2学期の始業式の日を迎えた
祐里は東京から戻ってくるのは明日になると言っていて、2日間は欠席すると言っていた
つか悲惨ね、戻ってきたその日が実力テストですよお嬢さん
閑話休題、竜也は普段は祐里と登校するケースがほとんどだったので一人でチャリでの登校はなかなか新鮮な気分を感じていた
まあたまにはいいんじゃない、たまには
そう思いつつチャリを漕いでいると、前にクラスメイトが歩いているのが目に映った
「よっ、おはよう」
チャリの上から竜也がそう声をかけると、小柄なおかっぱ頭の少女の友利悠衣はちょっと驚いた表情を浮かべたが、やがて小さく笑みを浮かべた
「杉浦一人か。珍しいね」
悠衣はそう言った。何かそのまま素通りするのも気が引けたので竜也はチャリから降りて押しながら並走することにした。もうすぐ学校なんですけどね
「あら、一緒に行くの? もっと珍しいじゃない」
拒絶の空気はなかったので、竜也は内心安堵。コミュ障なのに、自分的には思い切った行動を取ったわけで
これで拒否されてたら人間不信と書いて失踪しないといけなかったからね(坂口征二ism)
「そいや”仲直り”は出来たの?」
悠衣は笑みを浮かべながらそう聞いてきた
竜也はチャリを押しながらの無言でのサムズアップポーズを受けて、悠衣はなぜか悔しそうな表情を浮かべていた
「何だよ、せっかくロスインゴのメンバーになれると思ってたのにさー」
悠衣はそう言った後まさかのゲラ笑い。周囲の人目を気にしないで豪快に笑う様子に、あらイメージと違うねこの子。と竜也は内心思っていた
「友利、正直スマンカッタ」
竜也がそう茶化すと、悠衣はますますゲラ笑いがエスカレートする。もしかして笑い上戸ですか?
「考えといてね。私はドラムでも何でもやるからさ」
どこまで本気なのかは不明だが、悠衣はそう言って再びニコッと笑った
やがて学校へ到着した
もうどうせなので、クラスまで一緒に行ってしまおうの精神でそのまま2人で教室に入る
想定外の”カップリング”成立状態に、登校済みの生徒たちか冷やかしの声が上がった
竜也の席は窓際の1番後ろという最強の席
いつものようにその席へ向かうと、竜也の前の席に座る裕太郎が後ろから3番目に座っていたのでちょっと違和感を覚えた
あれ?
竜也がそう思い、目視で机の数を数えると7個と1つ多くなっていることに気づいた
とりあえず後ろから2番目の席に竜也が座ると、裕太郎が振り向いていつもの不敵な笑みを浮かべた
「やあ杉浦ちゃん、おはよう」
竜也がおはようと返すと、裕太郎の笑みは恒例の卑猥なそれに変わった
「なんか席増えてるよな。転校生来るね、これマジ」
そう言うと、裕太郎は前を向いて机にうっ伏した。ああ、眠いのね。お疲れ様です
竜也がカバンの整理をしていると、今度は直が寄って来た
そしてそれに続いて梨華と光も一緒に竜也の席の元へ。あれ、ずいぶん俺人気者じゃん
「おい杉浦。新しいパレハは友利か?」
直が笑いながらそう言うと、竜也も笑いながら手を振ってそれを制した
「ないない。つかそもそもすっかり忘れてた」
素で竜也がそう答えると、梨華もいつもの真顔で頷いていた
しかし光はちょっと思案した様子で、何度か首を傾げていた
「この席が気になるのよね。何で1つ増えてるのかしら。多分転校生なんだろうけど...竜ちゃん、まさかそれが新しいパレハ?」
光はそう言った後、意味深に不敵な笑みを浮かべてから続けた
「けど竜ちゃん、人見知りだったわね。転校生をパレハなんてできるわけないわね」
言うだけ言って、光は手を振って自分の席へ戻って行った。直と梨華も光と同じように自分の席へ戻って行き、やがて息を切らした感じで岡田倶之が竜也の横の席にやって来た
「あぶねえ、遅刻するとこだった」
倶之はやや疲れた表情でそう呟くと、竜也の後ろの空席を見てちょっと驚いた表情
「どうした。また関係ないマンションに入ろうとしたのか?」
竜也が笑いながらそう聞くと、倶之は狼狽えた様子を隠しきれなかった
「これってフライデーに載るんですか? 勘弁してくださいってオイ。毎回誰と勘違いしておるのじゃ」
そう言って、倶之も笑って頷いた
やがてすぐチャイムが鳴り、二人は顔をそれぞれ教卓のほうへ向けた
そうというのも、担任の大城康平はとにかく時間に正確すぎるわけで。大体チャイムが鳴ると、ほぼすぐ教室に現れるのが常だった
始業式の今日も、またどうせすぐ来るのだろうと踏んでの行動だったが、今日に限ってなかなか現れないのは意外だった
数刻後、前方の戸がようやく開いた
いつもの感じで大城康平が入って来て、それに続いてもう一つの影
そのシルエットを遠目で見ているうちに、竜也の眼は驚きからどんどん丸くなっているのを自分でも感じた
そして同じように驚きの表情を浮かべた光と直は、それぞれ竜也のほうを見てちらっと笑っていた
「みんなおはよう。そして転校生を紹介するぞ」
大城の隣に立っている転校生、それはあの文化祭で一際目立っていた可愛い少女そのものだった
竜也が思わず一目惚れを隠しもしなかったその子が、まさか転校生としてクラスに現れるとは
しかもこのままだときっと...
「赤名舞です。よろしくお願いします」
はっきりとした口調でそう言った舞は、視線を泳がせて誰かを探している様子に見受けられた
「赤名はアメリカの学校から来たんだったな。席は窓際の一番後ろだ」
大城がそう言うと、舞はその席のほうを見て...そして、満面の笑みを浮かべた
一瞬目があった気がした気がした竜也だったが、まあ気のせいよと思ってあえて知らぬ存ぜぬに徹することにした
そもそも俺は陰の者だしね
やがて舞は着席ということで、自分の席のほうへ向かってきた
窓から外を眺めていた竜也に対して、
「稜西文化祭の主役さん、よろしくね」
舞の通った声がクラス中に響き、ちょっとしたどよめきが起こった
思わず吹き出しそうになった竜也だったが、あえて平静を保つために外を見たまま返事をしなかった
いや、今のは陰の者にはかなり効くよ。Tranquilo.じゃいられないね
その後は全校集会
校長先生のありがたい長いお話の間、竜也と直はマジかよという話題で夢中だった
すっかり忘れていたあの”少女”が再び現れた、それだけでも衝撃だったのに。。
明らかに、竜也に対して好意を持ったままの登場。そして態度
「お兄さん、どうすんのよ。フラグはすでに立ってるぞ」
直がからかい半分でそう聞くと、竜也は明らかに戸惑った表情で首を傾げるだけだった
「なあ、こういう時どうすればいいんだ。俺わかんねーわ」
いつものスペイン語交じりが出来ないくらい、明らかに動揺した様子の竜也に直は思わず苦笑した
普段はほとんど表情を変えない竜也なのに、今は明らかに挙動不審を伴う顔面蒼白状態
ライブの最中ですら何とか鉄仮面を被ったように(パレハマスク被ってるしね)表情を変えずにいられているにもかかわらずだ
集会が終わり教室に戻る最中も動揺を隠せない竜也に気づいたのか、梨華と夏未、光も竜也の元へやって来た
「杉浦大丈夫? 顔色悪いわよ」
心配そうに聞く梨華、そしてそれに同意を示す夏未だったが、光は小さく笑みを浮かべていた
一方の舞は、あえて近づかないようにしているのかそれとも違うのか。委員長の悠衣に寄って行って、いろいろ話していた
まあ学校のことや、クラスのことを聞いているのだろうと様子を見ていた直はそう感じていた
やがて教室についた
「ま、頑張れ。別に殺されるわけじゃないんだし」
直はそう言って竜也の肩をポンと叩くと自分の席へ。梨華、夏未もそれぞれ戻って行ったが、光は竜也が席に着くまで一緒にいた
そして竜也は席へ着くとそのまま机に突っ伏した。それでもあえて光はその竜也の横にしばし佇んでいたが、やがて舞が自分の席の元へ来たのを見て、光は小さく頭を下げると自分の席へ戻って行った
始業式だけなので、今日は授業はなし
大城によるホームルームが行われた後、すぐに放課後になった
いつもなら恒例のファミレス定例会議が行われる展開なのだが、竜也は「今日はパス。勘弁して」と早々に下校。直も「悪りぃ、部活だわ」と辞退したので、光、梨華、夏未の3人の”女子会”が行われただけだった