竜はさすがに絶句している
その様子に気づいた光がそのファイルを覗き見すると、同じように言葉にならないようで思わず口を押さえている
ちょ、待てよ。悠、これはどういうことなんだよ...
”DNA鑑定の結果、あなたと西崎竜さんは『姉弟』と判定できます”
信じられないその表示に戸惑いを隠せない竜だったが、やがてスマホの画面を開いてみる
まるで初期状態のようにアプリは何もないそれ。待ち受け画面はいつぞや撮った珠美と竜、悠が並んでいる最後の写真
そこに一つだけメモのアプリがわざとらしく置いてある
これか。竜は思い、それを開いてみる。一つだけ履歴があった
”遺書”と書いてあるそれを竜はクリックする
竜へ。ごめんね、いきなり私たちが姉弟だなんて見てびっくりしたでしょ?
竜が家族を探すのを断念せざるを得なかったあの日、私に届いたのがこれだったんだ。何か妙な予感がして送ってみたら、案の定な結果でね。さすがに言えなかったんだ
私たちは父親が同じで、お母さんが別の人。ろくでもないやつだったみたいだよ、父はね
とあるルートで調べたんだけど、竜のお母さんを殺した後に私のお母さんを殺して、それから自分も死んだみたい。あまりにもやばいから、竜の探偵さんは見つけられませんでしたって回答をしたんじゃないかなと私は思うんだ。あの時お金いらないって言われたでしょ?
私は最初に竜に会ったその日から、ずっと竜だけを見ていた
あの寂しそうな表情、私はずっとそばにいるから。この人を守りたいって思ってた
竜がたまねぇのこと好きだったのは知っていたから、たまねぇが死んだって聞いた時内心ちょっと嬉しかったんだ。これで竜は私のほうを向いてくれるかもしれない、そう思って
そしたらこれだよ。『姉弟』。ふざけるなって感じだよね
竜が弟だって知った時は辛かった。苦しかった。悲しかった。もう普通の感情でいるのが無理だったよ
だからいつも変な歌を聴いたり、意味不明なことを口走ったりして胡麻化してたんだ。私ってなかなかの演技派女優でしょ?
これを今竜が見てるってことは、私はもうこの世にいないってことかー
改めて考えると、凄い怖いよねこれ。まだ18だよ私
追記
ここからは光ちゃんが合流した後に書いてます
光ちゃん、竜を守ってあげてね。そして竜は光ちゃんのサポートをするんだよ?
光ちゃんがいればこのプログラムから脱出できます。私のことなんて忘れて、2人で生き残って。それが私の願いです
You are my only You are my treasure.
I'd give you my whole thing even if you don't want.
Love is my only Love is my treasure.
Please close to me more and don't leave me alone.
私は竜が歌う『青いイナズマ』が大好きだったよ。Get you.
本原悠
読み終えた竜は放心状態だった。光は竜からそのスマホを借り受け、それを読むとこちらも同じように言葉にならない状態
変な歌ばかり聴いたり、突拍子のないことを言うそれが全て感情を隠すためのものだったというのだからその遠謀にはもう恐れ入るしかなかった
感情がどこにあるのか見えないと思ったのは当然だったんだな、と光は改めて思っていた
悠は感情を隠していたというより、完全に消していたんだと。そしてあの一言、「だから私は竜の傍にいる。誰かが竜を否定しても、私は絶対味方だから」
これだけが悠の本心だったということに
そして歌の英詩が丸々載っているのも気になったが、その歌詞を英訳するととても切なすぎてやはり言葉にならない
『姉弟』というのが全てだったんだな、と光は一人内心頷くしかできなかった
竜は完全に呆けてしまっているように見える。いつものクールな感じを装うともせず、ただひたすら呆然としている
悠を抱きかかえたまま、言葉も発せずに完全に硬直している
光はその様子に気づいて、あぁ、このままだとまずい。壊れてしまうと直感した
「竜さん、函館戻ったらカラオケ行きましょう」
唐突な申し出に竜は思わず目を丸くしているが、光の眼差しは真剣そのものだった。その眼差しのまま、しっかりと竜を見据えている
竜さんの『青いイナズマ』、私も聴いてみたいです、と
「生き残って、たくさん遊びましょう。私たちはまだ17歳なんですから」
光は正直、自分でも何を言ってるのかわからなかった。とにかく竜を励まそう、その一心で必死になっている
その心が通じたのか、竜は小さく「ありがとな」と呟いた
再び天を見上げて大きく息を吐くと、しみじみと首を振った
「さすがにすぐは切り替えれないけどな。けど、ここでこのままってわけには行かない。ましてさっきの騒ぎを聞きつけて誰か来るかもだしな」
言って、静かに悠をそのまま床に置いた。悠の両手を胸の前で組ませると、竜は小さく頭を下げた。ごめんな。一人にして、と小さく呟いた
その様子を黙って見ていた光だったが、同じように悠に向けて1度頭を下げた。竜さんは任せてください。絶対2人で生き残って見せますから。見ていてくださいね、と心の中で呟くと
「それじゃ行きましょうか。お昼ご飯は別の場所で食べましょう。私が作りますから」
そう言って微笑みかけると、竜はすぐに小さく頷いてみせた
「けどな、その前に」
竜は小さく笑みを浮かべると、お互いの服装を指差して見せる
「さすがにこの格好じゃやばいだろ。お互い血塗れだ」
竜の白いYシャツと光の白い夏服セーラーはそれぞれ悠や碧の血のお陰で真っ赤に染まっていた
さすがにこのまま外に出るのは躊躇うレベルのそれ
「私、代わりなんて持って来てないですよ?」
光はそう言ったが、すぐに竜の意図を察知した。そうだった、別に制服にこだわる必要はないんだということに
変な言い方するけど、もう人数はだいぶ減っている。よっぽど悪目立ちする格好じゃなきゃ、特に問題はないということだろう
「Yシャツくらい他にあるだろ。何だったら派手なドレス着てもいいんだぞ」
いつの間にか竜はタンスから別のYシャツを調達している。ほら、ここにタンスあるから好きなの選べ的なポーズを取っている
光がタンスの元へ来ると。竜はじゃあ着替えてくるなと言ってその場から去って行く
それで光は何を着ようかとしばしタンスを物色していたが、やがてすぐに見つけた。これだ、と
やがて竜が戻ってくると同時に、それじゃ私も着替えてきますと言ってすれ違うようにその場から離れる
ややあって光が戻ってくる。その姿を見て竜は思わず小さく笑みを浮かべている。おい、マジかと
光は黒のマント風な衣装を羽織って来ている
縦に赤い線が2つ入ったそれを着こなしている光は、「これでいいです。目立っていいですよね」と得意げな表情をしているので、思わず竜はまた小さく笑みを浮かべていた
「それじゃ悠さん、碧。私たちは行くね」
光は碧の両手を悠と同じように胸の前で組ませると、また小さく頭を下げた
それを黙って見ていた竜だったが、やがて自分のスマホを開いている
「どうかしたんですか?」と光が聞くが、竜は構わず何かを探している。ややあって、あった。これだなと独り言
やがて流れ出したのは”竹内力の『アルプスの少女ハイジ』”
「これ聴けばあいつも向こうで喜んでくれるだろ」
竜はまた天を見上げているが、光はその”曲”の破壊力にまた噴いている。すいません、追悼してるんですから空気を読んでください
けど悠さんなら...きっとこう言うんだろうな
「湿っぽいのは嫌いだぜ」、と
竜と光はどちらからともなく立ち上がった
光は悠の体の横にオロナミンCを1本置くと、先を行く竜の後に続いた
いい報告を期待しててくださいね、悠さん....