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「やっちまったぜ」
口から血を吹き出しつつ悠がそう呟く。抱きかかえつつ竜がいいからもう喋るなと呟く横で、窓の外へ向けて銃を撃っていた碧が「刃長だ、刃長が撃ってきてる」と泣き叫んでいる

”絶対に許さない”
光は一瞬の躊躇もなかった。素早い動きで竜のリュックからマシンガンを取り出すと、迷いなく外へ向けた
ぱららららっと乾いたタイプライターの音が鳴り響き、外へ銃弾の雨あられ

「水木。危ねぇ!」と竜が叫んだ直後、碧が光の目の前に立ちはだかった
え?と思う暇もなく、1発の銃声音と共に今度は碧が光に覆い被さるように崩れ落ちる
ちっ、と竜が舌打ちしてから「悠、ちょっと待っててくれ」と言って地面に寝かせてから悠のリュックからショットガンを取り出す
窓の外にはっきり見えた、刃長拓に向けて迷わずそれを1発ぶち込むと直撃したようでぐらついているのが見える
2発目の装填に時間がかかることがわかっているので、竜は「水木撃て! 全発ぶち込んでやれ!」と感情を露わにしてそう叫んだ

はい!と言ったと同時、光は碧を抱えたままマシンガンを拓に向けて乱射した
想像以上の反撃に驚いたのか、それとも痛みからなのか
拓は恐ろしいまでに目を見開いた様子のまま、その場に事切れている
ショットガン、マシンガンを喰らってはそれはひとたまりもなかった

「碧!」
マシンガンを放り出して光が慌てて呼びかけるが何の反応もなかった。ただ碧の瞳はなぜか笑みを浮かべているように見えた

一方竜も素早く悠の元へ戻り、再び抱きかかえる
口からだけじゃなく、体中から血が流れ出しているのでもう手の打ちようがないようにしか見えないそれだった

「やっちまったぜ。本原悠一生の不覚」
こんな時でも軽口を叩く悠に思わず笑いかける竜だったが、すぐに首を振って「喋るな。血が噴き出す」とそれを制する
何とか手当をと思う竜だったが、悠は「竜、ありがと。けど私はもうダメみたいだよ」と他人事のように小さく呟くと大きく息を吐いた

「バカ野郎、諦めてるんじゃねえ」
竜がそう声をかけるが、悠は目を瞑って何度か首を振った。私のことは私が一番わかる。これは致命傷だよ、と
碧の死に涙を流しつつ、光も悠の元へ寄って来た

「悠さん、今包帯持ってきます」と言う光に悠はそれをすぐに制した。私にはもう時間がないからね、もうそれはいいんだよと言って光に何事か小さく耳打ちした
それを受けて光は悠のリュックの前のポケットの部分を開けると、一つの封筒を取り出してからそれを竜に渡した

「竜、それとこのスマホの中は私が死んでから見ていいからね。それまではお預けだよ」
悠は血まみれの手でスカートのポケットからスマホを取り出すと、それを竜に手渡した。何だよ、意味わかんねーこと言ってるんじゃねぇよと竜が叫ぶが、悠はまた静かに首を振った

”夏の空は今日も青空で君を思い出すから嫌いだった”
悠は震えた口調でそう口ずさみ出す

「竜。初めて会った日のこと、覚えてる?」
悠がそう言うと竜はすぐに頷いた。当たり前だ、忘れるわけないだろと竜が返すと悠は小さく笑みを浮かべた

「私たちはずっと一緒だった。けどそれはここまでだよ。竜、これからは光ちゃんと一緒に生き残るんだよ。二人で歩き出して。私のことは頭の片隅にでも置いてくれればいいからね」
最後のほうは声がかすれてきている悠だったが、今度は光をまた招き寄せた
「こう見えて竜は弱いからね。あとは光ちゃんに託します。竜をよろしくお願いします」

言い終えると悠はまた息をついて一人天を見上げた。右手を伸ばし、何かを振り払うような動きをしている
「たまねぇ、私まだ行きたくないよ。話しておきたい事あるんだから」
一人言って再び小さく笑みを浮かべると、改めて竜のほうをしっかりと見据えた

「竜。12年くらいかな、一緒に居てくれてありがとね。どこにいるのか全然見えなくなっちゃったけど」
悠の視線はしっかりと竜に向けられているのだが、もう視力は失われてしまったようだ。ちぇー、と言って悠は口をつむんでいる
そして悠は光ちゃんと呼んだ。光はすぐに、はい、ここにいますと悠の右手をしっかりと握った
「光ちゃん、後のことはお願いします。私の大切な弟をよろしくね」
また謎のお姉ちゃんぶりが炸裂してると思い、竜は呆れたように首を振ったがやがて悠の左手を握った

「この手は竜か。私は捨て子なわけじゃん。それが最期は弟とそのお嫁さんに看取ってもらえるんだから私は幸せ者だー」
意識がだいぶ混濁して来ているのか、悠の言うことは支離滅裂と化している。光は目に涙を浮かべながら悠さん、悠さんと励まし続けているがその声は届いてるのかはわからない
竜はあえて平静を保とうとしているのか表情を変えていないが、異常に瞬きの回数が増えてきている

「光ちゃん、竜が瞬きの回数増えた時気を付けてね。”嘘ついてる”から」
悠はそう言うと小さく笑みを浮かべ、それから天を見上げて一度大きく息を吐いた
たまねぇ、もうちょっと待って。最後にあと一つだけ

”出会った意味は必ずあるから・・・
そう 飛びたて未来見つめて

絆が あるから
この街の乾いた風も
心潤す熱く
上手くは馴染めない
似た者同士の君とだからこそ目指せる

I want to know all about you.
You're everything to me.
I always speak my mind.
I feel in love with you”

悠はかすれた声で、途切れ途切れになりながらも一節を歌い切ると満足気にどや顔をしている
竜と光は呆気に取られながらも、それを黙って聴いていた
じゃあ竜、光ちゃん。お別れだよ
かた焼きそば食べたかったなー...

悠は小さく笑みを浮かべると、目から一滴の涙を流す。そのままガクンと急に首が沈んだ
竜と光が持っていた両手からも力が抜け、静かに息を引き取った

「悠さん?」
光が慌ててそう呼びかけるが、もう悠の反応はない。悪い冗談やめてくださいよ、と光は目に涙を浮かべて何度も悠の体を揺するがもちろんされるがまま揺れるがまま

「もういい。水木、寝させてやれ」
竜は天を見上げながらそう呟くと、光の肩に右手をポンと置いた
妙に落ち着いた様子に見える竜に対し、光はどうしてそんなに落ち着いていられるんですか!と泣きながらそう叫ぶと、竜は静かに首を振った

「わかっていたことだろ。プログラムはそういうものだって」
光のほうを見ず、遠くのほうを見るように竜は小さくそう呟く。しかしその目の瞬きの回数はやはり増えているように見受けられる

「竜さんは平気なんですか? 悠さん死んじゃったんですよ?」
光は涙目を自分で拭いながらそう聞くと、竜はまた小さく頷いていた

「俺は平気だ。だから水木も落ち着け。もう少ししたらここを出るからな」
竜は天をまた見上げながらそう呟く。やはり瞬きの回数が尋常ではないので、光は察した。彼は我慢してるんだ。あえて平静さを保とうとしているんだ、と

竜はまだ天を見上げたままで、大きく息を何度も吐いている。光にも視線を向けず、悠をまだ抱きかかえたままの体勢でただただ天を見上げて息を吐いているだけ
そして何かを振り払うように何度も首を振ってから、一人大きく頷いた

「そうだった。封筒とスマホを見てやらないとな」
竜は悠を抱えたまま、手渡された封筒を開封する
そこに入っていたのは1枚のラミネートされた書類。何気なく竜がそれを見ると、そこに書かれていたのは衝撃の事実だった