誰も望んでないのにビキニ姿をドヤ顔で晒すテニスが得意なキングコングには致命的な弱点があった
嗅覚は異常なほど優れているのだが、生徒が建物や家などに入ってしまうとまるで探せなくなるという単細胞脳筋ゴリラ
樋口たち3バカも何とか見つけた家で暗闇の中爆睡を敢行していて、竜と光も暗がりの中ロウソクだけで夜を過ごしている
禁止エリアなどによりゆっくり入れる家など限られているにもかかわらず、探すという選択肢はなおみの中にはなかった
早く出て来い水木光。お前は自殺するんだ...そう願いつつ、キングコングはつかの間の惰眠を貪っている
...水木、いい加減に起きたらどうだ?
光は体を揺さぶられてる感覚に気づき目を覚ます。いつの間にか眠っていたらしく、目の前に竜がいて小さく笑みを浮かべている
「あ、ごめんなさい」
竜の肩に寄り掛かっていたことに気づき、光は慌てて体を離した。カーテンがかかっていてもわかる、もう外はだいぶ明るい感じがする
ん、と今何時ですか?と言って、光は自分の腕時計を見て思わず驚愕している
「って、もうお昼過ぎてるじゃないですか。どういうことなんですか?」
腕時計が刺していたのは12時半を過ぎたところだったのだから、光が驚くのは仕方がないところ
いや、お前全然起きなかったじゃん。7時過ぎと8時過ぎにも起こしたけど、全然だったぞと言って竜は呆れたような表情を浮かべている。いや、マジで死んだのかと思ったぞと続けて
それじゃ、ずっと私竜さんの肩に寄りかかってたんですか?と戸惑いながら聞くと、竜は首を何度か左右に振っている。あぁ、すごい肩が凝ったと言って笑みを浮かべているので申し訳ない思いでいっぱいになり、光はごめんなさいと何度も頭を下げていた
「それは置いといてだ。ここ2時には出ないとダメだからな。3時に禁止エリアに入る」
相変わらず涼しい表情で竜がそう告げると、光はまた恐縮した様子を見せる
ホントにごめんなさい、相当疲れてたんですね私と言って自嘲気味の光を尻目に、竜は不意に立ち上がると
「さすがに腹減った。なんか作って来るから待ってろ」
言って、慣れた感じでキッチンへ向かっている。いつもすいませんと思いつつ、光は自分のスマホの画面を見ようとしたところ...悠のスマホに謎の着信があったことに気づいた
え、何で?と思いつつ光がそれを確認すると、『午後6時。廃墟前で待つ』とだけ書かれてあった。送り主不明で来たそれを見て光は戸惑いを隠せない
竜にすぐ伝えるかどうか、そもそも伝えないほうがいいのかなどと一人で逡巡しているとやがて竜がキッチンから皿を2つ持って戻って来た
悠のスマホを見て硬直している光に気づいたが、とりあえず竜は皿をテーブルに置いた
「早く食べろよ。時間そんなにないからな」
竜はそう声をかけつつ早速食べ始めている
光が皿の中を見ると”そばめし”が美味しそうな匂いを醸し出していて、インスタントで作ったからな。冷める美味くなくなるぞと言いつつ、竜は「悠のスマホがどうかしたのか?」と聞いてきた
それで光がこんなのが届いたんですと画面を見せると、さすがの竜も面妖な表情。何だこれと思わず呟いた後、一人上を見て何かを思案している
「度羅務環奈かこれ?」
竜はそう言って首を傾げている
残っている生徒を考えると確かに他に該当者はいない。けど、あの環奈がこんなことをするだろうか?と光も考えた素振りをしているが、竜はもう既に食事に戻っている
「早く食ったほうがいいぞ。所詮インスタントだ」
考えてもわからから無駄だぞと竜が促したので、光は頷いて食べることにした
「美味しいです」
一口食べて光が素直に感想を告げると、竜は日清に感謝しろよと言って小さく笑みを浮かべている
”香港やきそば”と米を一緒に炒めただけだと竜が言っているが、それでもソースの味付けとか完璧すぎますと光は感心していた
食事を終え、しばし歓談とまで行かないが竜と光は何事かを話している
先程来たメールは気にしないわけには行かないという結論が出た
すんなり廃墟に向かうのは危険だなと竜が言って、光はそれに同意した。廃墟に向かう前に首輪解除となおみを何とかしましょうと光がスマホの画面を見せると、いや、それは当然だろと竜はすぐに手を振っている
首輪解除しないことには廃墟行ったところで無駄じゃねーかと竜もスマホの画面に打ち込んでみせると、そうでした。ちょっといろいろあって動揺してますと素直に光が言ったので竜は小さく笑みを浮かべる
「頼むぜ、ケンブリッジが認めた才媛さん」
竜が茶化すように言うと、違います、私はスタンフォードが認めた才媛ですよと光は即答する
昨日と大学が違うぞと竜が突っ込むと、こまけえことはいいんだよとどっかの悠のモノマネで返してくる。お前も言うようになったなーと竜が感心していると、光はそろそろ出ましょうか。早め行動のほうがいいと思いますよといつもの凛々しい表情に戻っている
竜と光が家を出たのは結局2時過ぎ。早く出たい光と、時間ギリギリを希望する竜の凌ぎあいの結果竜の意見が優先された
そもそも早く出たいならあんなに爆睡すんなと竜が正論をかました結果、光は従うしかなかった
竜さん、卑怯ですよと光がジト目で見つめると、卑怯もラッキョウもないんだぞと真顔で竜が返したので光は思わず小さく吹いていた
廃墟の方向に進みつつ、竜は「ゴリラに気をつけろよ」と冗談交じりに何度も呼び掛けるので光は笑いを堪えるのに苦労していたが至って竜は真顔。ちょっとした物音が聞こえるたびに注意を払っていて、口調とは裏腹になおみを警戒しているのは明白
「さすがにアレに襲われたら敵わんからな」
そう言う竜の手にはマシンガンが握られていて、光もショットガンを手にしている
実際なおみが現れたら撃つ自信はあるかといえばもちろんないが、竜が「いいから持ってろ。お守りだ」と言ったので渋々という感じで手にはしているが、正直長時間持ち歩きたいものではなかった
幸いと言っては何だが、どうやらなおみは近くに居ないようだった
竜は光のほうを見ながら、「キングコング対ゴジラにはならなかったな」と意味あり気に言ったのでまた光は仏頂面
どういうことですか、私がゴジラだとでも言うのですか?と思わず大きな声を上げそうになったので、それはすぐに竜が制した
「悪い、言いすぎた。頼むから大声だけは出さないでくれ」
いきなり素に戻ったようにそう言いつつ、立派な建物を発見した竜は「ここなんていいんじゃないか? パソコンの1台や2台ありそうだ」
島に唯一ある庁のような建物。島の名前まではっきり書かれていたが光は「初めて聞く名前の島ですね。まだ知らないとこたくさんあるんだなー」と無駄に感心している
竜が促し2人は中に入る。所謂町役場的な感じのする環境で、パソコンが申し訳なさそうに2台置いてあるのが目に映った
光がすぐに電源を入れるとと無事起動してネットにも繋がったのを見て、竜に向けてサムズアップポーズをしてみせる
竜はじゃあ任せるからと言って、例によって建物の戸締りに余念がない
竜は大体察していた。無駄に物音を立てずに戸締りなどさえしとけば、あのゴリラに襲撃されることはないということに
その間に光はPC2台体制で態勢を整えている。なるほど、あぁ違うなどと独り言を頻繁に呟いているが、竜は近くにおらず2階の窓のカーテンを閉めたりなどしている
「近くには誰もいないな」
竜は光の元に戻って来る時に、両手に缶ジュースを手にしていた。どっちがいい?と聞かれ、光はオレンジジュースのほうを受け取った
ブドウスカッシュの封を切り飲みつつ、竜は「オロナミンCなかったな。悠がいたら文句言ってたぞ」と言って光が操作するPCの画面を見て感心している
2台を同時に操作しつつ、光は「もうすぐですよ」と言って竜のほうを見て微笑みを浮かべている
竜には何をやっているのかはわからなかったが、光は別に開いたスマホの画面でこちらが首輪解除ですね。もう1個のほうでキングコング討伐をしてみようと思ってますと自分で打って吹き出しそうになっている
そして光が続けた
『同時にクリックすれば対応しようがないと思うんですよ。最後のクリックするときになったら竜さんも一緒に押してください』
そう打ち込んだと同時に、また悠のスマホに着信音が鳴る
え?と光がスマホの画面を開くと同時に、ひっと言って驚いた表情でスマホを取り落とす
竜がそれを拾ってみる
『お前を見ているぞ。お前は知りすぎた』とだけ書かれたメールが届いていて、光は怯えた表情でがくがくと震えだしているが竜の反応はいたって冷静そのものだった
「やばいです。私もう死んじゃうかもしれない」
そう言って泣きそうになっている光だったが、竜はそのメールを見てひとりで首を傾げている
なあ、これ返信出来ないのか?と訊いていて、光は出来なくはないですけど...どうしてですか?と逆に聞いて来る
「多分な、俺この送信してきたやつの正体分かったぞ」
竜はそう言うと、光に何事か耳打ちする
そんな?嘘ですよね?というような表情を浮かべる光に対し、「いや、間違いないと思う。何が起きてるかはわからないが、どう考えてもあいつだ」と言って、送る文面の指示も出している
『平田だろ、お前! お前平田だろ!』
言われるがまま光はそう打つと、そのまま送信する。まったく意味が分からないが、竜がそれでいいと言うのだからそうするしかない状況
PCはもう電源落としたほうがいいな。いや落とさないとやばいかも知れんと竜が言ったので、さらに光の困惑は深まるばかり
返事はすぐに返って来た
「竜さん、着信です」
光はそう言って、スマホの画面を開いてみせる
『私は平田じゃねえよ! ギギギッガガガッ』
まるで機械のような擬音が表示されていて光は首を傾げているだけだったが、竜は納得したように頷いている
「あいつだな。もう俺らがすることはないようだぞ。6時になったらここを出て廃墟へ行くぞ」
竜がそう告げると、光にPCを切るように改めて指示する
渋々という感じで光がPCの電源を切ると、また悠のスマホに着信が届く
『私は竜と光ちゃんみたいにな、いちゃいちゃしたりな、恥ずかしい事は出来ねえんだよ!!』
もう正体を隠そうとすらしない文面に、思わず光は苦笑している。どういうトリックを使ったのかはいまだにわからないが、完全にこの文面が光の知っている彼女であった
『あなたは本原悠さんですね?』
光がそう返信しようとして、とりあえずそれを竜に見せるといいんじゃねーかと小さく頷いていたので即送信した
またもすぐに返事が返ってくる
『……そうだ。悪いかい?』
光はそれをまた竜に見せると、二人で顔を見合わせて笑みを浮かべていた