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お昼の放送が流れていた
例によって”ゲロ”による無駄にいい声によるそれは、淡々と禁止エリアと死亡した生徒、残り人数を告げるといつの間にか終わっていた
いつの間にか残り10人。とんでもないことになっているな、と樋口はしみじみ感じていた

「ちょっと待ってくれ。本原まで死んじゃったのか?」
相変わらず本麒麟を片手に和屋がそうぼやいている。追悼のつもりなのか、本麒麟を地面に置いて黙祷を行っていたが、やがて
「本原は死んだのに西崎と水木は無事なのか。仲間割れでもしたのかね」
しみじみと和屋がそう呟いているが、それはないだろうなと樋口は内心思っている。よくは知らないけど、あの2人が今更仲間割れで殺し合いをするとは思えなかった。ましてあの水木光まで一緒に居るわけで
誰かに襲撃され、本原悠だけが殺されてしまったというのが一番筋が通る気がする

「それにしても...もう残り10人か。これはやばいね」
安理がそう言ったので樋口もすぐにそれに頷く。まだ2日目の昼だというのに、もう”ゴール”が見えてきている状態
このままことが上手く運べば...いや、首輪があるんだよな。これをどうにかしたいんだが

樋口たち3人は先ほど激しい銃声音を聞いていた
わりと遠からずな場所から聞こえたそれはなかなかにやばい感じで、あぁ本当にプログラムなんだなーと感じさせるそれ
映画みたいだねーと安理がまるで他人事のように言っていたが、確かにと樋口は思っていた
目の前で人が死んでいるのも見たし、死体も見ている。ナタを持ってやる気満々だったオカマも見ているが、実際に銃を撃っている場面には遭遇していない
西崎たちが銃を持っているのは見かけたが、やつらは俺たちにはそれを向けて来なかったわけで
そいや棚町も銃を持ってたっけ。けど彼も既に鬼籍。改めて考えると恐ろしいことだな、と樋口は感じている

「やる気になってるやつが多すぎるんだろうな。今までそういうのに遭遇しなかったのは奇跡だろこれ」
和屋はまた本麒麟片手にそう嘯いている。ホントそれ、ホンマそれと樋口が思っていると安理も同感だったようで醤油サイダーを飲みながら小さく頷いている

とはいえ運だけで残り10人まで生き残れたのは事実。このまま驀進するしかないなと樋口は感じている
なせばなるの精神で行くしかない

3人は何となく歩いていると、遠方に家を発見した
とりあえずあそこを目指すかという感じで歩を進めていくと、やがて無駄に張り巡らされたピアノ線を発見する

「危ないねえ、誰だよこんな嫌がらせするのは」
ぼやきつつ安理は鬱陶しそうにそれを?い潜っている。和屋も大概怠そうにそれを避けている中、樋口は違うことを考えていた
この執念はえぐいな、と。念入りにもほどがあるこれを、わざわざ仕掛けているやつがいる事実
こういうことするやつがクラスにいたんだなと内心思っていると、ふと一人のクラスメイトの顔が頭に浮かんだ

刃長拓、同じ野球部員である彼。ねちっこいと言ったら語弊があるが、とにかく大雑把を嫌うあの男
自分のことはもちろん、人の失敗にも執拗に追及するやつならこういうことも好んでやりそうな気がする
そこまで考えて思い出した。やつも今さっきの放送で死亡が発表されたんだった、と
もしかしたらこの辺で死んでるかもしれないなー、などと不謹慎なことを考えていた

「おい、人が死んでるよ。刃長だこれ」
ようやくピアノ線地獄を抜けたと思った矢先、安理がそう叫んだので樋口は内心やっぱりかと思ってしまう
和屋はまた例によって刃長の死体の横に本麒麟を備えているが、ホントこいつは何缶持ってるんだと感心してしまっている
そして家が間近に見えて来たが、そこはまた惨い状況だった
ベランダの窓ガラスが派手に割れ散っていて、そこから見えたのは2人の女生徒の死体

「本原悠と戸叶碧か。意外な組み合わせだねこれ」
外まで血の匂いが凄まじい外の空間から、和屋は2人の死体を見てしみじみとそう呟いている
可哀想や、弔ってやらないとと言ってわざわざ玄関から中に入って行っていた
おい、待てと樋口が止めたがすでに安理もそれに続いているので樋口もしぶしぶそれに続く
中に入って改めて感じた。ここに入るべきではなかったということに
足の踏み場もないくらいにガラスが飛び散っているし、いたるところに血の跡。まだ硝煙すら感じさせるこの空間
また和屋は碧の元に本麒麟を置いて、それから悠の元にも置こうとして気づいた

「先に備えられてるじゃねーか。西崎か水木あたりがやったんだなこれ」
悠の元にあるオロナミンCを眺めつつ和屋がそう呟いていると、「おい、台所に美味しそうな料理が作られてあるよ」と安理がそう告げている
カツサンドとかた焼きそばがあるよ、と続けているがさすがにこの空間でそれを食べる気は起きなかった

「王子、さすがにここで食事はないだろ。早く出ようぜ」
樋口がそう告げると、安理は素直に台所から戻って来たのだが口にカツサンドを咥えている。うまいよ、これと言っている安理に対して呆れた表情を浮かべている樋口だったが、何か違和感を感じた
あれ、なんだろう今の違和感は...そう思っていると、不意に声がかかる

「おい、ちゃんこをくれ。あと飲み物もな」
いつの間にか何事もないように巨漢山尾光司が横に座っている。いるだけで驚きを隠せないのに、その手にはとんでもない銃が握られているので下手に刺激をするとまずいなこれと感じている
さっさとこの場からトンズラしないとな

光司は悠の元に置いてあるオロナミンCを痛飲している。こいつ罰当たりだなと思い樋口と和屋は思わず顔を見合わせて首を振っているが、光司は
「おい、早くちゃんこくれよ」とご機嫌斜めな様子
今にも銃を構えそうな光司を察したのか、安理が「山尾くん、ちゃんこはないけどカツサンドとかた焼きそば、いちごパフェなら台所にあるよ。そこじゃ食べにくいだろうから、台所で食べたらどうだい?」
平静を装った体でそう告げられると、光司は「お、気が利くじゃねえか。デザートまであるんだな」と言って喜び勇んでキッチンへ向かっていった

よし、今のうちに出ようと樋口は目で安理と和屋に合図を送る
言われなくてもわかってるという感じで安理は静かに玄関に向かい、和屋は悠の元へ改めて本麒麟を備えると小さく手を合わせた。樋口が早くしろと小さく手で招いたのを見て、和屋もすぐに続いた
3人は足早に家から離れ姿を消していった

光司はそれに気づくよしもなく4人分のかた焼きそばとカツサンドを堪能している
飲み物足りねえぞと愚痴るが、すでに誰もいないので届くはずもない。それに不満を覚えた光司は悠と碧の死体へ向けて銃をぶちかまそうとした矢先の出来事だった

目の前に立ちはだかる黒い壁。なぜか白いビキニを着た、テニスを得意なキングコングが目の前に佇んでいる
光司はついつい「おい、日サロ行きすぎだろお前」と声をかけてしまう
それで例によって目に涙を浮かべるなおみだったが、光司は気にもせずに今度はいちごパフェに夢中になっている

「多くの人に関心を持たれているのだと思う。どのようにバランスを保てばいいのかは分からないし、理解しようとしている」
なおみはそう言うと、いつものように有刺鉄線ラケットで光司に襲い掛かる
パフェに夢中だった光司は不意に殴られグラッと来たが、「おい、この黒人野郎。日焼けばっかしやがって!」と例によってサミングポーズで威嚇する

運悪く光司は銃を居間に置きっぱなしにしてきていた。なおみのラケット乱打は激しさを増していき、さしもの光司も血塗れズタボロ雑巾状態になっている
なおみのラケットも変形し、もう使い物にならない状態に見えかけていたが光司はまだ息絶えていない

「おい、香典をくれ。あと位牌もな」
そう言ってついに光司は力尽きた
それでなおみはラケットを放り投げ歓喜の笑みを浮かべるが、やがてすぐ涙を浮かべた表情に移行する

「私はプログラムで生き残る答えを探しています」
言って、ビキニ姿のまま残ったいちごパフェを貪り食うと足早にこの場から姿を消した