それに気づいた和近はすぐにその技を解く
さらに段ボールを押し込み、至近距離から腹部に向かって突き上げるように放つドロップキックのジョン・ウー
反動で佳吾はまた段ボールを吐き出すが、今度は新聞紙で作られた”レインメーカードル”を再び大量に口に押し込んでからの滞空時間と高さがあるダイビングエルボードロップ
再び佳吾は噎せこみながらドル札を吐き出す
「おい、何で俺を攻撃する」
瀕死ながら佳吾がそう呟くと、和近は一瞥して一言だけ
「特にありません」
意識朦朧としている佳吾に対し、和近は再び佳吾の口にレインメーカードルを押し込むファンサービスを敢行
「下山田さん、お疲れさまでした」
和近はそう言い放つと、天を仰ぐように両腕を広げる
佳吾の右腕を無理やり引っ張って起き上がらせると、ショートレンジ式アックスボンバー『レインメーカー』を佳吾の喉元にぶち込んだ
クリーンヒットし、佳吾はまともに後頭部から地面に落ちる
運よくその場所に大きな石があったため、佳吾は華麗に即死することに成功した
「岡野和近は超人です」
その死体を見下ろしながら和近がそう言うと同時、また一人の影がその場に現れる
「お前の罪の数を数えろ。絶対許さねぇからな!」
そう言い放って和近の前に立ちはだかったのは、棚町弘嗣だった
弘嗣に気づいた和近は、すぐに「あんま期待しないでね」と言って弘嗣の顔に”レインメーカードル”をぶちまける
一瞬それに気を取られた弘嗣に対し、和近はすぐに姿をくらませる
100メートルを11秒台で走る和近の本領発揮というところ
一方膝に爆弾を抱える弘嗣にはそれを追うスピードはなく、呆然とその場に立ち尽くすだけだった
「派手に逃げられたぜぇー!!」
弘嗣はそう雄叫びを上げると、一人首を振った
「どんな状況だろうと事態を収束させるのが俺の務め」
弘嗣はそう呟くと、碧と翠の潜んでいる家を見て一礼する
「プログラムに関わる人は俺、みんなを幸せにしたいんです」
言って、弘嗣もその場から姿を消す
岡野和近は俺が絶対に倒す。相手にとって………不足なし!
内心そう呟きつつ、ポーズを取って弘嗣は一人天を見上げていた